自然保護のサクセス・ストーリーの前に立ちはだかる風力発電施設建設問題

コスミレコンゴウインコ © Fábio de Paina Nunes

1980年代には60羽まで減少してしまった野生のコスミレコンゴウインコは、長年の保護活動により、個体数が驚くほど回復しました。しかし、フランスのヴォルタリア社がコスミレコンゴウインコの生息域に風力発電施設を建設し始め、大切な保護成果が危険に晒されています。

ブラジル北東部バイーア州の乾燥したカアチンガ林の固有種であるコスミレコンゴウインコ( Lear’s Macaw、Anodorhynchus Leari)は、砂岩の崖の中に巣穴を掘って営巣します。1856年に詩人Edward Learの挿絵で初めて紹介され、19世紀から20世紀にかけて確認されたのは売買による数羽のみでしたが、1978年に初めて野生のコスミレコンゴウインコが発見されました。しかし、発見後すぐに行われた調査では、生息地の減少、狩猟、ペット売買のための密輸などにより、1980年代には世界のコスミレコンゴウインコの生息数は60羽にまで減少し、絶滅の危機に瀕していることが明らかになりました。

多くのコスミレコンゴウインコがカヌードスの砂岩の崖をねぐらにする © Daniel J. Lebbin/American Bird Conservancy

保護活動家たちはすぐに活動を開始し、地域社会を巻き込んで取引や生息地の破壊を阻止するとともに、保護区を設立して、集中的な保護活動に取り組みました。同保護区は、米国鳥類保護協会(ABC、バードライフUSA)が支援し、ABCのブラジルのパートナーであるBiodiversitas Foundationが管理しているもので、世界のコスミレコンゴウインコのほとんどが営巣する私営の保護区です。

努力の結果、同種は目覚ましい回復を遂げ、現在ではバイーア州に2000羽近くのコスミレコンゴウインコが生息しています。2011年に同種の絶滅危惧の度合いを表すカテゴリーが「深刻な危機」から「危機」に下げられたことからも、数が増加した事実が分かります。しかし、分布が極めて限られているため引き続き不安定な状況にあり、フランスのヴォルタリア社が建設中の新しい風力発電所は、この素晴らしい保護成果を危険に晒す恐れがあります。

2020年に州環境庁から認可を受け、風力発電所建設が始まった場所は、生物多様性重要地域(KBA)であり、そして野生のコスミレコンゴウインコの世界における全個体が生息している絶滅ゼロ同盟(Alliance for Zero Extinction 、AZE)サイトであるバイーア州カヌードス地区でした。2021年初頭、ヴォルタリア社は風力発電所建設のために土地を切り開き、最近の画像では、最初のタービンが設置されているのが確認されています。これは、2021年7月にバイーア州政府からプロジェクトの中断を勧告されても、進められました。

生息地はすでに伐採され、最初の風力タービンが設置されている © Fábio Arruda/BARONG

SAVEブラジル(バードライフ・ブラジル)のディレクターであるPedro Develey氏は、「近年のコスミレコンゴウインコの個体数の増加は、NGO、政府、地域社会が一体となって取り組んだ結果、保護に成功した例と言えます」と述べています。「この種の限られた分布地域に、風力発電所が設置されることで、こうした保護効果が損なわれてしまうのです」。風力発電所がAZEと重なっていることは、環境と社会の持続可能性に関する国際金融公社のパフォーマンス基準を満たすという、ヴォルタリア社自身の持続可能性に関する公約とも真っ向から矛盾しています。

風力発電の影響を受けやすい特徴を多く持つコスミレコンゴウインコ© Joao Quental

ヴォルタリア社は小規模な影響評価を実施し、施設内で一定の緩和策を提案しましたが、完全な環境影響評価は施設が稼動してから実施されることになっています。コスミレコンゴウインコの風力発電所の影響を受けやすい複数の特徴は、大きな懸念材料です。例えば、コスミレコンゴウインコは体が大きく、移動能力が高いため、餌を求めて70kmもの距離を高速で飛びます。夜明けから夕暮れにかけての薄暗い時間帯に飛行するため、衝突の可能性が高くなるのです。カヌードスのバードウォッチングガイドであるLorinho Reis氏は「カヌードス風力発電所が建設される場所は、この鳥が主な営巣地や餌場に向かうルート上であり、適切であるとは思えません。風車や電線は、空を飛ぶ動物、特に群れをなして飛ぶコンゴウインコの衝突や感電の危険性が高く、一度の事故で数羽が死亡する可能性があると思います」と述べています。

特に、違法なペット売買のためのヒナの捕獲、電線との衝突、主な餌であるコバナスジミココヤシの生育不足など、持続的な脅威からこの種を保護するために、保護活動家は懸命に働いてきました。特にこの種は長寿であるため、成鳥の死亡率の上昇が種に与える影響が大きいことを考えると、風車との衝突が脅威として加わることで近年の個体数の回復はすぐに相殺されてしまうでしょう。

 

再生可能エネルギーは、生物多様性を損なってはならない

KBAパートナーシップを代表して、バードライフは、SAVEブラジル、ABC、LPO(バードライフ・フランス)などの他の自然保護団体とともに、ヴォルタリア社に書簡を送り、カヌードス風力発電施設の移転とすでに伐採した植生の回復を要請しました。2020年以降、SAVEブラジルとABCは、より適切な場所を特定するために頻繁に協力を申し出ましたが、このフランス企業は消極的な姿勢を見せています。「ヴォルタリア社が提案した緩和策を用いても、コンゴウインコが死亡するリスクは拭えず、コンゴウインコの生息域外に施設を設置することが妥当です。彼らは他の選択肢を探すべきだったのです」とDeveley氏は言います。

施設に反対をしているのは環境保護団体だけではありません。2021年、バイーア州の70のコミュニティがこの施設に反対する書簡に署名し、伝統的な放牧地へのアクセスを妨げるなど、地域の生活に悪影響を与えること、プロジェクト計画時に市民との協議が行われていないことを強調しました。また、生物多様性への懸念、特にコスミレコンゴウインコがこの地域のシンボル的存在であり、珍しい鮮やかな青いその姿を一目見ようと世界中から観光客が訪れていることを指摘しました。

バードライフと私たちのパートナーは、ヴォルタリア社の開発に反対していますが、決してこの地域のすべての持続可能な開発プロジェクトを批判しているのではありません。化石燃料から再生可能なエネルギー源への移行は、気候変動を食い止めるために不可欠であり、これらのプロジェクトは地域経済にも大きく貢献します。実際、バードライフは、エネルギー企業数社とともに、施設が生物多様性に与える影響を最小限に抑えるための取り組みを行ってきました。しかし、すべての場所が風力発電に適しているわけではなく、絶滅危惧種の重要な生息地の近くで風力発電を進めるというヴォルタリア社の決定は無謀です。

新しい再生可能エネルギー産業への動きは、自然への影響を最小限に抑えるために積極的に計画をするまたとない機会でもあります。影響緩和を想い遡及してしまう多くの活動とは異なります。しかし、ヴォルタリア社がこのプロジェクトを開始したことで、この地域の他の開発プロジェクトも、生物多様性への影響を最低限しか考慮せずに進められるという残念な前例になってしまうかもしれません。ヴォルタリア社は、すでにバイーア州内で12カ所の開発用地を追加提案しています。責任を持って行動し、野生生物への影響を最小限に抑えるよう細心の注意を払っている他の再生可能エネルギー企業の評判をこのプロジェクトは落とすことになるかもしれません。

© Ciro Albano

アオコンゴウインコに見いだす希望

バイーア州のカアチンガ林の固有種で、2019年に野生絶滅が宣言され、最後に野生の個体が確認されたのはその20年以上前であったアオコンゴウインコ (Spix’s Macaw, Cyanopsitta spixii)には良いニュースがありました。数十年にわたる調査と計画を経て、今年6月に野生復帰プログラムが始まり、飼育下で繁殖した8羽がバイーア州の別のKBAおよびAZEであるクラカに放たれました。しかし、ヴォルタリア社はAZEの近辺に別の風力発電所を提案しており、アオコンゴウインコが餌を求めて50kmも飛ぶことがあることを考えると、すでに不安定な状況にあるこの土地にとって、かなりの脅威となることが予想されていました。

幸いなことに、メディアの反発を警戒したのか、ヴォルタリア社は保護コストが高すぎると判断し、この風力発電所の建設は中止となりました。野生復帰プログラムは20年間予定されており、アオコンゴウインコの野生復帰が公式に宣言されるにはまだ長い道のりですが、この風力発電所建設の中止によって、野生復帰成功の可能性が間違いなく高まったと言えるでしょう。

アオコンゴウインコ© Al Wabra Wildlife Preservation

報告者:Liam Hughes

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