世界初 人工巣を使ってカンムリウミスズメが繁殖成功
カンムリウミスズメは、日本近海にだけ分布する小型の海鳥です。繁殖は、主に関東以西の無人の岩礁や離島で、岩の隙間などに巣を構えて行います。ヒナは孵化後1‐2日で海へ巣立ち、育雛は洋上で行なわれます。一年のほとんどを洋上で過ごすため詳しい生態は分かっていませんが、近年個体数が減少し、環境省により絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されています。
個体数の減少の一因として、繁殖地に人の出入りと共に移入したネズミ類や釣りなどレジャーの拡大に伴って生じた残飯や釣り餌などのゴミに誘致されたカラス類による親鳥、ヒナ、卵の捕食、繁殖地への人の立ち入りによる攪乱など営巣環境の悪化が指摘されています。日本野鳥の会では、カンムリウミスズメの保護・増殖を図るため繁殖地の保護区化と営巣環境の改善に取り組んできました。
営巣環境の改善のため、2010年から人工巣の開発に取り組んできました。6年間の試行錯誤を経て、コンクリート製U字ブロックを加工しカラス類による攪乱や捕食を妨げる改良をしたところ、2016年についに人工巣を使用してカンムリウミスズメが繁殖を成功させました。これまで、カンムリウミスズメが人工巣を利用した事例はなく人為的に営巣地を増加させる手法はありませんでした。今回の成果から、カンムリウミスズメの営巣数の増加や繁殖環境の改善を図り、個体数を回復する足がかりが得られました。日本野鳥の会保全プロジェクト推進室長の田尻浩伸は「今後、カンムリウミスズメの人工巣をさらに改良し定型の人工巣ができれば、繁殖数が減少した島や繁殖が見られなくなった島で繁殖を復活できる可能性が出てきた」と語っている。
報告者: 手嶋洋子