科学者たちが助成金審査の再考を求む
科学の世界では、優れた研究を表す指標の一つとして、論文の引用回数がよく用いられます。イギリスでは、バードライフやRSPB、BTOなどのNGOが発表したいくつも論文がトップクラスの引用回数を記録しています。この事実を受けて、NGOの科学者が助成金審査の再考を求めています。
生物多様性保全の分野では、科学調査は大学が担当し、慈善団体やNGOはキャンペーンや現場での活動をするものと思われるかも知れません。しかしこのような従来の見方は今では正しくありません。大学は直接保全プロジェクトに加わり、政策の策定や実施に従事するようになる一方、自然保護NGOも自ら調査を行うようになっています。実際にRSPB(イギリスのバードライフ・パートナー)は2014年にRSPB保全科学センターを立ち上げ、バードライフの科学部署はこの10年で2倍になりました。BTO(英国鳥類学協会)は一般市民や政策決定者に情報提供をするための研究や調査に専念する機関となっています。
では生物多様性保全に関して最もインパクトの高い研究をしているのはどの組織でしょうか?科学雑誌に掲載された論文のインパクトを測る方法の一つは、自分の論文が他の論文に引用された回数を調べることです。影響の大きい論文ほど引用回数も多くなるという考えです。ある組織に所属する科学者が発行した全ての論文の引用回数を平均すれば、組織全体として科学にもたらしたインパクトの指標となります。
こうした情報は「Web of Science」(引用文献情報のデータベース)などに蓄積されています。その中の「InCites Esssential Science Indicators」で過去10年間に環境分野で発表された論文の引用回数を見てみると、イギリスの上位6位までの組織のうちの5つがNGOまたは大学以外の機関なのです。バードライフが1位、RSPBが4位に、BTOが6位なのです。これらの組織から発表される論文は数こそ少ないものの、この基準で見る限りは英国のどの大学よりも大きなインパクトを与えていると言えます。
英国での科学研究は、基本的には7つの学術研究会議からの資金提供を受けています。近年、その効率を高め、年間60億ポンドの予算の影響力を拡大するために、これら7つの機関がUK Research and Innovationという1つの組織に統合されました。これら7つの団体の一つである自然環境研究会議(NERC)は、地球と生命を支える物理的、化学的、生物学的プロセスに関する研究に資金を提供しています。
NERCの戦略目標の一つが、社会的なインパクトが最も大きな研究を支援することであることを考えると、上記のデータより全英の大学の総引用数よりも本分野における引用数が上回っているため、環境分野への資金から相応の額がNGOに分配されるべきであると考えるのは理にかなっています。
ところが現実は全く異なります。過去5年間のNERCの純支出は18億6千万ポンドでした。この期間にBTO、RSPBおよびバードライフに供与されたのはそのうちのわずか0.025%でした。
その理由の一つは、NERCの方針として「オリジナリティ、研究の質および重要性」や「極めて重要な科学的な課題」に取り組んでいるかどうかで審査するよう助成金の審査員に求めているからです。しかしながら生物多様性保全に必要な情報提供を行うための研究は、純粋に科学的な見地からはオリジナルあるいは重要である必要はなく、社会的な関心が高いかどうかが重要なのです。
そこでバードライフやRSPB、BTOの科学者たちは、2月に発行されたNature誌でNERCに向けたレターを発表しました。その内容は、人々が依存している生物多様性の保全に貢献する研究を通して社会的インパクトをもたらしているNGOや大学以外の組織により大きな資金を分配することで、NERC自体の戦略を実践すべきとの提案となっています。
そのためには、期待される社会的インパクトに審査のウェイトを大きくするよう審査員に求めること、保全に特化した補助金制度を設立することなどの取り組みが必要です。
たとえ些細な変更であっとしても、生物多様性の保全に関する研究が大幅に強化され、世界中の自然に利益をもたらすはずです。
報告者:Stuart Butchart