アジアで最も希少な海鳥ヒガシシナアジサシ
一時絶滅したと思われていたヒガシシナアジサシが、韓国で繁殖に成功したことを研究者達が祝っています。デコイの鳥が新しいコロニー形成の助けとなり、さらに日本でも初めて本種が観察されました。
よく似ているオオアジサシのコロニーの中からヒガシシナアジサシを見つけるのは、ハイプレッシャー・ゲーム「ウォリーを探せ」をやるようなものです。そこでは赤い縞模様のジャンパーを着ている男を見つければパズルブックが完了するのとは違い、あなたの注意深い目にヒガシシナアジサシという種の運命が掛かっているのです。
ですから、約3年前にアジアで最も希少な海鳥ヒガシシナアジサシについて保護活動を通じて重大な発見の報告をした時、私たちはその意味することに大変興奮しました。韓国の研究者が、韓国南西部の海岸7km沖の無人の岩だらけの島Chilsandoでウミネコのコロニーの中にいる5羽の成鳥と1羽の雛を発見しました。これは実に特別なことでした。ヒガシシナアジサシは2000年に台湾の馬祖島で繁殖個体が再発見されるまでは絶滅したものと懸念されており、ほぼ100年間黄海の東側では観察記録がありませんでした。韓国の生態学研究所の研究者Yunkyoung Leeは、その時のことをよく覚えています。
「私たちが目にしているのがヒガシシナアジサシだと知ったとき、体中に震えが襲いました。彼らの黒い頭と白い背中のほっそりした外見は丸い頭と灰色の背中のウミネコで込み合うコロニーの中では目立つ存在でした。しかし野外では私たちは彼らが何なのかはすぐには分かりませんでした。誰も本種を見たことがなく、未だかつて本種が韓国で産卵するとは予想していなかったのです。」と彼女は言いました。
直ちに行動を起こしたLeeと彼女のチームは、速やかにこのエリアへのアクセスを制限して本種の安全を確保しました。当時、本種の世界全体の個体数は100羽以下と考えられていました。
この場所の重要性と共に、彼らがカモメの群れの中で営巣していた事実も特別でした。これまで2000年以後黄海西部で営巣しているのが観察されたヒガシシナアジサシは、より普通に見られる近縁種でやや大型のオオアジサシのコロニーで見られていたからです。オオアジサシは朝鮮半島ほど北方では見られず、一方、これまでヒガシシナアジサシの分布域はそれよりもさらに北でした。そこで、彼らはコロニー内で繁殖する方法を見つけるために分布域を適応させたと推測されました。
ご存知のとおり、仲間が誰もいないのに社交的でいるのは困難です。ヒガシシナアジサシは極めて群集性の高い種で、繁殖を成功させるためには巨大なコロニーがあって彼らが居心地よく感じることが大切です。遅い時期に繁殖を始める個体はコロニーが散り散りになり始めると巣を放棄することもあるのです。これはバードライフ・アジア部門のシニア・コンサベーション・オフィサーでナショナルジオグラフィックのエクスプローラーのシンバ・チャンの綿密な観察によるもので、彼は2014年と2015年の繁殖期に新たに発見されたヒガシシナアジサシのコロニーをかく乱から守るために舟山諸島(中国南東部の浙江省沿岸沖)で慎重に野営しました(島に持ち込んだ食料と水に依存し、台風に勇敢に立ち向かいました)。韓国での2016年の発見はその場所のヒガシシナアジサシがウミネコの繁殖期に合わせるために通常よりも早めに繁殖していることを示しています。
それゆえ、ヒガシシナアジサシ保護の鍵となるのは鳥が安心できる環境を整え、営巣の成功率を上げることです。これはかく乱の防止と、デコイの鳥やコロニーを元気付けるための音声再生システムの利用などによって達成されます。韓国では約3年後にこのような直接的な保護活動が報われました。今年の繁殖期にはChilsando島では7羽が観察され、そのうち少なくとも1羽は巣立ちした幼鳥でした。
1970年代に米国でのツノメドリのコロニー復元のためにStephen Kress博士(オーデュボン協会副代表)によるデコイと鳴き声を使った誘引技術が開発され、集団で繁殖する海鳥のコロニー復元に効果があることが証明されています。2013年以後、研究チームによるこの技術の採用により、舟山諸島で放棄されたヒガシシナアジサシの繁殖コロニーの復元が成功し、その間に記録的な50羽という数が観察されました。これは当時の既知の個体数の倍になります。このことは中国東岸の島々がかく乱されているため、アジサシは安全が確保されているこの島に集まったのです。シンバは韓国のアジサシを助けるためにデコイと鳴き声を使った誘引技術の利用を推奨しています。
「デコイと鳴き声を使った誘引技術が、ヒガシシナアジサシが新しいコロニーを作るのを助けたことを嬉しく思います。これは本種にとって良いニュースです。広範囲に複数の営巣コロニーがあることは、1箇所に多くの個体が集まるリスクを減らします。それぞれのサイトは種に対してそれぞれのサイトに固有のリスクをもたらすので、複数のサイトがあれば他のコロニーで何かがあっても個体群の一部は生き残ることが確保されます。」とKress博士は言いました。
「人による搾取とかく乱は繁殖失敗の主な理由です。公害も孵化前の胚が死亡する主因だと思います。」とシンバは言いました。しかし、希望はあります。「南部の繁殖地と異なり、韓国南西部の沿岸は保全が行き届いているので、人によるかく乱からは守られています。公害のレベルもはるかに低いので、ヒガシシナアジサシにとって理想的な場所です。台風やオオアジサシとの混血などの潜在的リスクも韓国のこのサイトでは無視できる程度です。」
新たな観察
このミステリアスな鳥の渡りのルートは未発見のままですが2018年3月10~13日のフィリピン、ミンダナオ島パナボでの最大3羽のヒガシシナアジサシの再発見はかすかな手がかりを与えてくれました。
さらに、2018年10月ヒガシシナアジサシが初めて日本で確認されました。2018年10月20日、沖縄で生物学を教えているVladimir Dinets博士は宮古島と伊良部島をつなぐ橋をドライブしているときに本種の写真を撮ったのです。「ヒガシシナアジサシの現在の分布域と日本までの距離からするとこの発見は予想されていたことですが、嬉しい発見です。また、この発見の日時は本種の繁殖期後の放浪の期間がかなり長いことを示唆するもので、それは新しい繁殖地でのデコイや鳴き声を使った誘引技術による成功率の高さを示唆するものです。」とシンバはコメントしました。もしこの活動が今後も成功するなら、アジアで最も希少な海鳥の「ウォリーを探せ」は、将来はとても容易になるでしょう。
報告者: Shaun Hurrell