一年間に見た鳥の種数の新記録を樹立した男

放鳥するためにパプアニューギニアで買ったスクレーターカンムリバトを持つArjan(今回の新記録を立てた男性)  写真提供: Sclater's Crowned-pigeon

インタビュー: Arjan Dwarshuisは一年に見た鳥の種数の世界新記録を打ち立てました。加えて、彼はその活動でバードライフの資金集めも行っています

ドキュメンタリー映画「ビッゲスト・イヤー」制作のために20161月からほぼノンストップで世界中でバードウォッチングをして来た一方で、Arjanの情熱は衰える様子がなく、彼のほとばしるような熱意は、まるであなたも彼と一緒にスコープ覗いているいるかのような気にさせます。オランダ、アムステルダムに住むArjanはバードライフの「絶滅阻止プログラム」を支援する「種の守護者」でもあります。私たちはWiFiの接続可能な野鳥観察ロッジに居る彼にインタビューをしました。

最初の質問: 今どこに居るのですか?

(回答)私の後ろからは雪のように白い頭と嘴から垂れ下がる奇妙な皮膚を持つ3羽の鳥が発する信じられないほど騒がしい‘ベル音’が聞こえます。今コスタリカに居て、ヒゲドリが露出した岩棚の上でディスプレイをしているのを60倍の望遠鏡で見ているところです。

 

(質問)ヒゲドリはかなり離れていてもうるさいはずです。申し訳ありませんが少し離れていただいて、今回の信じられないような世界記録の樹立についてどのような気持ちか教えてください。

(回答)素晴らしいと思います。本当にすごいことです。

 

(質問)このような新記録を樹立することができたのは何が要因だったのでしょうか。

(回答)私は物心ついた頃から自然に魅せられていました。7歳で見た鳥の記録を付け始めました。12歳の時珍しい渡り鳥を探し始めました。15歳の時一人でトルコに行き、18歳で世界一周のヒッチハイクをやり多くの絶滅危惧種や生態系を見ました。私は普及啓発のためにバードウォッチングの‘ビッグ・イヤー(すごい数の鳥種を見る年: 数年前に映画が日本でも公開された)’を利用したいと考え、2年半前に世界記録を立てようと決意しました。全ての仕事から離れ、ガイドを雇い、また旅行会社も一緒に行くことにワクワクしました。ところがこの計画をツイッターに載せた2日後、誰かがアメリカ人のNoah Stryckerも同じことを計画していると教えてくれました。元々は‘ヒッチハイク予算’で計画していたのですが、今回記録を樹立するためにはやり方を強化する必要に迫られました。

けれども私はただ関心を喚起するだけではなく、これにより何かをお返ししたくなりました。そこで、世界の最も絶滅が危惧される鳥に焦点を当てているバードライフの‘絶滅阻止プログラム’が最もこの目的に合っていると考えました。

 

(質問)今回の活動を通じて多くの逸話があると思いますが、何から始めましょうか?

(回答)話の一つは旅を始める前のことです。オランダのテレビ番組で人気のある‘RTLレイト・ナイト’から電話があり、彼らが特集番組を組みたいが条件が一つあるとのことでした。それは司会者のHumberto Tanが私と同行するということでした。オランダのベスト・ドレッサー賞に選ばれたことがある彼がある朝私の家の近くに完璧なバードウォッチングの格好でやって来ました。私たちは5時間をマミジロキクイタダキ、キバシリなどを見て過ごしました。彼はこの経験をとても気に入り、家族と休暇を過ごす代わりにスリナム共和国(アフリカ: 彼の生誕地)で7日間の本格的なバードウォッチングに同行することを決めたのです。オランダの有名人の一人と森の中を車で走っている時、急ブレーキを掛ける出来事がありました。巨大なオスのオウギワシが頭上数メートルすれすれのところを大きなかぎ爪を見せて飛んで来たのです。最も素晴らしい鳥の一つです。

スリナム共和国でHumberto Tanと鳥を見るArjan  写真提供: © Fred Pansa / Eco tours

(質問)オランダでは間違いなく人々の関心を集めたでしょうね。では鳥を見るために最も長い距離を歩いたのは?

(回答)マダガスカルのペリネ保護区の中の遠隔地に行きましたが、ここは目を見張るような鳥、ヘルメットモズが見られる場所です。私たちは最初泥だらけの悪路を歩き、次に鉈でジャングルを切り開きながら道なき道を歩きました。私は昼食を持って来るのを忘れ、気温が10度も下がる中、雨が降り出し、非常に寒かったです。2~3時間に1羽の鳥しか現れず、8~9時間経ってもヘルメットモズが姿を表す様子はありませんでした。ガイドにあとどれ位だと聞くと「車に戻るのに丁度4㎞ほど」とのことでしたが、私たちが車に戻った時GPSは9kmかかったことを示していました。ひどい目にあいました。

 

(質問)逃げてしまった鳥は?

(回答)見損なうこともあれば見られることもあります。これがバードウォッチングの醍醐味です。時には努力なしで全く予想もしなかった種を見ることもあります。先週パナマの遠隔地セロ・チュカンティ山稜で午前4時に起きて馬に乗って出かけ、ノドジロヒゲオカマドドリを見ました。初めてこの鳥の良い写真が撮れました。

 

(質問)今や鳥の8種に1種は絶滅危惧種です。最も絶滅が危惧される鳥を見る試みはしていますか?

(回答)はい。種数は記録上大変大切ですが、出来る限り絶滅危惧ⅠA類の鳥とその生息地を合わせて見るように努めています。これらの希少種は地域的にとっても極めて重要な種です。

 

(質問)私たちも同じ考えですが、その理由を説明してください。

(回答)これほど旅をするのは勿論環境にも良くありませんが、私の最も伝えたいメッセージはこれらの鳥を見るためにエコツーリズムの役割が重要性だということです。ここコスタリカはエコツーリズムの重要度が高い国です。一方マラウィやマダガスカルではまだそうではありません。私の経験と意見ではこれらの国にまだ断片的に森林が残っている唯一の理由は地元のガイドが地元コミュニティを巻き込んで自然保護を行っているからなのです。ですから地元の食糧を食べ、地元に泊まってください。これが私からのバードライフの「種の守護者」のコンセプトであり、地元レベルで物事を変えようとする人たちに支援をする理由です。

 

(質問)今までに見た鳥で最も珍しい鳥は?

(回答)オーストラリア南部のユーカリの森のミミグロミツスイです。本種は遥かに普通に見られるキノドミツスイとの交雑のために絶滅の危機にあります。彼らは複雑で社会性の高い家族集団で生息しており、全個体がミミグロミツスイだけで成り立っている100%純粋の集団について聞いたことがありません。遠からず全てが交雑個体になるでしょう。鳥の側からすればこれは良くも悪くもなく、実際に気が付きもしないでしょう。けれども地球の生物多様性の観点からは私たちはまた一つ種を失うことになり、とても残念なことです。

ミンダナオヒロハシ  写真提供: © Max van Waasdijk

(質問)最も記憶に残った稀な出来事は何ですか?

(回答)時には1ヶ所の小さな湿原や熱帯雨林の1区画に生息する全個体が集まっていることがあります。保護プロジェクトが上手く行って個体数を増加させている場所もあり、また時には何も取り組んでいないこともあります。ミンダナオ島のPICOP(フィリピンの製紙産業の木材伐採エリア)と呼ばれる低地森林にはミンダナオヒロハシとエボシフジイロヒタキが生息する最後の1区画があります。ここで鳥を見ていた時、周囲360度からチェーンソーの唸る音が聞こえてきました。森林伐採が徹底的に行われているのです。私は何も出来ず、泣きたい気持ちでした。ここの鳥たちはいずれ居なくなるのが分かっているので私は今でも喉が詰まっているような気がしています。このエリアは軍隊が管理しているため、この森を保全のために買うことも出来ません。

 

(質問)森林伐採者に話しかけてみたいとは思いませんでしたか?

(回答)はい。けれども彼らを怒らせてしまう危険があります。私のガイドは何度か怖い思いをしています。状況は困難です。彼らが伐採をするのは最低限の生活を確保するためなので理解はできます。

ですから地域社会が関与することが大切なのです。彼らにエコツーリズムによる経済的な利益を示すことは出来ます。そうでなければ森林はスーパーマーケットと同じになります。

 

(質問)最も多くの種を見ることが出来る最善の場所は何処ですか?

(回答)ペルーです。タナガー・ツアー社のMiguel Lezama氏は素晴らしいガイドでした。ガールフレンドのCamillaと一緒に私たちは24日間で1,001種を見ました。今回の新記録の中でも記録的でした。そのうち577種は‘ビッゲスト・イヤー’にとっても新しい種です。その中から70種は本当に特別な固有種で絶滅の恐れのある種です。 

 

(質問)世界の11,000種の鳥に対して特別な見方をお持ちですが、何か気付いている大きな変化があるでしょうか?

(回答)若いころアフリカに行ったことがありますが、今見るとハゲワシ類が居なくなっていることに気が付きます。ここ10~20年のうちにハゲワシを見ることが非常に難しくなりました。減少の速さは信じられないほどです。

 

(質問)アフリカに生息するハゲワシ類でどの種が好きですか?

(回答)ミミヒダハゲワシです。巨大で荒々しい、見事に醜い鳥です。

 

(質問)技術的なことをお聞きします。何をもって記録としますか?

(回答)はっきりと声を聞くか目で見なければなりません。私はいつもいろいろな意見を聞くために、地元のガイドや旅の同行者と一緒に居ます。自分だけで全部をやるのは不可能です。私の完成版のリストにはどの種は姿を見たか、どれは声だけかを記してあります。

コスタリカのケツァール  写真提供: © Arjan Dwarshuis

(質問)記録を樹立した記念すべき種は何でしたか?

(回答)シロマユオナガウズラです。ゾクゾクするような体験ができました。私たちはこの鳥を見るために15分間も追い掛けねばなりませんでした。3人の仲間が一緒で、2017年に公開されるドキュメンタリー映画‘ビッゲスト・イヤー’のためにこの様子をすべてフィルムに収めました。

 

(質問)世界記録を樹立したときバードライフの鳥類分類とこれに基づく‘世界の鳥ハンドブック(HBW)’を使いましたか?

(回答)今回の記録はIOC(国際鳥類学会議)の‘世界の鳥のリスト’に基づいています。記録のためにObservation.org i-Obsアプリを使っているからです。ただし、帰国したら全リストをHBW Aliveにも入れます。以前の記録はClementsの分類を利用していましたが、これは私の意見では少々DNAに頼りすぎです。

 

(質問)700種もの種が新たに別種に分類されたというニュースについてどのようにお考えですか?

(回答)素晴らしいことで、これを聞いて嬉しいです。種は多ければ多いほど良いです。私の記録が増えるだけでなく、保護活動も増えるでしょう。ある鳥がこれまでの種から分離独立すればこれまで見過ごされていた種が絶滅危惧種に認定される可能性があり、その結果、その種の保護にも関心が高まるでしょう。もちろん別種への分離は科学的な根拠がなければなりません。私が‘ビッグ・イヤー’を目指している間、出来る限りあらゆる亜種を見て、記録するように努めました。ですから今後10年のうちにもリストが(亜種が別種にされて)増える可能性があります。

 

(質問)人はなぜ物事を分類したがるのでしょうか?

(回答)自然を完全に理解することは不可能です。自然は複雑であまりにも特別なので私たちは分類をしなければならないのです。これは科学、自然保護、政策にとっても重要です。分類することによって初めてこのようなことを理解し合えるのだと思います。

 

(質問)今でも見たい鳥は何ですか?

(回答)世界中のすべての鳥を見ることは出来ませんがやってみたいですね。今年はグァテマラでツノシャクケイを見たいですね。この鳥は頭に大きな赤いこぶがある素晴らしい黒と白の鳥です。

 

(質問)この1年で見られて最も嬉しかった鳥は何ですか?

(回答)ガーナの美しい熱帯雨林に父や映画会社の友人、Ashantiツアー社と一緒に行った時のことです。静かにしていなければなりませんでした。大きな石の下にくっ付いた‘茶碗状’の巣が見えました。私たちは待ち続けました。突然繁みが揺れ動き、衝撃的な白、黒、黄色の鳥が目の前に現れました。ハゲチメドリです。圧倒的な存在感でした。熱帯雨林の中ではすぐに泥まみれになるのですが、この鳥は実に清潔でさわやかで、羽根の1枚1枚がよく見えるのです。1分間、開いた口がふさがらずに見ていました。この時にはハイタッチも写真を撮ることも出来ず、ただ見入るだけでした。その後、鳥は私の背後に回って来たのでその姿をドキュメンタリー映画に撮ることが出来ました。ディビッド・アッテンボローになったような気分でした。

ハゲチメドリ 写真提供: © Michael Andersen / CC by 2.0

(質問)バードライフの‘種の保護者’についてどのようにお考えですか?

(回答)このプロジェクトの支援をすることに誇りを持っており、とても嬉しく思います。‘種の保護者’になることでこのプログラムを実現できます。より多くの企業や個人が最も絶滅が危惧される鳥を救うためのこの素晴らしいプログラムのために私と同様資金を提供してくれればと思います。

 

・記録した鳥の種数: 6,883種

・一日の平均記録数: 18種

・これまでの記録: 2015年のNoah Stryckerによる6,042種

・一日で見た鳥の最大種数: 200種超、ケニアにて

・訪問国数: 40ヶ国

・クロボウシチメドリ: 6,833番目に観察

・これまでに集めた募金: 目標100,000ユーロのうちの20,000ユーロ

・ドキュメンタリー「ビッゲスト・イヤー」: 2017年後半に完成予定、監督Michiel van den Bergh、撮影John Treffer

・Arjanの年齢: 30歳

・職業: オランダにある本人の会社バーディング・エクスペリエンス社(野鳥観察ツアー、講演など)、毎週オランダのテレビ番組Binnenstebuitenでバードウォッチングの特集番組に出演、週末はバーテンダーとして働いている。

・その他の情報はツイッター・インスタグラム@ArjanDwarshuisで。

 

報告者: Shaun Hurrell

 

 

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