世界の鳥の大きな謎を解く
2017年レッドリストの更新版では、ある1種が「消えた」ことに気づいた方もいたことでしょう。リベリアヒヨドリは、バードライフでは種として認められなくなりました。けれども嘆くなかれ。これまでにもあったような、鳥の分類上の謎が解決したという最新の事例というだけのことなのです。
彼らは奇妙な鳥の集まりです。エチオピアヨタカはたった1枚の翼があるだけでした。アンデスヤマハチドリはボゴタの市場で売られていた1枚の皮だけが知られていました。モズの一種(African Shrike)は、ドイツで捕獲飼育されていた1羽のみが存在を証明するものでした。マダガスカルのオオハシモズの一種と思われていた鳥は、実際には全く異なる科に属する種でした。ブラジルのアトリ科の一種は、正しく分類されるまで2世紀もかかりました。そして今回、リベリアのヒヨドリは2017年版レッドリストにおいて独立種ではないと判定されました。
いつの頃か、この6種は鳥類分類学上の世界最大の謎となりました。これらの謎の幾つかはようやく解かれました。それ以外の種は鳥類学上の謎として残され、私たちの理解を妨げ、保全上の意思決定に混乱を招きます。種が保全活動の基本的単位であることを考えるとこれは問題です。
真の種を定義する要素を正確に判定することは保全活動のリソースを適切に割り当てる上で重要な鍵です。もし独立種だと思っていたものが多型や交雑種だったとしたら、保全活動として誤った投資をしてしまうことになりかねません。反対に、もし有効な種が見落とされるようなことがあればその種を保全する機会を失ってしまうかも知れません。
2017年版レッドリストでは、一つの有名な謎が明らかにされています。これまでデータ不足とされていたリベリアヒヨドリが種とは認められなくなったのです。この「種」はリベリアのカバリャ森林で1981年に発見されてから3年ほどの間は時々観察されましたが、その後一度も見つかっていません。
このことがバードライフの前IBAコーディネーターのLincoln Fishpoolの興味を引きました。彼や他の人たちはリベリアヒヨドリと、広い分布を持つコキバラオリーブヒヨドリとの違いは翼の上にある白い斑点だけであることに気付きました。Fishpoolはこれが単に異常のある個体の羽だったのではないかと考えたのです。「その後の観察例が一度もないことが疑問を生みました。」と彼は思い出します。Fishpoolはカバリャ森への遠征に加わりましたが、翼に斑点のあるヒヨドリの発見は叶いませんでした。もしそれが真の種ならば、絶滅したということになるでしょう。
もし真の種であるなら・・・。別の手法、即ちDNA解析を行う時が来ました。その結果は、リベリアヒヨドリは実際にはコキバラオリーブヒヨドリではないかというFishpoolの考えに何にも勝る証拠となったのです。
Fishpoolはリベリアヒヨドリが「種」ではなかったことに幾分悲しく感じたといいます。「もし真の種だったなら、カバリャ森林の保全を強力に後押しする存在となったはずです。この森は絶滅危惧種に指定されている20種の鳥と哺乳類が生息するIBAなのです。」。けれども彼はリベリアヒヨドリの消滅に対して冷静に受け止めています。「まだ他にも保全が必要な種は有り余るほどいるのです。」
リベリアヒヨドリの物語は、より激しい論争となったアフリカの陸鳥のストーリーを思い起こさせます。1989年にソマリアで発見されたBulo Burti Boubou(ヤブモズ科の鳥)は、昔から証拠として求められてきた剥製ではなく、生体に関する記載だったために、博物館の鳥類学者を混乱させることになりました。その唯一の個体は、ソマリアに戻される前にドイツの動物園に移送されました。17年後、分子生物学者がこの個体は独立種ではなく、それまで記録のなかったソマリーヤブモズの色の多型であることを示しました。このヤブモズ科の鳥は単なる間違いだったのです。
エチオピアヨタカは1枚の翼で新種に
バードライフの絶滅阻止プログラム上級マネジャーのRoger Saffordはもう一つの大きな発見に関わりました。1990年代にエチオピアの草原を調査していた彼のチームは交通事故で死んだヨタカを拾いました。その後彼らはその一枚の翼を元に新種エチオピアヨタカとして記載しました。
「古生物学者なら常にやっていることですが、現生の鳥をこのような不完全な標本から記載した初めての例となりました。」とSaffordは言います。
このヨタカの話の続きはその奇妙な発見と同様に不思議なものです。確実な観察記録が全くありません。2009年に再発見したとする話を掲載した本がありますが、エチオピアヨタカだとの確たる証拠は何も提示されていません。写真もビデオも音声録音もないのです。この謎は未だに解決していません。
特にベニバシゴジュウカラモズ属の一種とされたHypositta perditaなどのようなケースでは専門家といえども簡単に間違えてしまいます。60年前にスイス人解剖学者がマダガスカル南東部で集めた標本を精査したドイツ人の博物館学芸員が、2羽の未確認の雛を見つけました。1996年に彼はこの鳥をベニバシゴジュウカラモズ属の新種として記載しました。「多くの鳥類学者はベニハシゴジュウカラモズの幼鳥であると考えて譲りませんでした。けれども木に登るオオハシモズ類にしては足が違っていました。」とSaffordは言いました。
DNA解析が行われた結果、この鳥は「オオハシモズ科ですらなく、全く異なる科に属するマダガスカルチメドリの幼鳥」だったことが分かりました。「大きな間違いは、最初にこの鳥をオオハシモズ類と想定したことです。この事例は、ある種が新種かどうかを決める時には偏見を持たずに臨むべきだという教訓です。」とSaffordは言います。
難問解決の助けになるはずの証拠があっても、簡単に理解できるとは限りません。ボゴタテンハシハチドリは1909年にコロンビアの市場で神父が購入した一枚の皮だけで知られており、それがどこで捕えたものかすら分かりませんでした。ハチドリは、20世紀初期の欧州や北アメリカのファッショニスタからの需要を受けた大規模な羽毛売買の対象であり、決して生きた状態で見られることはありませんでした。
ボゴタテンハシハチドリの発見100周年に合わせて、DNA解析が行われました。Stuart Butchart(バードライフのチーフ科学者)は、本種が実際には恐らくアオフタオハチドリを母親とする交雑種であるとする説を裏付ける新たな証拠となると考えています。もしボゴタテンハシハチドリが有効な種ではないことが確認されれば、バードライフは種として扱わなくなるでしょう。
以前ボゴタテンハシハチドリを種であると示唆していた鳥類学者に関して「もし今回の解析を「生き延びた」なら、遺伝子解析における近縁と思われる種の十分なサンプリングの必要性を改めて示すことになるでしょう」とButchartは論じています。
保全の観点からはこれは救いになるでしょう。「アンデス山脈のどこからこのハチドリが来たのかという手掛かりがなければ、どのような脅威を受けており、どのような保全活動が必要かを明らかにすることはできません。」とButchartは言います。同じことがアルゼンチンの鳥類学者Nacho Aretaによって「南米の鳥類学上最大の謎の一つ」とされたズキンヒメウソについても言えます。彼のチームは、1823年に捕獲された標本だけが知られていたこの鳥を再発見するために数ヶ月を費やし(そして失敗しました)、種ではないと結論づけました。その結果、保全活動家はこの鳥の保全に頭を悩ませる必要がなくなったのです。
長い間見られなかった種が再発見されるというハッピーエンドが起きることもあります。Roger Saffordはコモロ諸島(アフリカ大陸東南部)で最後に観察されてから丸々一世紀後に、アンジュアンコノハズクを再発見しました。それに続く調査で本種は懸念されていたほど稀ではないことが示唆され、2017年のレッドリスト更新版では絶滅危惧IB類に格下げされました。一方、ベネズエラの山岳地帯ではベネズエラジアリドリが60年も人の目をかいくぐっています。本種は絶滅したのでしょうか?あるいは本当に種だったのでしょうか?
しかし2016年、遂に再発見されStuart Butchartを喜ばせました。この特別な難問が明らかになり、「私たちが本種の現状、脅威、保全対策を知るための次のステップに進むことが出来ることを意味します。」とButchartは述べています。
Butchartはこのような成功話が、バードウォッチャーが人里離れた場所の探索に乗り出すきっかけになればと考えています。失われた鳥の再発見は新種の発見よりも間違いなく価値があります。こうした「失われた」あるいは謎の鳥のうち、Butchartは特に謎を解きたい種としてセントルシア(カリブ海の島国)のセントルシアアメリカムシクイ(まだ必ず生息しているはず)、インドのクビワスナバシリ(一世紀にわたり「失われた」後に再発見され、その後再び見られなくなった種)、ボルネオのアオメヒヨドリ(DNA解析で非有効種になる可能性のある種)の3種を挙げています。
Saffordは鳥の謎について「絶対にあきらめてはならない」と考えています。一枚の翼からヨタカの新種を記載し、一世紀にわたり失われていたミミズクを再発見するという偉業を成し遂げた人物からの発言には、説得力があります。
報告者:James Lowen