海洋・海鳥の保全
絶滅の危機に瀕する海鳥
鳥類の中でも海鳥は急激に数を減らしています。IUCN(国際自然保護連合)によると、約360種の海鳥の30%程、アホウドリに至っては22種のうち15種で絶滅が危惧されており、早急な保全対策が求められています(IIUCN2022)。海鳥の数の減少は様々な人為的影響によるものが多く、特に漁業による混獲は、外来生物による捕食や気候変動と並び、個体数減少の三大原因となっています。海洋には国境はなく、海鳥の保全はグローバルで進める必要があります。
海鳥の混獲問題と対策
混獲とは、漁業において対象とする魚種以外の種が一緒に捕獲されてしまうことで、これには漁業対象以外の魚種に加えて、海鳥、ウミガメ、海洋哺乳類などが含まれます。はえ縄漁の釣り針にかかったり、刺し網に絡まったりするなどにより、莫大な数の海鳥が命を落としています。
- ・はえ縄漁
- はえ縄漁による混獲では、毎年少なくとも16万羽の海鳥が犠牲になっています(Anderson et al. 2011)。アホウドリ類や大型のミズナギドリ類は、潜水が得意ではなく、海面付近の魚やイカを餌にしています。マグロやカジキなどを対象とした浮はえ縄漁では、釣餌として魚やイカを海に投入しますが、これらは、海鳥にとって魅力的な餌となります。海鳥は餌を釣針ごと呑み込んでしまうので、釣針が喉にひっかかり、そのまま海中に引きずりこまれて溺れ死んでしまうのです。対策として、科学的に効果が実証された混獲回避措置(ミティゲーション)が確立されており、各海域のまぐろ類地域漁業管理機関(RFMO)ごとに、使用する混獲回避措置が決められています。選択肢がいくつかありますが、日本の漁業者によって考案されたトリライン(トリポール)と呼ばれる鳥よけは、混獲を防ぐ効果が高いことで知られており、最も普及している混獲回避措置のひとつです。その他の主な対策として、漁具に錘をつけることで餌と釣針を早く沈める加重枝縄、海鳥が活発でない時間帯に漁具を仕掛ける夜間投縄があります。
- ・刺し網漁
- 刺し網漁は、カレイやイワシ、サケなど、様々な魚種を対象としているので、水中に仕掛けた網で「網の壁」を築いて魚を捕らえます。刺し網漁ではウミスズメ類やウ類などの、主に小型の潜水性海鳥が犠牲になります。海鳥が採餌をしている潜水中に漁網に絡まり、溺れ死んでしまうのです。刺し網漁による混獲では、毎年推定40万羽の海鳥が命を落としており、中でも北太平洋はバルト海と並んで、最も被害が深刻な海域であると明らかになっています(Zydelins et al. 2013)。はえ縄漁による混獲とは異なり、効果のある技術的な混獲回避措置や、対策実施についての国際規則は未だに確立されていません。
- ・トロール漁
- トロール漁は、大きな網を漁船の後部から曳航して魚を獲る漁法です。網を引くケーブルや、網の位置を監視するためのケーブルに海鳥が衝突し、そのまま海中に引きずり込まれて犠牲になっています。トロール漁では死体が回収できないこともあるため、世界的にトロール漁における混獲数は明らかになっていませんが、毎年おそらく10万羽程のアホウドリ類やミズナギドリ類が命を落としていると考えられています。はえ縄漁の混獲回避措置として使用されるトリラインは、トロール漁でもケーブルから海鳥を遠ざける効果があります。また、不要な漁獲物や魚の内臓を海へ廃棄しない、もしくは制限することにより、トロール漁船が海鳥をおびき寄せてしまうことを軽減できます。
海鳥が直面している脅威や、混獲のメカニズム・対策をアニメシリーズにまとめたので、是非ご覧ください。
参考文献
- Anderson, O.R., Small, C.J., Croxall, J.P., Dunn, E.K., Sullivan, B.J., Yates, O., Black, A. (2011) Global seabird bycatch in longline fisheries. Endang. Species Res. 14, 91–106.
- IUCN Red List Database, accessed 2022, www.iucnredlist.org
- Zydelis, R., Bellebaum, J., Osterblom, H., Vetemaa, M., Schirmeister, B., Stipniece, A., Dagys, M., van Eerden, M., Garthe, S. (2009) Bycatch in gillnet fisheries – an overlooked threat to waterbird populations. Biol. Conserv. 142, 1269–1281.
バードライフの海洋プログラム
海鳥混獲の削減と生息環境の保全、そのためのネットワークづくりを目的として、バードライフは、1997年に海鳥保全プログラムを設立しました。近年、マリーンIBAの選定を通して、海洋全体に保全活動が広がったことを受け、2014年、これまでの海鳥保全プログラムを改め「バードライフ・インターナショナル海洋プログラム(BirdLife International Marine Programme)」を立ち上げました。現在、20名のグローバルチームメンバーと15名のアルバトロス・タスクフォース(アホウドリ類保全のために編成された特別チーム)のメンバーが海洋・海鳥の保全に取り組んでいます。
はえ縄漁による海鳥の混獲には、混獲を回避する漁具の開発や、アルバトロス・タスクフォースによる漁業者への直接指導、漁船の監視員の派遣、グローバルチームによる各国政府やRFMOへの保全の働きかけなど様々な活動を行っています。日本国内でも、水産物を扱うサプライチェーン向けのセミナーの開催や、漁業関係者・行政などへの働きかけを行っています。
刺し網漁による海鳥の混獲問題に対しては、これまで海外の研究者らと共に複数のワークショップを開催したほか、海外、特に欧州においてパートナー団体と漁業者と共同で、混獲回避措置の開発・検証実験を行っています。国内では日本野鳥の会と共に、羽幌町(北海道)にて漁業者の協力のもと、混獲回避策の洋上実験を実施しました。また、国内で混獲リスクが高いと推定される海域の選定も行いました。現在は、北海道大学の研究者と羽幌町周辺の漁業者と共に、刺し網漁と海鳥混獲のデータ収集を行っています。同研究者、葛西臨海水族園、漁業者と共同で、混獲回避策の開発にも取り組んでいます。
トロール漁においても、アルバトロス・タスクフォースが漁業者や行政と共同で、海鳥混獲問題に取り組んでいます。南アフリカやチリでは、トリラインを導入することにより、トロール網のケーブルへ衝突して命を落としてしまう海鳥の数が大幅に削減されています。南アフリカでメルルーサを獲るトロール漁では、アホウドリ類の混獲を99%削減することに成功しました。
混獲問題への取り組みや海鳥にとって重要な海域の特定など、当プログラムの活動を冊子で紹介しています(下記画像をクリックしてください)。
漁業による混獲を削減するための世界的な取り組みと解決策の事例集、「海鳥に安全な漁業を目指して」改訂版(2021)はダウンロードいただけます。
はえ縄漁における混獲回避措置の普及と啓発を目的としたビデオを各国語で製作し、保全活動に生かしています。
刺し網漁による海鳥混獲について、そのメカニズムや日本における取り組みなどをリーフレットで紹介しています(下記画像をクリックしてください)。
南半球アホウドリ物語
22種類のアホウドリ類のうち、18種類は南半球に生息しているとご存じですか?
亜南極海に浮かぶサウスジョージア島では、ワタリアホウドリ、ハイガシラアホウドリ、マユグロアホウドリ、ハイイロアホウドリが繁殖していますが、主に漁業による混獲のため、個体数の減少が問題となっています。アホウドリ類は洋上で多くの時間を過ごし、孤島で繁殖するため、私達の目に触れることはなかなかありません。
そこで保全活動の一環として、アホウドリ類のことを多くの方に知っていただくため、アホウドリ達がサウスジョージア島で子育てをする様子をご紹介しています。英国南極観測局(British Antarctic Survey)とバードライフ・インターナショナルのパートナー団体(Royal Society for the Protection of Birds)の協力のもと、現地からの魅力的な写真とともにお届けしている「南半球のアホウドリ物語」。下記の特設ページやSNSから是非ご覧ください。