ワタリアホウドリのヒカリちゃん成長記

お留守番中のヒカリちゃん

2024年4月から11月にかけて多くの皆さんに一緒に見守っていただいた、ワタリアホウドリのヒカリちゃん。釣り針を飲み込んでしまい心配でしたが、無事に巣立つことができました。ブログ記事の執筆・公開がだいぶ遅くなってしまいましたが、今回はヒカリちゃんの成長過程を振り返ります!

 

ヒカリちゃんの誕生
実は当初、他のワタリアホウドリ家族のことをシーズンを通して見守る予定でした。それは2022年に皆さんに見守っていただいた、ツムギちゃんのパパ(トモル)さんとママ(ルリ)さんが無事に島に戻り、ひなちゃんが生まれることを想定していたからです(ツムギちゃんの成長記はこちら)。でも悲しいことに、抱卵期終盤の2月下旬になってもどちらも島に帰ってきませんでした。そのため、現地の調査員さんが他の家族を選ぶことに。新たに選ばれた夫婦の元には、3月上旬頃にひなちゃんが無事生まれていました。最初に現地から届いた写真では、ひなちゃんが親鳥さんに守られながらも可愛らしいお顔を見せてくれました。

ヒカリちゃんの初お披露目

名前付けコンテストでは、沢山の方々から素敵な名前のアイデアを送っていただきました。悩みに悩んだ末に決まったひなちゃんの名前は、ヒカリちゃん。「輝く海と明るい未来に向かって元気に巣立って欲しい」という願いが込められています。パパの名前はシュンさん、ママはミサキさんに決まりました。

 

お友達と一緒にお留守番
ヒカリちゃんが1か月齢ほどにもなると、1羽でのお留守番が始まります。食欲旺盛なヒカリちゃんのために、シュンさんもミサキさんも同時に海に餌を探しに行くためです。その頃には親鳥さんに温めてもらわなくても体温調節ができるようになりますが、冷たい雨や霧の日もあります。羽が濡れてしまって寒そうなヒカリちゃんの姿を見たときは、ちょっと心配になってしまいました。でも実は、ヒカリちゃんには心の支えが。それはすぐ近くで同じくお留守番をしているお友達。ワタリアホウドリの巣が密集することはないのですが、場所によってはお隣さんが近くにいるんです。ヒカリちゃんの巣も近所のお友達が見える距離で良かった!

霧の中でお留守番するヒカリちゃんと近所のお友達

その後も順調にスクスクと育つヒカリちゃん。モフモフ度が増して、体がだいぶ大きくなってきました。小さかった頃はシュンさんやミサキさんと一緒でも巣に体がすっぽりと入るほどでしたが、今ではその巣からちょっと体がはみ出ちゃうくらいまでに成長しました。亜南極に浮かぶサウスジョージア島では、冬(南半球なので日本の夏の時期)の気温はマイナス10℃ぐらいまで下がるのですが、フワフワ・モフモフな綿羽が防寒に役立ちます。特に今シーズンは繰り返し大雪が降ったため、お留守番中に命を落としてしまうひなちゃんもいるほど過酷な状況でした。そんな厳しい環境の中で、幸いヒカリちゃんとご近所のお友達は一緒に寒さを乗り越えることができました。

巣からはみ出るくらい成長したヒカリちゃん            (手前は海から戻ったミサキさん)

 

漁業の影響
成長の過程で、大人っぽい濃い色の羽への生え替わりが起こります。ここまでくると、ヒカリちゃんが変身していく姿を見ながら、巣立ちを心待ちにする日々となります。とある日、だいぶ変身が進んだヒカリちゃんの元に、シュンさんが美味しい餌とともに海から戻ってきました。大きな翼を広げて見せるシュンさんが、ヒカリちゃんの目にはどんなにカッコよく映ったことでしょう!

ヒカリちゃんの前で3m以上もある翼を広げるシュンさん

餌をもらえるもぐもぐタイムは、どのひなちゃんにとっても長いお留守番中の楽しみです。そんな美味しいごはんに、実は危険が潜んでいることは、ひなちゃん達が知る由もありません。親鳥さんが海で見つけた餌には、商業漁業で使われる釣り針が隠れていることがあります。それを知らずに食べてしまった親鳥さんが、ひなちゃんに餌を与える際に、釣り針も一緒に与えてしまうのです。こんな悲しい出来事が後を絶たないことから、近年サウスジョージア島では、毎シーズン50羽のワタリアホウドリのひなちゃんを対象に、金属探知機を使った調査が行われています。周辺海域の漁業は厳しく管理がされているため、釣り上げた魚の不要な部分(残渣)が投棄される際は、釣り針が混じることはないそうです。そのため、親鳥さん・ひなちゃんが誤飲してしまう釣り針は、まだ管理が行き届いていない南米沖における商業漁業の残渣由来が多いと考えられています。

今シーズンの調査では、ヒカリちゃんも金属探知機の調査対象になっていました。調査前半ではヒカリちゃんに金属反応は出ていなかったのですが、9月末の調査でついにヒカリちゃんの胃の中にも釣り針が入っていることが判明しました。その時点で、ヒカリちゃんのお友達14羽も同様に釣り針が胃の中にあることが分かりました。50羽中15羽とは、かなり高い割合です。中には胃酸で釣り針が溶ける場合もありますが、早く吐き出せることに越したことはありません。みんなお腹の中で針がチクチクしていないか心配しつつ、すぐに吐き出せますようにと願わずにはいられません。各国政府による漁業活動のモニタリングの徹底を含め、漁業管理の改善が強く求められます。

 

大海原への旅立ち
立派に成長したヒカリちゃんの体の大きさは、親鳥さんと同じくらいになりました。羽の生え替わりも進んですっかり大人っぽくなったヒカリちゃん。でも親鳥さんが巣に戻ってくると、餌のおねだりをしてまだまだ甘えん坊さんです。この頃身体測定も行われたのですが、体重は約11㎏で、シュンさんとミサキさんがしっかりと餌を与えていたことが分かりました。また、くちばしのサイズの測定値から、ほぼ確実に女の子と判明しました。

大人っぽい姿になってもまだまだ甘えん坊なヒカリちゃん

そして11月下旬には、3日連続でヒカリちゃんの姿が島のどこにも確認されなかったので、巣立ち認定となりました。実はご近所さんのお友達が巣立ったばかりで、その後を追うようにヒカリちゃんも巣立ったとのこと。一緒に長い間お留守番をした近所のお友達同士は、巣立ちもほぼ同じタイミングとなるほど仲良しだったんですね!

ヒカリちゃんの巣立ち後、金属探知機を使って巣の周りを調べましたが、残念ながら釣り針を吐き出した形跡はなく。巣立ちに向けて巣から離れたところまで移動した際に吐き戻せたか、釣り針が胃に残ったまま巣立っていったかは分かりません。これからの数年間、ヒカリちゃんもお友達も陸地に足をつけることなく、とても長い海の旅が続きます。今回のような漁業の残渣に混ざっている釣り針や、漁具にかかって命を落としてしまう混獲など、海での生活には危険が潜んでいます。そんな厳しい環境の中、どうかどうか、いつまでも元気でいてくれるようにと願っています。ヒカリちゃんが大人になって島に戻り、ママとなって子育てする姿も見守れる日を、皆さんと一緒に楽しみにしながら待とうと思います!

写真向かって右がヒカリちゃん、左がお友達                   (真ん中はオオフルマカモメさん)

写真撮影:Liz Holmes、Pete Tarrant(英国南極観測局)

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