スウェーデンの朝

カラフトフクロウ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2020年6月号

写真・文=高円宮妃久子殿下

フクロウの仲間はマトリョーシカ人形のような風貌や首をくるりと180度回す仕草が魅力的であり、子供のみならず、大人にも人気があります。人間のように両眼が同じ方向を向いているため、親近感がわきやすいのも確かです。今回はスウェーデンでやっと出会えたカラフトフクロウの写真をご紹介させていただきます。

若いころからカラフトフクロウはいつか見てみたいと思っていた鳥でした。数年前、スウェーデン訪問時に試みたのですがその時は縁がなく、昨年、認知症フォーラムに出席した際に、再チャレンジいたしました。早朝3時半、美しい朝焼けを見ながらカラフトフクロウに遭遇できるかもしれないというワクワク感を胸に向かったのは、ベステルオースから北北西に30キロほど行った森です。樹齢60年を超える木や20年に満たない若い木、そして間伐された場所が混在しており、昔とは違う、最近の典型的な森の姿という説明を受けました。

カラフトフクロウは顔も体も大きいのに、見事なまでにカモフラージュされ、最初は案内人に「あそこ」と言われても、まったく見つけることができませんでした。羽の模様が樹皮と似ていて、バウムクーヘンのような特徴的な顔も、木のこぶのように見えてしまうのです。

スウェーデンの朝焼け
この時季の日の出は3時半頃。
刻一刻と色調が変化していくさまは実に印象的。
夏は白夜に近く、真冬はとても暗い北欧に住む人々は、太陽の光で季節を感じるのであろうか。
写真提供:© HIH Princess Takamado

双眼鏡やスコープで2時間ほど観察したあと、私たちは切り株に座って軽い朝食としゃれこみました。40分くらいの時間でしたが、カラフトフクロウはずっとこちらを観察していたのでしょう。その後、私たちが動き出した時には、それまでと比べて警戒していない様子でした。同行していた専門家に、もう慣れたので接近した位置からの撮影も可能です、と言われ、驚くほど近くまで案内されました。しばらくすると、カラフトフクロウは自ら寄ってきて、興味深そうにこちらを見たり、木から木へと飛び移ったりしていましたが、ついには目の前で狩りまで披露してくれました。

英語では「朝起きは三文の得」を“the early bird catches the worm”といいます。これは朝早くから活動開始する鳥の姿を見ての格言ですが、朝早くから鳥を探しに出ると本当に得するな、と思うことがたくさんあります。この朝到着して最初に遭遇したのは、ヘラジカの母子。しばらく不思議そうに我々の様子をうかがっていましたが、ゆっくりと去っていきました。

カラフトフクロウもヘラジカも、人間という種と適当な距離を保ちながら共存しているのを目の当たりにして、何とも言い得ぬ心地よさを感じました。地球は人間だけのものではなく、その豊かさは数多の生物によって成り立っています。自然界の生き物とどう共存していくかは将来に向けての大事な課題。いろいろと考えさせられたスウェーデンの朝でした。

遠くから見ると木のこぶ
この種を含む多くのフクロウ類は左右の耳の位置が上下にずれており、両耳への音の到達時間差と音圧差で、正確に獲物の位置を特定する。
この種の平らな顔(顔盤)はとても大きく、パラボラアンテナのように音を集めることで、なんと、60センチの下を動くハタネズミに狙いを定め、捕らえることができる。
写真提供:© HIH Princess Takamado

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