モーリシャスでオイル流出:環境危機が拡がる
2020年7月25日、4000トンの燃料を積んだパナマの貨物船が、2キロ圏内に重要な自然保護区のあるモーリシャスの南東沖で座礁しました。モーリシャスのバードライフ・パートナーが危機の最前線でどのように活動し、私たちに何ができるかを考えてみましょう。
7月25日に4000トン超の重油、潤滑油、ディーゼル油を積んだパナマ船籍の貨物船「わかしお」(長鋪汽船の関連会社が保有・管理、商船三井が運航する)が、モーリシャスの南東沖で座礁しました。この災害は、モーリシャス野生生物基金(MWF:モーリシャスのバードライフ・パートナー)が管理する島嶼の自然保護区「エグレット島」からわずか2キロしか離れていない場所で起きました。この島はモーリシャスバト(絶滅危惧Ⅱ類)、モーリシャスメジロ(絶滅危惧ⅠA類)、モーリシャスベニノジコ(絶滅危惧ⅠB類)などの重要個体群の生息地です。この貨物船はブラジルに向かう途中、ポワント・デスニーから3キロ沖合のサンゴ礁に座礁しました。ポワント・デスニーは、ブルー・ベイ・マリーンパークとポワント・デスニー湿地の二つの重要なラムサール条約湿地、および、島嶼国立公園の近くに位置します。
難破船は、8月6日(火)にオイル流出が始まるまでの12日間、サンゴ礁上に横たわっていました。約800トンのオイルが海に流出し、モーリシャスの脆弱な海洋生態系であるエグレット島と、自然のままのターコイズブルーのラグーンを危うくしています。数日のうちに流出したオイルは北に移動し、マエブール湾を見渡す3つの島、パス島、ヴァコア島、フォケ島に到達しました。これらの島は、モーリシャスの本島では絶滅した2種のトカゲ科など固有の爬虫類の重要な生息地です。人口120万人が生活するこのインド洋の島嶼国であるモーリシャスは、漁業と観光業に大きく依存していますが、これらの産業は既にコロナウイルスのパンデミックの悪影響を大きく受けています。オイル流出は、黒い泥で覆われた海岸線の写真で示されるように、自然のままのラグーン、サンゴ礁、生物多様性に悪影響を与え、環境災害であることが明らかです。
MWFはこの危機に最前線で対応しています。彼らの介入の重要なポイントの一つが、エグレット島の絶滅危惧動植物を守るための予防策をとっていることです。12羽のモーリシャスメジロと6羽のモーリシャスベニノジコが捕獲され、状況が改善されるまで保護をするため、国立公園・保護サービスのブラックリバー禽舎に移動されました。同様に超貴重種を含む4千の固有植物がエグレット島の苗床から本島に運ばれ、森林サービスのマエブールの施設に保存されています。
MWFのスタッフは、所有するエコツーリズム用のボート「チョウゲンボウ号」を使って、休むことなくオイル汲み上げ作業を手伝いました。ボート内には2台のタンクが設置され、エグレット島の海岸線に沿った水域の表面に浮いたオイルをその中に汲み上げました。ボートはタンクを空にするために本島に戻り、その後毎日同じ作業が繰り返されています。それに加えてMWFは、清掃作業を支援するチームを創設するため、SNSでボランティアの呼びかけを行いました。
「法人の寄付者と人々からの反応は、素晴らしかったです。」とMWFの資金調達・コミュニケーションマネジャーのJean Hugues Gardenneは言います。「その理由の背景には、モーリシャスの人々がワンチームに結集したことが挙げられ、寄付は第1日目から集まって来ました。清掃作業を安全に始められるようになった時に、私たちを手伝ってくれる数千人のボランティアが既に登録されています。
これまでのところ、更にオイル流出が起きる危険は高くはありません。オイルの大部分は船から汲み出されました。ただし、悪天候が汲み出し作業を阻み、湾内にオイルをまき散らす可能性は残っています。当局はブームと呼ばれるオイルを止める浮遊式障壁を配備し、フランスは近くのレユニオン島から装備と専門技術者を派遣しました。
数千人の住民とボランティアが、ストレッチネット、サトウキビのストロー、ペットボトルで作られたオイルを水面に向けるためにナイロン糸で縫われたブームによる汲み出し作業を手伝っています。ブームはオイルを止めており、汲み出し作業を容易にし、この活動は報われつつあります。
「当面私たちは、オイルの清掃作業によってボランティアを危険に晒してはいません。」とGardenneは言います。「私たちは製品の毒性や、適切な防護用具なしで作業を行うことにより健康へのリスクを冒さない様、注意します。私たちの前線にいるスタッフは完全な装備をしなければなりませんし、特に女性は健康問題の危険にさらしません。」と彼は付言しました(研究によれば、女性の方が石油化学製品により深刻な影響を受けやすいことが示唆されている)。
Gardenneは警告を発しています。「多くの人が短パンで水中を歩いて行きますが、これは大変危険なことです。数時間ガスを浴びているだけで頭痛、鼻や目の火傷や目まいを起こす可能性があるのです。」
MWFは、今回のオイル流出による近隣地域の海鳥のコミュニティへの影響を調べており、他の地域の調査も行っています。幸いに渉禽類が1羽死んだという報告があるだけで、海鳥が影響を受けたという記録は多くはありません。この地域の上空を無傷のアカオネッタイチョウが飛んで来たところが観察されています。
「オイルの清掃作業が始まっているというのが最新ニュースですが、オイル流出の影響は間違いなくこれからの長い間生ずるでしょう。生計のために漁業に依存する地元コミュニティは大きな影響を受けていますが、海岸沿いに住んでいる人たちは常に煙と蒸気に晒されます。エグレット島で行われた35年間の保全活動が、危機に瀕しています。」とJean-Huguesは結びました。
報告者:Jean Hugues Gardenne & Lewis Kihumba
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