『State of the World’s Birds』(世界の鳥類の状況:2022年版)が示すかつてないほどの自然の危機

バードライフの研究活動の成果をまとめた報告書『State of the World’s Birds』が新たに発表されました。世界の鳥類の約半数が減少しているという、自然界にとってこれまでで最も懸念すべき事態が報告されました。この報告書は、私たちが生物多様性の危機の真っ只中にいることを一層強調すると同時に、自然を救うために私たちが何をすべきかを示すものでもあります。そして、そうした解決策を迅速に実施するためには、政治的な決断、そして財政面での対応が急務です。

公海を優雅に飛ぶアホウドリ、人里離れた熱帯雨林の奥深くで巣を掘るニワトリに似たマレオ、水深50メートルまで潜るコウテイペンギン、大都市にそびえる高層ビルの上に巣を作るハヤブサなど、鳥は地球のおよそどこにでも生息し、地球の健康状態を示す重要な指標となっています。

世界で保全科学を牽引するバードライフは、4年毎に世界の鳥類の現状を報告する『State of the World’s Birds』を発行しています。この報告書は、研究者、自然保護活動家、市民科学者等が精力的に収集したデータを解析しまとめたもので、鳥類の窮状や直面する脅威、鳥類保護のため必要な緊急措置が明らかにされています。鳥の鳴き声は、世界のどこにいても聞くことができます。この報告書は、この極めて多様な鳥類の状態だけでなく、自然界の状態も伝えているのです。

しかし、『State of the World’s Birds』の最新版では、これまでで最も危機的な状況が報告されています。世界の鳥類の半数近くが減少傾向にあり、個体数が増加しているのはわずか6%にすぎません。そして8種に1種(合計1,409種)が絶滅の危機にさらされています。1970年以降、北米だけで30億羽近く、さらにその5分の1の面積に過ぎない欧州連合でも1980年以降6億羽が失われたと推定されています。

これらの地域の種については、長期的な個体数データがそうした動向を明らかに示していますが、地球上の他の場所でも同様の壊滅的な減少が見られると指摘されています。例えば、日本では1850年以降、森林と湿地に生息する固有種が其々94%と88%減少したと推定されています。一方、ケニアの猛禽類は1970年以降、平均して4分の3ほど減っています。

バードライフのサイエンス・オフィサーであり、『State of the World’s Birds』の主執筆者であるLucy Haskellは、「私たちは、過去500年間で160種以上の鳥類を失っており、絶滅のスピードは加速しています。歴史的に見ると、絶滅のほとんどは島嶼に生息する種でした。しかし、大規模な生息地の喪失によって、大陸部でも絶滅の波が押し寄せている現状を大変危惧しています」と話しています。

1970年以降、ケニアではヘビクイワシが推定94%減少している © Hans Wagemaker/Shutterstock

 

減少の要因

本報告書では、鳥類の劇的な減少だけでなく、その主な要因についてもまとめられています。世界中で鳥類はさまざまな脅威にさらされていますが、そのほとんどは人間の行為によって引き起こされています。例えば、農業は、鳥類の重要な生息地へも拡大し、また集約化による機械や化学物質の使用増加も主な脅威となっています。少なくとも絶滅危惧種の73%に影響を与えています。

農業の拡大と集約化は、世界の鳥類にとって最大の問題である © Alf Ribeiro/Shutterstock

ヨーロッパでは、1980年以降、大陸の農地に生息する鳥の数が50%以上減少しています。さらに南下したアフリカでは、草地から農地への転換により、わずか15年でニセヤブヒバリ(IUCNカテゴリーで「深刻な危機」)の生息数が80%減少しています。エチオピアの固有種である同種は、現在わずか2カ所にて繁殖期のつがいが50組しかおらず、迅速な保護活動が行われない限り、現代では、アフリカ大陸で初めて絶滅した鳥となるでしょう。

持続不可能な森林の伐採と管理も大きな脅威となります。毎年700万ヘクタール以上の森林が失われ、その面積はアイルランド共和国より広く、世界の絶滅危惧にある鳥類の約半数に影響を与えています。特に、世界最強の猛禽類であるオウギワシのような、大きな老木に依存する種が影響を受けています。オウギワシは、南米の熱帯雨林に生息し、サルやナマケモノなどの獲物を狩っていますが、営巣に適した木の90%が伐採の対象となっており、バードライフがIUCNレッドリストで絶滅の危険度を、危急に格上げしています。

伐採の対象となることが多い原生林の大木に巣を作るオウギワシ © feathercollector/Shutterstock

また、気候変動はすでに甚大な影響を及ぼしており、絶滅危惧種の34%に影響を与えています。これまでにはないレベルの暴風雨、山火事、干ばつが引き起こされ、その影響は今後数年で急速に拡大すると考えられます。さらに、漁業による混獲、乱獲、侵略的外来種など、歴史上、鳥類絶滅の主な原因となってきた脅威が、個体数の減少に拍車をかけています。

 

明るい未来のために

これらの調査結果が極めて憂慮すべきものであることは間違いありませんが、『State of the World’s Birds』では、自然を救うための重要な解決策も明示されています。そして今、自然界の10年戦略である「グローバル生物多様性枠組み」が最終決定、採択される、多様性条約締約国会議(CBD COP15)が12月に開催される予定であり、それに向けて各国政府が準備を進めている重要な局面を迎えています。

バードライフのCEO、Patricia Zuritaは「鳥たちは、私たちの自然環境の健全性について教えてくれます。彼らのメッセージを無視することは危険です。人間が作り出した生態系が気候変動へ適応しきれずに、世界の多くの地域で、異常な山火事、干ばつ、熱波、洪水が発生しています。COVID-19の大流行や世界的に生活するための費用が高騰したことで、環境問題への意識が薄れてきてしまっているかもしれません。しかし、グローバル社会として、生物多様性の危機に継続的に注目することが大切です」と伝えています。

多くの絶滅危惧種を守るために最も重要な解決策は、鳥類が依存している場所を効果的に保全し、回復することです。バードライフは13,600以上の重要生息環境(IBA)を特定しました。これは、より広い概念である生物多様性重要地域(KBA)の中に位置しています。世界の陸地と海域の30%を保護するという約束の機運が高まっていることから、これらのサイトがさらなる保護区指定のための一例として利用されることが重要です。これと並行して、離島からの外来種の根絶や、種固有の保全活動の実施など、その他の脅威への対処も、多くの絶滅危惧種にとって不可欠です。

 

希望

自然界は絶望的な窮状にありますが、鳥類から希望を得ることもできます。保護活動が功を奏して、種が保たれ、自然が回復できることが示されています。例えば、2013年以降、世界的に絶滅の危機にある鳥類726種が、バードライフのパートナー団体の活動により救われました。また、パートナー団体のアドボカシーにより、450のIBAが保護区に指定されました。Aves Argentinas(バードライフのアルゼンチンのパートナー)による精力的な保護活動の結果、マル・チキータ・ラグーンを守るために2022年にアンセヌザ国立公園が設立され、アンデスフラミンゴ(危急種)を含む50万の渡り水鳥が保護されたことは、その一例です。

「悲惨な状況であることは否定できませんが、この減少を逆転する方法は残っています」とバードライフ・インターナショナルのチーフ・サイエンティスト、Stuart Butchart博士は話します。「我々の調査によると、保護活動が行われていなければ、1993年以降に21~32種の鳥類が絶滅していました。モアリシャスホンセイインコ、カリフォルニアコンドル、ホオアカトキ、クロセイタカシギなどの種は、バードライフのパートナー団体をはじめとする多くの組織の献身的な努力なしには、博物館でしか見ることのできない鳥になっていたでしょう。私たちがチャンスを作れば、自然は回復できるのです」。

鳥類を保護することは、人間にとっても素晴らしい結果をもたらします。鳥は植物の受粉や農業害虫の駆除を行うほか、長距離を移動して種子を運ぶため、熱帯雨林の長期的な炭素貯蔵に欠かせません。 また、生息地を保護・回復することは、気候変動の取り組みとして最も費用対効果の高い方法です。さらに、鳥類と人間の健康の関連性について証明されるデータも増えてきています。

2022年の『State of the World’s Bird』は、私たちが前例のない生物多様性の危機の真っ只中にいることを明示していますが、報告書の事例は、自然保護は意義があることも証明しています。今こそ、政治・経済において自然を最重要課題に据え、迅速な行動に移す時です。

IBAの多くは先住民の土地と重なっているため、地域コミュニティと密接に連携して保護することが重要 © Dwayne Reilander

バードライフ・パートナーシップは、絶滅の危機に瀕しているソシエテマミムナジロバトの最後の生息地であるActeon Gambier島を含む30以上の太平洋諸島から侵略的な哺乳類の集団を駆除することに成功した © Marie-Helene Burle/Island Consevation

2022年版「State of the World’s Birds」

原文はこちら

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