アマゾンの火災:何が起こっているのか?

今夏のアマゾンの山火事の芸術家による印象
写真提供:© OSORIOartist / Shutterstock

ブラジルのアマゾン地域で猛威を振っている森林火災の映像は、8月に世界的な非難の口火を切りました。幾つかのIBA(鳥を指標とする重要生息環境)が被害を受けました。これは環境保護の悪役からヒーローへ転換し、称賛されていた国での出来事です。どうしてこのようなことが起きたのでしょうか?

殺伐とした映像が世界の恐怖に火を点けました。燃え上がるアマゾンの熱帯雨林です。G7の国々の首脳が8月の惨事を非難し、ブラジルの新大統領Jair Bolsonaroは、地域住民、生物、気候に影響を与える悪の元凶との非難を受けました。この惨事から、私たちは何を学べばよいでしょうか。

15年前、ブラジルは保護活動家の悪役側にいました。1988年から2004年の間にポーランドと同等の面積の森林が「grileiros」と呼ばれる不法占拠者により破壊されました。彼らは樹木で「廃れた」土地を開墾し、法的に土地所有権を持つことができたのです。広大な森林は、大豆や家畜の農場にとって代わり、産業革命以後に人類が作り出した全二酸化炭素の約1%を放出しました。外部の人は知りませんでしたが、パラー州だけで1985年から2002年の間に「grileiros」に反対する森林保全の活動家が、475人も殺害されていたのです。

2005年に状況が一変しました。地元農家の森林保全活動を支援していた尼僧Dorothy Stangが殺害されたのです。この事件で、全てが明るみに出ました。国中の怒りの中で、Lula da Silva大統領は森林破壊に対する攻撃を開始しました。彼は新規の土地の所有と森林伐採許可を禁止し、政府の法律施行力を高め、数十カ所の保護区と先住民居住区を指定し、森林保全を行う人々への支援を行いました。一方、大豆と牛肉産業は消費者からの要望に応え、昨今伐採した土地で作った製品の販売を止めました。

結果として、2004年から2008年にかけてアマゾンの森林伐採は半減し、2012年までに80%伐採が激減しました。また、アマゾンの44%が保護区または先住民居住区に指定されました。これにより、3.2ギガトンの二酸化炭素の放出が回避されたのです。ブラジルは世界から賞賛されました。驚くことに、森林保全と同時に農業生産を増加させたのです。ブラジルは森林破壊から開発を切り離したのです。

アマゾンの森林破壊の航空写真 写真提供:© Richard Whitcombe / Shutterstock

Lula da Silva大統領による森林破壊削減イニシアティブは、既存の「森林規定(Forest Code)」と呼ばれる法律から合理性と推進力を引き出しました。このような森林所有者への厳しい要求を課した法律は、かつてありませんでした。1965年に始まったこの法律は、個人の土地所有者に「合法的な保護区」として20~50%の原生林を保全することを求めるもので、この率は1996年には80%に引き上げられました。

しかしこの法律は多くの反発を受けました。Dilma Rousseff大統領の任期初年度の2012年になると、有力な農業ビジネス事業者達は「森林規定」の制約にうんざりしていました。彼らのロビー活動により、「森林規定」の弱体化は成功し、「新森林規定」では2008年以前に違法に森林伐採した土地所有者に恩赦が与えられました。保護活動家たちは、過去の犯罪が許されるとしたら、「新森林規定」はこれからどのように森林破壊を防ぐことができるのかと愕然としました。

危惧していたことが起こってしまいました。Rousseff大統領は、2030年までに全ての森林伐採の停止を誓約する「森林に関するニューヨーク宣言」(2014年)への署名を拒否しました。そしてMichel Temer大統領の任期中(2016~2018年)には森林伐採が急増しました。

しかし本当に保護活動家を怒らせたのは、Jair Bolsonaro大統領(現職)任期中の森林破壊の急増です。彼の環境への影響は、迅速かつ膨大です。

ブラジルの大統領選挙の集会に臨むJair Bolsonaro 写真提供:© Antonio Scorza / Shutterstock

Bolsonaro大統領は、保護区を商業用地にすると共に、伐採業者が森林にアクセスができるよう新しい交通インフラの計画を進めています。そして、環境を守り保護区域を管理する政府機関を骨抜きにしました。また森林の被覆状態をモニターする人工衛星局のトップを含む政府の上級環境運動家が解雇されました。

これが8月の森林火災が世界的に知られるようになった背景です。確かに火災は乾季に定期的に起きる現象です。しかしブラジルの人工衛星局は、正月から8月20日までの間に74,000ヶ所の火災を記録しており、これは、2010年以降最大の大火災です。

「影響の全体像は、中長期で見なければ明らかになりません。」と、SAVE Brasil(ブラジルのパートナー)の理事Pedro Develeyは言っています。彼は、多くの火災分布と世界的な絶滅危惧種の鳥類の分布が重なっていることから、より多くの森林と生物多様性を失うのではないかと恐れています。

火事の広がりと影響の継続的なモニタリングが必要なことは明らかです。バードライフはこれ対し、KBA(生物多様性重要地域)をモニタリングするために、どのように遠隔センシング・データを利用すれば効果的かを評価しています。

ニョオウインコ(絶滅危惧Ⅱ類)も火事の影響を受ける恐れがあります。 写真提供:© Fernando Calmon / Shutterstock

そして、山火事や森林破壊は、ブラジルだけの問題ではありません。今年の火災はボリビア、コロンビア、パラグアイの広大な土地でも猛威をふるいました。「小規模な火災は環境的には問題ないでしょう。しかし、今年の火災の激しさ、頻度、広がりの範囲はパラグアイの野生生物に対して大きな影響を与えたものと推測しています。」とグイラ・パラグアイ(パラグアイのバードライフ・パートナー)の会長José Luis Cartesは言いました。既に細分化されてしまったパラグアイの大西洋岸森林では、多くの山火事により違法なマリファナ栽培のための土地が開墾され始めています。

事態を憂慮したグイラ・パラグアイは、「ブラジル、ボリビア、パラグアイ政府に即時かつ永続的な行動」を求めるマニフェスト立ち上げのため、バードライフ、SAVE Brasilなど他のNGOと協力しました。署名者は、「森林が存続し続ける活動へのインセンティブ」を要求しています。

ブラジルの「森林規制」の盛衰は、世界の有益な教訓になっています。「政治的な風向きが変わったことで、これまでに得たものが瞬時に、また劇的に失われました。」とバードライフの森林プログラムの主任Bryna Griffinは言いました。ブラジルの事例は、法規制の強化、保護区の拡大、原住民居住区の認識および農業ビジネスへの飴と鞭の組み合わせが森林保全に効果があることを示しています。

私たちはブラジルに住んでいなくても、消費者として商品の選び方など、毎日の習慣を考え直さなければなりません。

報告者:James Lowen

 

 

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