熱波が鳥類の個体数と地球に与える影響

 

米国アリゾナ州フェニックスでは25日連続で40℃を超える日が続いている。ギリシャの島々では火災が発生し、中国北西部でも52℃を記録するなど、北半球では過去12万年の中で最も暑い夏が続いている。猛暑にされされる地域に生息する鳥たちが記録的な暑さから生き延びるために奮闘している。

 

猛暑が続くアリゾナ州

鳥は飛ぶことができても、その多くは茹だるような暑い地域から逃れようとしない。他の種がすでに涼しい地域を占有しているため、定住することができないためだ。北半球が夏の間、鳥たちは営巣し、卵を産み、雛を育てる。アリゾナ州の動物保護施設からは、この熱波の中、多くの雛が地面に落下したと報告された。これらの雛は直射日光を逃れようとしたのだろうが、まだ飛ぶことができず、地面に激突して生き延びることができなかったのだろう(「猛暑が続くフェニックスは、雛鳥にとって暑すぎる」‘Phoenix is too hot for some baby birds, as the heat wave persists’)。

 

オーストラリアの乾燥地帯のように、猛暑にさらされている環境に生息している鳥類は、木の上から涼しい日陰の窪みに移動することで、ある程度は暑さに耐えることができる。しかし、気温がこれまでの記録を超えてくるにつれて、鳥類は脱水症状や熱中症による死亡の危険にさらされる。オーストラリアの調査でも、小型の鳥類ほど死亡リスクが高いことがわかっている。2009年1月には気温が45℃を超えたため、セキセイインコやキンカチョウなどの鳥類が数千羽死んでいる。(「今後、熱波による鳥類の死亡リスクは、乾燥地帯であるオーストラリアで21世紀の間に大幅に上昇するだろう」’Avian mortality risk during heat waves will increase greatly in arid Australia during the 21st century’)。

 

鳥たちが食料や水を求めて保護施設から出たとしても、それが見つかる保証はない。他の野生動物たちも、暑さのために水場が干上がり、同じ脅威にさらされている。 アリゾナ州では、野生生物の水分補給のためだけに、ヘリコプターで指定された場所へ水を運んでいる(「アリゾナ州当局、猛暑の中、野生生物に水を補給」 – ワシントン・ポスト2023年7月21日)。これは現在の問題を一時的にしのぐ措置ではあるが、この生態系の将来的な持続可能性に疑問を抱かせるものである。花粉媒介者、草食動物をはじめとする野生生物間の循環をアメリカ南西部のこの砂漠で維持し続けることができなければ、生態系全体が崩壊してしまうだろう。

フェニックス周辺の保護施設に持ち込まれた鳥類の一種、メンフクロウ、 Ondrej Prosicky, Shutterstockより

 

海洋上の熱波は海鳥にも深刻なリスクをもたらす。暖かい表層水は多くの魚にとって住みづらいため、彼らはより冷たい水を求めて深く潜る。海鳥は数日から数ヶ月を海で過ごし、餌を魚に依存することが多いが、魚が水面からあまりに深い場所にいると、鳥たちは魚にたどり着けず、餓死してしまう。つい先月、メキシコの太平洋岸沖でミサゴやカモメなど300羽の鳥類が死に、ペルーとチリ沿岸ではさらに多くの死亡が記録された(「海水温上昇による太平洋の鳥類の死滅」。2014年から2019年にかけて、カリフォルニア州とアラスカ州の間の海岸線に、ツノメドリやムラサキウミスズメを含む何十万羽もの海鳥が打ち上げられたのは、まさにこの問題が原因だった(「海洋熱波による海鳥の大量死、海岸調査で判明」’Marine heat waves caused mass seabird die-offs, beach surveys show’ | UW News (washington.edu) 2023年7月6日)。大西洋や地中海地域からの報告によると、ヨーロッパでも大規模な暑さの後に海鳥が大量死している。

メキシコ沖で見つかった影響を受けた鳥類の90%はオオミズナギドリだった。Agami Photo Agency, Shutterstockより

ここ数週間(元記事掲載日の2023年8月2日時点)、アメリカ大陸で暑さによる鳥類の死亡が記録されているが、幸いにも他の地域では同様の報告は上がっていない。しかし、だからといって鳥たちが今年も気温上昇の影響を受けないとは限らない。地中海地域の現在の暑さは、乾燥した状態を伴っている。この地域の多くの鳥類は比較的暑さに強いにもかかわらず、乾燥した植生はこの地域の火災リスクを高め、多くの鳥類が幼鳥に必要な餌を失うことになるだろう。

 

地中海沿岸のヒメチョウゲンボウは、草を食べるバッタを餌にする。もし乾燥した植生で十分な数のバッタが生き延びることができなければ、チョウゲンボウは飢えて、雛に餌を与えられなくなる(「異常気象は平均的な気候変動よりもチョウゲンボウの繁殖率に影響を与える可能性が高い」’ Extreme events are more likely to affect the breeding success of lesser kestrels than average climate change’ Scientific Reports (nature.com)。巣の暑さからすでに巣立ちや卵の孵化失敗に直面している鳥にとって、このさらなるストレスは種の将来の世代に悪影響を及ぼすだろう(Global Change Biology | Environmental Change Journal | Wiley Online Library)。

 

中央アジアと東アジアの湿地帯は、中央アジア地域フライウェイと東アジア・オーストラリア地域フライウェイを往来する数百万羽の渡り鳥の生息地である。これらの種の多くは、冬を過ごすインド亜大陸や東南アジアの湿地帯から、繁殖地であるシベリア、中国、モンゴルの湿地帯まで何千キロも移動する。しかし、これらの北の大地は、世界中を襲っている熱波とは無関係ではない。

 

これらの広範囲に及ぶ熱波はすべて、人為的な気候変動と関連している。残念ながら、これは、熱波が今後も続き、時間とともに悪化していくことを意味している。生息地の喪失、狩猟、混獲、取引など、鳥類がすでに直面している困難な状況に加え、多くの種の鳥類がますますストレス下に置かれることになるだろう。しかし、植物が育ち、サンゴ礁を保ち、健全な生態系を維持するためには、鳥類の十分な個体数が必要である(「State of the World’s Birds」バードライフ・インターナショナル)。そして健全な生態系は、地球を冷却するのに不可欠なのだ。

 

「中国・モンゴルの中部から西部にかけて、ツグミ類やムシクイ類のような陸性鳥類、さらには集団営巣する水鳥が、孵化率の低下や巣の放棄、熱ストレスによる怪我や死亡など、他の地域で見られるのと同様の問題に直面することが予想される。昨年、夏のインド北部の熱波は同様の結果をもたらし、何百羽もの鳥が脱水症状と熱ストレスに苦しんでいた。」

 

バードライフのアジア・フライウェイ・コーディネーター、Ding Li Yong博士

最近、EU自然復元法案が可決されたことは、鳥たちが生き残るために必要な地域を確保するための第一歩であった(「EU自然復元法案、議会での採決を通過。今後は?」 ‘The EU Nature Restoration Law survived the vote in Parliament. What now?’ バードライフ・インターナショナル)。今、私たちは気候変動との闘いを継続し、自然環境にとって好ましい未来を現実する機会を模索する必要があります。

 

原文 “What ongoing heatwaves could mean for bird populations around the globe

(本文を一部編集しました)

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