レッドリスト更新版で見逃したかもしれない6つのこと

アカフトオハチドリはいつまでも普通種でいられるわけではなさそうです 写真提供: © Ryan Bushby    

ホオアカトキとモモイロバトの復活は大ニュースです。ではレッドリストの2018年版では他の鳥はどうなっているのでしょうか?ご存知の種も、ご存じでない種もその物語は自然の状況について多くのことを教えてくれます。今回はそのいくつかをご紹介します。

ある種が繁栄しているのか、あるいは何とか生き残っているだけなのかは、どうやって判断すればよいのでしょうか?どの種が緊急の保全対策を必要としているか、どうやって判別すればよいのでしょうか?「生命のバロメーター」とも呼ばれるIUCNの絶滅危惧種のレッドリストは、どの種がどれだけ絶滅に近づいているのかを記録しています。バードライフは、その中でも鳥類の状況を評価する役割を担っています。どの種が安定しているか、回復途上にあるか、絶滅に向かっているかを調べ、レッドリストを毎年更新しています。こうした種の状況の変化は生態系全体の状況について多くのことを教えてくれます。以下では、今年の更新の中でもとくに特徴的なものをご紹介します。

1.オオムクドリモドキ(英名 Common Grackle): 名前に「Common」と付いていても安全とは限らない

オオムクドリモドキの個体数は過去40年で半数以下に激減した。
写真提供: © Tim Sackton

米国にお住まいでしたらオオムクドリモドキ(英名:Common Grackle)という鳥の名を聞いたことがあるかもしれません。この虹色の鳥は日々の生活の一部となっている地域もあるでしょう。その名にある「Common」の意味通り、彼らは全く珍しい種ではありません。そしてこのことがこれまで本種の状況が見落とされて来た理由の一つと考えられています。「Partners in Flight」(アメリカ大陸の陸鳥を保護するNGO)が2016年に公表した調査結果はショッキングなものでした。オオムクドリモドキの個体数が1970年から2014年にかけて50%以上も減少していたのです。本種は現在準絶滅危惧種に指定されています。世界に広く分布する鳥に懸念すべき傾向が見られることが報告されていますが、この鳥もその一例となっています。

ではこの減少はどのように起きたのでしょうか?他の鳥とは異なり、集約農業の拡大と森林伐採によって開けた環境が広がったことで、当初は本種にとって利益をもたらしました。しかし農耕地で繁栄できる彼らの能力が逆にマイナスの方向にも働いたのでしょう。農地で腐食している様子から害鳥と考えられ、駆除の対象となったことが減少につながりました。これ以上の減少を防ぐためには、誤解を解いて人々に好まれる存在になる必要があります。

2.ラパヒメアオバトは絶滅危惧IA類だが助けはすぐそこに

ラパヒメアオバトが生息する島で外来種駆除の資金が集められた
写真提供: © Caroline Blanvillain

仏領ポリネシアの小島、ラパ島にのみ生息するラパヒメアオバトは、野生下では成鳥の数が250羽を下回ると考えられています。本種が生息する森林は伐採とヤギの過放牧という2つの脅威にさらされています。問題が急を要すため、本種は絶滅危惧IA類に格上げされました。けれども幸いにも助けの手はすぐそばにあります。バードライフの大規模な生息地復元プロジェクト「Saving Paradise in the Pacific」が、2017年度バードフェアの緊急支援によって開始されようとしているのです。バードライフは仏領ポリネシアのパートナーSOP Manuと共同で野良ヤギの駆除を行い、一方、地域住民は地元の植生に被害をもたらす外来植物ストロベリーグアバの駆除を進める予定です。

3.新種

Lyre-tailed Hummingbirdはバハマハチドリ(写真)から分けられ新種に
写真提供: © New Jersey Birds

科学調査によって新種が発見されたり、以前は同じ種と考えられていたものが実際には別種だったことが判明することがあります。例えば2018年には、バハマハチドリの亜種と考えられていたLyre-tailed Hummingbirdが別種と認定されました。この新しい種はバハマのグレート・イナグア島とリトル・イナグア島にしか生息していませんが、そこでは普通に見られ、個体数も安定していると考えられることから軽度懸念種とされています。

新種ケープベルデウミツバメはクロコシジロウミツバメ(写真)から分離された。
写真提供: © Richard Crossley

同様にCape Verde Storm-Petrelも外観と鳴き声の違いからクロコシジロウミツバメとは別種と判断されました。この種の場合は繁殖地が野良猫やネズミが脅威となっているケープベルデ諸島に限られていることが懸念材料となっています。しかし、バードライフの主導による調査で繁殖個体数が多いことが分かったため、軽度懸念種と評価されています。

4.ハジロシャクケイは絶滅危惧IA類から外される

啓発活動がハジロシャクケイの復活につながっている
写真提供: © Macaulay Library, Cornell Lab of Ornithology

ホオアカトキだけが今回の更新で最高ランクから格下げされた種ではありません。ペルー北西部の斜面林や峡谷に隠れ住んでいるハジロシャクケイも復活しつつあります。大型でシチメンチョウに似たこの鳥はかつて、生息地の減少と乱獲により個体数が急激に減少しました。けれども、地元住民向けの啓発キャンペーンによってその状況は改善されました。記録によればこの15年の間個体数は安定しており、今回絶滅危惧IA類からIB類に格下げされました。

5.ズアカキツツキとヘンスローヒメドリが危機を脱出

ズアカキツツキの生息地は改善されつつあります。
写真提供: © Andy Reago & Chrissy McClaren

「軽度懸念」(Least Concern)という言葉は少し堅苦しいかも知れませんが、これこそ私たちが地球上のすべての生物を分類したいカテゴリーです。軽度懸念はある種の個体数が健全で安定しており、すぐには絶滅する心配がない状態を意味します。かつては数が減少し続けていた北米原産のズアカキツツキヘンスローヒメドリの個体数は、生息地の管理が進んだことにより安定しました。特にヘンスローヒメドリは米国の「Conservation Reserve Program(保全区プログラム)」が効果的でした。このプログラムは、環境変化に脆弱な土地での耕作を止め、環境改善につながる植物を植えた農家には報奨金が支払らわれるというものです。

6.ホイップアーウィルヨタカとアカフトオハチドリ: 絶滅に向かっているのが一目瞭然

死者の魂が旅立つのを感じることが出来るという言い伝えのあるホイップアーウィルヨタカ
写真提供: © Pixabay

前述のConservation Reserve Programの拡大の恩恵を受けると考えられているのが、ホイップアーウィルヨタカアカフトオハチドリの2種です。ショックなことに、北米ではなじみの深いこの2種は、今回の更新で準絶滅危惧種に格上げされました。カモフラージュが上手な前者には、米国で古い言い伝えもあります。その不気味な鳴き声(名前の由来でもある)から、米国のホラー作家H.P. LovecraftやStephen Kingの作品にも登場するほどです。しかし、その象徴的なイメージにもかかわらず、市民科学者によって集められたデータによれば、個体数は1970年から2014年の間に60%以上減少していました。飛翔する昆虫を餌とするこの種は、生息地の大部分が破壊されたことに加えて、殺虫剤や集約農業など、昆虫の数を減らす行為の影響を受けやすいのです。

アカフトオハチドリは既に気候変動の影響を受けている。
写真提供: © Ryan Bushby

果汁を主食とするアカフトオハチドリも、繁殖期には昆虫を食べるため、これらの影響を受けると考えられます。それだけでなく、今にも気候変動の犠牲者になる可能性すらあります。場所によって花がこれまでより2週間も早く咲くようになり、渡りの旅を終えて飛来した時にはこの重要な食物源が無くなってしまっているのです。

今回のレッドリストの更新版は私たちに何を教えてくれているのでしょうか?より大きく、懸念すべきパターンが多くなったということがあります。生息地の減少や気候変動などの大陸規模での問題により、大陸での絶滅が初めて島嶼での絶滅を上回りつつあります。保全活動も確かに効果を上げてはいますが、ある特定の種に絞った取り組みではもはや不十分かもしれません。これからは過去の成功例をもとにスケールアップし、世界中のNGO、政府、企業、地元コミュニティが力を合わせ、自然への最大の脅威に取り組んでいかなければなりません。 

報告者:Jessica Law
原文はこちら

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