2022年版レッドリスト:森林減少と気候変動がもたらす被害

Bornean Bristlehead © Bjorn Olsen

最新の衛星画像から熱帯地域で急速な森林減少が確認されるとともに、バードライフのIUCNレッドリストの最新版では、森林に依存する鳥類の絶滅危機度が上がったことがわかりました。気候変動の影響は、すでにオーストラリアの多くの固有種に打撃を与えています。 しかし、希望が持てる保全の成功事例もあります。的を射た取り組みが、最も危うい立場にある絶滅危惧種の運命を変えることができることを証明しました。

バードライフのレッドリスト・チームは、鳥類の公式レッドリストの評価機関として、世界の鳥類11,000種の状況を定期的に評価し、絶滅危惧種を特定しています。今年のレッドリストの更新は、モントリオールで生物多様性条約(CBD)のCOP15が開催され、今後10年間の生物多様性保全の在り方が討議されている重要な時期に行われました。

バードライフの「State of the World’s Birds(世界の鳥類の状況)」の最新レポートで強調されているように、世界の環境は危機的状況にあり、鳥類のほぼ半数が減少し、八種に一種が絶滅の危機に瀕しています。最新のレッドリストはこれらの懸念を反映しており、緊急な保全活動の拡大が強調されています。

Masked Finfoot © Kaitong/Shutterstock

熱帯雨林の減少で失われる生息地

熱帯林は生物多様性の宝庫です。多くの生き物が自然愛好家を魅了する一方、木々が吸収し貯蔵する数十億トンの炭素は、気候変動の緩和に大きく貢献します。しかし、増え続ける持続不可能な資源需要による森林破壊は、森林にとって最大の脅威であり、生物多様性の悪化に対する最も深刻なリスクの一つと認識されてきました。

森林減少の全体像を定量化できるようになったのは、比較的最近の進んだ衛星画像開発によるものです。バードライフのレッドリスト・チームは、グローバル・フォレスト・ウォッチを開発した世界資源研究所との協力により、過去20年間に森林に依存する何千もの鳥類種の生息域でどれだけの森林喪失が起きたかを再評価することができました。残念なことに、多くの地域で森林減少が想定より進んでおり、複数の森林依存種の絶滅危惧リスクが引き上げられました。

アジアでは、タイ・マレー半島とボルネオ島、スマトラ島、ジャワ島から成るスンダランドの低地熱帯林が懸念されます。世界最古の熱帯雨林で森林減少が加速すれば、多くの種が減少します。マレーエボシコクジャク(Malay Peacock-pheasant)とマレークレストレスファイアーバック(コシアカキジ属の一種)(Malay Crestless Fireback)は、それぞれ危機(Endangered)と深刻な危機(Critically Endangered)に危機度が上がり、後者は2001年以降、生息地の70%近くを失ったと考えられています。森林減少はまた、複数のボルネオの固有種を絶滅の危機に直面させ、ボルネオクレストレスファイアーバック(コシアカキジ属の一種)(Bornean Crestless Fireback)が危機(Endangered)に、ハシリカッコウ(Bornean Ground-cuckoo)が危急(Vulnerable)に上げられました。最も注目に値するのは、ブタゲモズ(Bornean Bristlehead)です。その種の唯一の科であるユニークな種であり、鮮やかな赤と黄色の顔は、野鳥図鑑の表紙を飾ることが多い鳥ですが、準絶滅危惧(Near Threatened)から危急(Vulnerable)にその危機度が上げられています。

Malay Peacock-Pheasant © paVan_/Flickr

Bornean Ground-cuckoo © Christoph Moning/Flickr

中央アメリカも、かつて考えられていたよりも森林減少が急速に進んでいる地域であり、ノドジロモズフウキンチョウ(White-throated Shrike-tanage)(現在は準絶滅危惧(Near Threatened))など、いくつかの種が新たに注意喚起されています。他の地域と同様に、森林減少と密猟(森林減少のためより小さく、より細分化された森林は、アクセスしやすくなる)のため、モリシギダチョウ(Slaty-breasted Tinamou)(危急(Vulnerable))、ミミグロウズラ(Black-eared Wood-quail)とアシナガコリン(Tawny-faced Quail)(どちらも準絶滅危惧(Near Threatened))もその危機度が上げられました。

森林減少の加速はアフリカにも影響を及ぼしており、ウスグロイロムシクイ(Sharpe’s Apalis)は、過去10年の間に西アフリカ、上ギニアの森林で生息地の22%を失い、準絶滅危惧(Near Threatened)に危機度が上がりました。同様に、近縁種の東アフリカのローデシアイロムシクイ(Chirinda Apalis)は、ジンバブエとモザンビーク国境沿いの急速な森林伐採のために、現在危急(Vulnerable)とされています。

「IUCNレッドリストに見られる分類の変更は、熱帯雨林保全の緊急性、森林減少の阻止、森林復元の必要性を強く示唆しています」と、バードライフ・インターナショナルのGlobal Science Coordinator(Species)であるIan Burfield博士が述べています。「これはバードライフ・パートナーシップの要となる目標であり、私たちはすでに世界の多くの地域で、森林破壊をなくすために幅広く活動しています」。

White-throated Shrike-tanager © NaturesMomentsuk/Shutterstock

気候変動はすでに大きな脅威

2022年のレッドリストは、気候変動がもはや将来の問題ではなく、その影響がすでに多くの種に壊滅的な影響を及ぼしていることを語っています。これは、過去10年間に多数の干ばつ、熱波、火災を経験したオーストラリアの、今年の更新を見れば明らかです。

温暖化する気候に対応するため、山岳地帯に生息する種は、適応できる涼しさを求めて多くの場合標高の高い場所に移動せざるを得ません。オーストラリア北東部の山地熱帯雨林に生息するいくつかの鳥類は、この限界に達しつつあります。逃れようのない気候変動は「絶滅へのエスカレーター」として作用し、複数の種の保護状況が悪化しています。

たとえば、シダムシクイ(Fernwren)は、衝撃的なことに低懸念(Least Concern)から危機(Endangered)まで、危機度を示すカテゴリーが三段階も上げられました。個体数は過去15年間で50%以上減少しています。気候変動は種に対する唯一の既知の脅威であり、気温の上昇に伴い生息地の高度を上げることを余儀なくされるため、低地に生息する個体群にとっては特に深刻です。シダムシクイはおそらくこの「絶滅へのエスカレーター」の最も劇的な例ですが、他のいくつかのオーストラリアの固有種、ムナフモズツグミ(Bower’s Shrike-thrush)、ヤマトゲハシムシクイ(Mountain Thornbill)やコウロコフウチョウ(Victoria’s Riflebird)なども影響を受けており、低懸念(Least Concern)から危急(Vulnerable)に危機度が上げられています。

Fernwren © Nick Athanas/Flickr

気温の上昇に加えて、山火事の頻発もオーストラリアの鳥類に打撃を与えています。2019年から2020年にかけて発生した山火事「黒い夏」は、1,900万ヘクタールという広大な土地で発生し、国際的なニュースでも大きく取り上げられ、生態系や生き物に大きな影響を及ぼしました。1億8千万羽の鳥類に影響を与えたと考えられており、この火災だけで、10種がより高い絶滅リスクカテゴリーに移されました。

アンナイドリ(Pilotbird)の世界個数の約30%が失われたと考えられており、すでに減少していたアカサカオウム(Gang-gang Cockatoo)は21%が失われていると考えられています。(両種共に現在危急(Vulnerable))オーストラリアのはるか西の森林に生息する固有種のボーダンクロオウム(Baudin’s Black-cockatoo)も問題を抱えています。山火事と森林減少のため、営巣のために必要な老木が不足し、過去数十年で90%の減少に見舞われています。(現在深刻な危機(Critically Endangered))

バードライフ・インターナショナルのRed List Officer であるAlex Berrymanは「これらのオーストラリアの事例は、生物多様性の保全を中心に、気候変動との戦いを強化することの緊急性を浮きぼりにしています」と話しています。

Gang-Gang cockatoo © David C Simon/Shutterstock

Baudin’s Black-cockatoo © Frank McClintock / Shutterstock

保護にむけての希望

2022年のレッドリストの暗いニュースの中で、かすかな希望の光があります。危機(Endangered)から危急(Vulnerable)に危機度を下げたチャタムヒタキ(Black Robin)は、保護活動の努力が最も危機的な立場におかれた種の運命を変えることができることを示しています。ニュージーランドの人里離れたチャタム諸島に固有の侵入哺乳類(ラット)により、この種の世界の個体数は1976年までにわずか七羽になり、面積わずか0.15 平方キロメートルの小さな島のみに生息していました。

ニュージーランド野生生物局の保護活動家が、生息地を作ろうと、近くの大きな島に何千もの木を植え、鳥を移動させました。しかし、数年以内に個体数はわずか五羽にまで減少し、そのうちの一羽だけが「オールドブルー」という名前の太ったメスでした。保護活動家は、産卵後にチャタムヒタキの巣から卵を取り除き、近縁種のニュージーランドヒタキ(New Zealand Tomtit)の巣に置くという手法を導入しました。クロスフォスタリングとして知られるこの手法は大成功を収め、それ以来、チャタムヒタキの個体数は回復して行きました。

現在、二島で300羽が安定的に生息しており、そのすべてが「オールドブルー」の子孫です。チャタムヒタキが危機から脱したことは、ニュージーランドの鳥類保護活動の成功の証です。今年ダウンリストされた別の種、セアカホオダレムクドリ(South Island Saddleback)も同様の成功例です。1964年には一島に36羽しか残っていませんでしたが、人為的な移動を続け、現在20島以上に約5,000羽が生息し、現在は低懸念(Least Concern)として再分類されています。

「これらの例は、最も懸念される状況下であっても、保護活動によって劇的に状況を変えることができることを示しています。しかし、多くの種の状態が悪化し続けていることは、速やかな保護活動の必要性を浮き彫りにしています。 CBD COP15は、世界の指導者が地球の生態系や生き物の保全や回復の規模を拡大することを約束する重要な機会を提供しています」とバードライフ・インターナショナルのChief ScientistであるStuart Butchart博士は語りました。

Black Robin © Leon Berand/Flickr

報告者:Liam Hughes

原文 “Deforestation and climate change take their toll in 2022’s Red List update”

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