漁業による「混獲」によって、ヨーロッパの海鳥が減少しています

漁網の犠牲になってしまったキアシセグロカモメ© Stipe Surac

漁業の混獲より、取り返しのつかないほどの数のヨーロッパの海鳥が命を落としています。問題の規模を明らかにした上で、政治的意思さえあれば状況を好転させることができるシンプルな解決策を、Jeremy Herryがご紹介します。

お腹を空かせながら暖かい地中海の上空を軽快に飛んでいたオニミズナギドリが、水面に浮かぶ一匹のイカを突然狙います。オニミズナギドリは普段は水深28メートルまで潜ることができる優秀なダイバーですが、今回は何か様子がおかしいようです。柔らかく肉厚なイカを味わおうとしていた矢先、冷たく太い金属製の針が喉を切り裂くのを感じたのです。狙ったイカは、実は釣り針がついた漁業用の餌でした。

そのオニミズナギドリは大ケガを負い、パニックに陥ります。海から上がろうとしますが、沈んでいく針と一緒に海中に引きずり込まれていきます。そして、肺に海水が入り始めました。もう手遅れです。このオニミズナギドリもまた、漁業による混獲の犠牲になってしまったのです。

混獲とは、漁船が釣り糸や網で海鳥やその他の海洋生物を誤って獲ってしまうことで、海鳥が海で直面する最大の脅威です。海鳥は過去50年間で世界的に70%も減少し、現在、世界で最も絶滅の危機に瀕している鳥類の一つです。さらに、脊椎動物の中でも最も絶滅の危機に瀕しているグループの一つです。

厳しい展望

ヨーロッパでは特に、一般的に考えられているよりもはるかに深刻な問題となっています。毎年、推定20万羽の海鳥が混獲によって命を落としています。これは1時間に23羽、3分に1羽以上の割合です。つまり、私達が歯を磨き終わるたびに、また別の海鳥が混獲によって殺されているのです。

この数値は衝撃的かもしれませんが、全てを物語っているわけではありません。これは主にはえ縄漁と刺し網漁の2種類を対象としたもので、他の漁法による混獲の情報は不足しています。はえ縄漁で使われる漁具は、長い縄(幹縄)に、針と餌がついた短めの釣り糸(枝縄)を間隔をあけて取り付けます。はえ縄漁による混獲の犠牲になる海鳥の多くは、漁具を海に仕掛る際に、針が付仕込まれた餌に引き寄せられます。水面で針にかかり、水中に引きずり込まれて、最終的に溺死するのです。刺し網漁は、水面近くに浮かべた縄と水中深くの縄の間に広げた大きく長い網を使います。この漁法でも鳥が海中で網にかかり、溺死してしまうのです。

漁船のそばで餌に夢中になる海鳥© J M Arcos

しかも、混獲をモニタリングする科学オブザーバーを乗船させている漁船はごくわずかで、混獲モニタリングの実施状況も非常に悪いのが現状です。さらに、モニタリング時は死亡した海鳥の数しかカウントしていません。それ以外にも、多くの海鳥が怪我をしています。漁具にかかっても海面に到達する前に逃げることもあるため、気づかれない場合もあるのです。また、生きたまま引き揚げられることもあります。

もし漁船でこのようなことが起こったら、まず船の速度を落とすか、停止させることが重要です。そして、鳥をゆっくりと船上に引き揚げ、タオルを使って固定します。その後、慎重に網を外すか、釣り針や釣り糸の場合はくちばしギリギリのところで切ることが大切です。海鳥の状態が悪い場合は、野生動物保護センターに連れて行く必要があります。たとえ助からなかったとしても、科学者たちが死体の状態から貴重な情報を得ることができるかもしれません。

死の時間軸

混獲は近年になって起きている現象です。海鳥は昔から常に海で餌を獲っていましたが、かつての商業漁業は今日のような規模やレベルには程遠かったのです。海鳥の中には、その進化によって特に混獲の被害を受けやすくなってしまったものもいます。たとえばアホウドリ類です。アホウドリ類の多くは10歳になるまで繁殖せず、卵は1〜2年に1個しか産みません。そのため非常に長寿な生物に進化し、成鳥の自然死亡率は低く、70歳の熟年を迎える個体もいるほどです。

このような特性の問題点は、成鳥の死亡率がわずかでも上昇すると個体数が一気に減少してしまうことで、まさに混獲問題で起きていることです。現在、世界に22種いるアホウドリのうち、15種が絶滅の危機に瀕しています。かつては進化上の利点であったものが、今ではリスクになっているのです。また、この問題は近縁種のミズナギドリの一部も同様です。海鳥は進化して混獲に適応すると思うかもしれませんが、生物学的進化のスピードは産業や技術の進歩の速度に追いつきません。鳥は人間界の進歩の速度についていけないのです。

地中海では、3つの一般的な操業の仕方が混獲のリスクを高めています。1つ目は、海鳥と遭遇する可能性が最も高い夜明けに漁を行うこと。2つ目は、鳥を誘引する餌付きの針を使ったはえ縄漁の普及。3つ目は、釣り針が水面に長くとどまるような浮き具を使用することです。

地中海では多くの種が危機にさらされています。最も影響を受けているのは、アカハシカモメ、オニミズナギドリ、チチュウカイミズナギドリ、ヨーロッパミズナギドリ、ヨーロッパヒメウ、シロカツオドリなどの種です。地中海の固有種であるヨーロッパミズナギドリは絶滅危惧種(CR(絶滅危惧IA類))に分類されており、今後60年以内に絶滅する恐れがあると推定されています。この種にとって、混獲は真の脅威となのです。

ヨーロッパ海域の固有種であり漁業による直接的な影響を受けているオニミズナギドリ© Ali Şenel

この問題は、南ヨーロッパに限ったことではありません。バルト海でも、さまざまな種が悲惨な状況に置かれています。コオリガモ、アビ、ウミガラス、カワウ、ビロードキンクロなどの種類は、全て混獲によって危機的状況に直面しています。バルト海では毎年、推定7万6千羽が混獲により死亡しています。また、越冬する海鳥は過去30年間だけでも40%以上減少しています。

海鳥が主な犠牲者であることに変わりはありませんが、混獲は他の多くの動物にも害を及ぼしています。ヨーロッパの海域では毎年、ウミガメ、海洋哺乳類、サメ、エイが混獲によって犠牲になっています。地中海では、毎年推定4万4千匹という驚異的な数のウミガメが殺されています。

混獲が悪い影響を与えるもうひとつのグループは、意外かもしれませんが、漁業関係者です。混獲は漁具を傷つけ、操業を遅らせます。そもそも漁業者は野生生物に危害を加えたくないのです。バードライフでは、ヨーロッパ各地の海で漁師たちにインタビューを行い、彼らの自然との関係や混獲をどのように受け止めているのかを学んできました。ここでは「魚の物語」シリーズから、地中海で働く42歳のモロッコ人漁師、Belhaj Aziz-M’diqのインタビューを抜粋してご紹介します。

「残念なことに、他の動物が漁網にかかることがあります。時間がかかるときもありますが、彼らを救うために海に戻すことは重要です。なぜか?海の生物多様性を守る必要があるからです。そうでなければ、バランスが崩れてしまいます。気候変動や汚染など、人間の活動はすでに海洋生物にダメージを与えているので、私たちは海や自然全般を尊重するように努めています。」自然のバランスを守りたいという精神は、取材した漁業者の間で広く共有されています。混獲は惨劇ですが、解決策はあるのです。

モロッコの漁師Belhaj Aziz-M’diq

海鳥を混獲から守るために

混獲を削減するためには、現実的及び政治的な解決策があります。特に危険な海域では、政府が一時的または恒久的に漁場を制限することで、野生生物への負担を軽減することができます。海鳥を守るだけでなく、禁漁区では魚の個体数が回復するため、漁業界は長期的にこれを切実に必要としているのも現状です。

また、有害な補助金を廃止することも必要です。驚くべきことに、破壊的な漁業を支援するために、毎年世界で200億ユーロもの公的資金が費やされているのです。中には、海洋環境の破壊や強制労働を行う漁業会社や漁船に補助金が提供されているケースもあり、こうした行為は絶対にやめなければなりません。混獲問題を悲劇的にしているのは、実は混獲を避けることは容易であるということです。海鳥を守ることは可能であり、保全活動家と漁業関係者の両方が望んでいることです。これは優先順位の問題なのです。

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