ワタリアホウドリのハルカちゃん成長記

2023年に多くの皆さんに一緒に見守っていただいた、ワタリアホウドリのハルカちゃん。成長途中でとても心配な出来事がありましたが、無事に巣立つことができました。遅ればせながら、今回のブログではハルカちゃんの成長過程を振り返ります!

 

ハルカちゃんの誕生

2021年に皆さんに見守っていただいた、トワちゃんを覚えていますか?ワタル(パパ)さんとチヒロ(ママ)さんのもとから無事に巣立っていきましたね(トワちゃんの成長記はこちら)。そのワタルさんとチヒロさんが、約1年後の2022年12月にサウスジョージア島に戻ってきました。12月24日に卵が産み落とされ、夫婦交代でとても大事に卵を温め続けました。

 

仲睦まじいワタルさん(手前)とチヒロさん(奥)

 

そして待望の瞬間がやってきたのは2023年3月13日。ワタルさんが見守る中、ハルカちゃんが一生懸命卵の殻を割って無事に生まれてきてくれました!お顔が見れたのは約1週間後。チヒロさんのお腹の下で守られながら、柔らかい綿羽に包まれた可愛らしい姿を見せてくれました。実はハルカちゃんの名前が公募で決まったのはこの後で、「遥か彼方まで飛べるように元気に育ってほしい」という願いが込められています。

 

誇らしげなチヒロさんとハルカちゃん

 

初めてのお留守番

生後1か月頃にもなると、ハルカちゃんがスクスク育っているために巣が手狭になってきたのでしょうか。チヒロさんが巣の外から優しい表情でハルカちゃんを見守ります。対照的に、ハルカちゃんの表情はちょっと硬め。どうしたのかな?

 

ハルカちゃんを見守るチヒロさん

 

その数日後には、初めてのお留守番を頑張っているハルカちゃんの姿が見られました。チヒロさんがそばにいた時のあの表情は、もしかしたらお留守番がもうすぐ始まることを聞かされていたのかもしれません。ワタルさんとチヒロさんが海で餌を獲って戻ってくるまで、たった一羽で巣で待つこととなったハルカちゃん。ドキドキしながら不安な気持ちだったことでしょう。健気にお留守番をしているハルカちゃんに声援を送っていた方々も多かったのではと思います。

 

緊張した面持ちでお留守番

 

心配な出来事

お留守番に慣れてきて、順調に大きくなってきたハルカちゃん。モフモフ度が増してきたこともあり、お腹に足型の「寝ぐせ」がついちゃう時もありました。そんなハルカちゃんの成長する姿に笑みがこぼれたりしている頃、突然心配なニュースが飛び込んできました。

 

お腹についた「寝ぐせ」を披露

 

それは6月のことで、金属探知機を使った調査で、ハルカちゃんのお腹の中に釣り針が入っていることが判明しました。ワタルさんかチヒロさんがハルカちゃんのために海で餌を探しているときに、どうやら餌と一緒に釣り針を食べてしまったようです。親鳥さんが胃の中に溜めておいた餌をハルカちゃんに与え時に、釣り針も一緒にハルカちゃんの胃の中に…。サウスジョージア島の周辺海域の漁業は厳しく管理がされているため、釣り上げた魚の不要な部分(残渣)を投棄する際は、釣り針が混じることはないとのこと。そのため、まだ管理が行き届いていない南米沖における商業漁業の残渣に、釣り針が含まれていたのではないかと考えられています。

 

実はハルカちゃんのお姉ちゃんで2021年に巣立ったトワちゃんも、雛の頃に釣り針を飲み込んでしまいました。調査期間中に胃酸で溶けたことは確認できず、また、巣立ち前に吐き出せたかも分からずじまいでした。トワちゃんもハルカちゃんも釣り針を飲み込んでしまったということは、もしかしたらワタルさんかチヒロさんは漁船から投棄される残渣を餌にすることが多いのかもしれません。

 

金属探知機を使った調査は毎月下旬に行われ、7月末にまだハルカちゃんの胃の中に釣り針が残っていると聞いたときは、お腹がチクチクしていないかな、ちゃんとご飯を食べられているかなと、とても心配になりました。そして8月下旬の調査では、ハルカちゃんのお腹の中も巣の周りでも金属が探知されなかったとの報告がありました。どうやら胃酸で釣り針が溶けたのではないかとのこと。でも喜んでばかりはいられません。溶けだした金属がハルカちゃんの体に何らかの影響があるかが分からないからです。

 

休憩中のワタルさんに視線を送ってる?

 

でもそんな心配をよそに、ハルカちゃんの食欲は旺盛で、体は更に大きくなっていきました。ワタルさんが巣に戻ってきた時は、1回のごはんでは足りなかったのか、かなりおねだりをしてしまったよう。それを反映するかのような写真が現地から送られてきた時は、ちょっとクスッとさせられました。ハルカちゃんから絶妙な距離をとりながら休憩するワタルさん、お疲れ様です!

 

大人の階段を上り大海原へ

9月にもなると、ハルカちゃんの白くて柔らかい綿羽が抜けて、濃い色で大人っぽい羽が目立つようになりました。換羽自体はもっと早くから始まっていたようですが、大人っぽく変身していく過程がはっきり分かり始めるのはこの頃。現地からハルカちゃんの写真が送られてくるたびに、カッコいい姿になっていくハルカちゃんには目を細めるばかりでした。足環デビューも果たし、個体識別できる番号が刻印されているので、大人になってから島に戻ってきた時にハルカちゃんだって分かるようになりました。

 

大人っぽい姿に向けて変身中

 

そんな中、金属探知調査が9月下旬に再度行われました。実はシーズン中に調査対象だったのは、ハルカちゃんを含めて50羽のひなちゃん達。9月の調査では、ハルカちゃんのお友達14羽の胃に釣り針が入っていることが判明。その時点で、調査が行われているサウスジョージアのバードアイランド全体のひなちゃんの数は485羽でした。ということは、いったい何羽のひなちゃん達が釣り針を飲み込んでしまったのかと考えると、とても悲しい現実を突きつけられました。みんな巣立ちまでに吐き出せますようにと願いましたが、そのまま巣立っていったひなちゃんもいたのではないかと思います。

 

11月下旬にはハルカちゃんの身体測定が行われ、体重が8.9㎏でくちばしが小さめなので、ほぼ確実に女の子だということが分かりました。大人になって無事に島に戻ってこれれば、ハルカちゃんがママになるのかと思うと感慨深いですね。そしてついに巣立ちの時。巣に戻ってくることが少なくなり、その後3日連続で島のどこにもハルカちゃんの姿が確認されなかったので、12月6日に巣立ち認定となりました。

 

数年間も続くとても長い海の旅が始まりです。大人になるまでは陸地に戻ることはなく、ずっと海での生活が続きます。今回の件のように漁業の残渣の釣り針や、漁具にかかって命を落としてしまう混獲など、海で危険に遭遇してしまう可能性があるので心配は尽きません。どうかどうか、元気に海の旅を続けられるようにと願いつつ、大人になったハルカちゃんに再会できる日を楽しみに待ちたいと思います!

 

立派な姿に成長したハルカちゃん

 

写真撮影:全てRosie Hall(英国南極観測局)

 

 

 

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