公海の生物多様性を守る新しい条約が締結
公海は、地球の表面の半分近くを占めており、多くの生物にとって重要であるにもかかわらず、これまでほとんど管理されてきませんでした。この度、その公海に関する画期的な新条約が策定されました。この条約は、遠洋の自然を保護するための希望にあふれた一歩であり、生物多様性の危機を回避するために必要な国際協力のあり方を示しています。
生物多様性条約が、自然界を守るための10カ年計画「生物多様性枠組」を発表し、その中で「陸と海の30%を保護する」という約束がなされました。陸上で生活をする私たちの関心は、当然、陸上の環境、あるいは海岸線に近い海洋環境に向けられます。しかし、岸から200海里離れ、どの国にも属さない公海は、海洋の半分以上を占めています。この海域は、多くの海洋生態系とそこの生息する種に欠かせない自然環境であり、例えば、バードライフが主導した調査によると、海鳥の40%近くはこの遠洋の上空で過ごすことが分かっています。本当に意味のある規模で自然を保護するためには、公海での私たちの行動を管理することが極めて重要です。
最近まで国際社会はこの広大な海域を「見えないところ、気にならないところ」と考え、公海の大部分はほとんど管理されてきませんでした。しかし、この度、公海の保護にとっては画期的な出来事となる、国家管轄権外区域海洋の生物多様性(BBNJ、marine Biological diversity Beyond areas of National Jurisdiction)協定と呼ばれる新しい条約が締結され、自然保護関係者は大いに喜びました。
ニューヨークの国連本部で2週間に及ぶ濃密な議論を経て締結されたこの協定は、公海における私たちの活動を管理し、人類共通の資源として認識されるための基盤となるものです。この協定は、15年以上に渡る交渉を経て、初めて各国が公海上に海洋保護区(MPA)を提案・設置するための枠組みを示したものです。これは、サルガッソ海のようなユニークな生態系やそれに依存する多様な種を長期的に保護するためには、希望に満ちた一歩となります。
この協定の役割は、これらの極めて重要な場所を正式に保護するための道筋を作るだけではありません。保護区以外で、水産養殖やエネルギー設備などの活動が環境に与える影響を評価し、そうした影響を管理するための基本的な要件を定めています。この条約のもう一つの重要な要素は、公海の資源から利益を得る国々の不平等を解決しようとするものです。遠洋という性質上、歴史的に見ても、公海で採取された遺伝子サンプルから生み出される科学的発見や商業製品の利益を享受してきたのは、ほんの一握りの先進国だけでした。そこで新条約では、金銭的、非金銭的を問わず、公海から得られる利益が発展途上国へも公平に分配されるよう、さまざまな枠組みを定めています。
この条約は、海洋保護と地球全体の未来にとって歓迎すべきニュースであり、おそらく1982年の国連海洋法条約以来、海洋管理における最大の進歩と言えます。
「まだ採択と批准が残っていますが、15年に渡る交渉と準備委員会を経て条約本文に合意したことは、海洋の生物多様性保全にとって本当に重要なことです」と、バードライフ・インターナショナルのグローバル海洋政策コーディネーター、Susan Waugh博士は話します。「今、公海は、人間活動を管理する適切な枠組みを持ち、何よりも、この重要な生態系の保護を可能にするメカニズムが確保されました。BBNJの合意により今後、公海上に海洋保護区を作り、管理することが可能になります。公海は、地球表面の半分を占めていることから、生物多様性だけでなく、地球の気候にとっても重要なのです」。
地域漁業管理機関 公海漁業組織と協力して混獲を減らす対策を実施したり、数千羽の海鳥を追跡してその種にとって最も重要な場所を特定するなどし、60万平方kmのNACES(North Atlantic Current and Evlanov Sea basin、北大西洋海流とエブラノフ海流域)を海洋保護区として指定するために重要な役割を果たした実績を持つバードライフは、公海での自然保護を続けていきます。
報告者:Liam Hughes
原文 “Landmark new treaty paves the way for the protection of the High Seas”