可愛い猛禽 ―― モズ
「レンズを通して」婦人画報誌2020年12月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
近年、紅葉の時季が遅くなっているように思います。子どものころは例年10月から11月にかけて紅葉を楽しんでいた記憶があるのですが、最近では低地の樹木が秋めく色合いになるのは12月に入ってからではないでしょうか。そこで、今月号は秋を代表する鳥のひとつであるモズの写真を数枚ご覧に入れることといたしました。
モズは、河原、農耕地などの開けた環境に棲み、地上近くにいる昆虫やカエルなどの両生類、トカゲなどの爬虫類、ネズミなどの小哺乳類を餌とする肉食性の鳥です。つぶらな瞳は可愛いのですが、よく見ると猛禽類と同じ形の嘴をしており、それゆえに「モズタカ」とも呼ばれています。多くの地域では留鳥であり、よく姿を見せてくれる身近な鳥です。
モズの特徴のひとつとして挙げられるのが高鳴き。毎年、10月の始めごろ、ちょうど秋らしくなる時季に大声で鳴き、なわばりを主張します。留鳥も、渡って来た鳥も、巣立った後の若鳥も加わってなわばりの再編成をするので賑やかです。また、珍しいことに、モズのオスも冬の時季にはなわばりを持ちますので、このシーズンのバードウォッチングでは高い確率でモズとの出会いがあります。
もうひとつ、モズの面白い特徴として「はやにえ」が挙げられます。秋から冬の時季を通してみられる行動で、モズは捕らえた獲物をなわばり内の木々の枝先や刺、また有刺鉄線などに突き刺して「はやにえ」を作ります。ほかの鳥にも見られる、捕らえた餌を一時的に保存する「貯食行動」とされてまいりましたが、昨年、大阪市立大学の西田有佑特任講師らにより、興味深い研究発表がありました。モズのオスは非繁殖期にのみ「はやにえ」を作り、それを繁殖期が始まるまでにほぼすべて食べ尽くすことが調査の結果わかりました。そして、求愛行動の囀りにおいては、「はやにえ」を多く作り食べたオスのほうが、歌唱速度が速く、また歌の質が高く、結果的にメスに人気があるため、結果的に早い時期につがいを形成することができるのだそうです。つまりモズのオスにとって、「はやにえ」は、貯食のためだけではなく、歌の質を高めるための栄養食であることが解明されたわけです。
生物的、そして社会的な進化と適応を繰り返している地球上の生き物は数多おり、その数からして、新たな発見は毎日のようにあるのでしょう。私は学者や専門家の長年の調査とご苦労に基づく研究発表を読むだけで、新しい知識を得た喜びにしばし浸る癖があります。
よく考えると、今年は新型コロナウイルスに関連して、多くの事を学ぶ年となりました。〝コロナ〞に関しては、いましばらく発見と学び、進化と適応がさまざまな形で繰り返されることとなりましょう。他人事ではないので、ここは新しい知識を無責任に評論するのではなく、真摯に受け止め、しっかりと考えて自分の知識とし、行動に生かしていきたいと思います。