オナガサイチョウの安全な営巣のために

残念ながら保護されていないオナガサイチョウの1羽 © Craig Ansibin / Shutterstock

貴重な「犀角」への需要により絶滅の縁にいるオナガサイチョウが、法律執行の強化と縮小する森林生息地のパトロールにより、生き残りをかけた戦いのチャンスを手に入れました。

オナガサイチョウのペア(絶滅危惧ⅠA類)は同時には1羽の雛しか育てないので、その安全を確保することは最優先事項です。それは頑丈な玄関ドアに投資をすることを意味します。雌は卵を産む準備ができると、樹洞の中の巣を内側から泥や果物などを接着剤にして密閉します。捕食者からは見えなくなるので、巣は安全な避難場所になります。ここでは彼女と雛(通常は1羽)に危害が及ぶことはありません。巣の中で彼女は雄が果樹の間を飛び回って食べ物を持って来るのを待ちます。およそ5ヶ月後、雛が飛び立つことが出来るように、雌は自分で作った監獄を巨大な嘴を使って壊す時がやって来ます。

数千年の間、この方法はオナガサイチョウが確実に生き残るために効果的でした。しかし、よくあるように人間の活動がサイチョウに適したもののバランスを変化させました。劇的な密猟の増加は、母鳥の避難所が彼女の墓場になることを意味します。彼女は巣の中でパートナーが持って来る食べ物を待ちますが、密猟の犠牲になった雄が戻って来ないからです。

この段階に至るのでさえ、オナガサイチョウのペアは、営巣に適した樹を見つけるという大きなハードルをクリアしなければなりません。営巣樹には雌の成鳥が、子育てをするための大きな穴がなければならず、またその上には雄が止まって巣の小さな開口部に果物を落とせるような横枝が必要です。このような仕掛けは、よく成長した森の最も古く高い樹木でしか見つかりません。一方で、このような樹木は伐採者にとっても最も貴重なので益々希少になっているのです。

営巣が可能かどうかチェックしているオナガサイチョウ
写真提供:© Sanjitpaal Singh / jitspics.com

食物も貴重な資源で、本種は採餌テリトリーを巡って争うことが知られています。大きな樹木が実を結ぶ時には、時として一騎打ちの戦いが起きます。オナガサイチョウの頭に付いているヘルメットを、お互いに耳が聞こえなくなるほどの音を立ててぶつけ合います。何回かのぶつけ合いの後、勝者は食物を最初に求める権利を持つと言われています。

しかし、果物と営巣樹の減少が二つの漸増する脅威だとしても、本種が2015年に突然準絶滅危惧種から絶滅危惧ⅠA類に絶滅危惧種になってしまったのか、この極めて稀な現象が生じた理由を説明できません。過去10年で何が間違ってしまったのでしょうか?

話は、オナガサイチョウの額にある巨大な犀角に戻ります。皮肉なことに、身を守るために作られたはずの特徴である彼らのヘルメットが、死刑宣告になったのです。平均体重3㎏のこの巨大な鳥の体重の10%を占め、雄にも雌にも備わっているオナガサイチョウの犀角は、サイチョウ類の中で唯一硬く、つまり彫刻に極めて向いているものなのです。

人はこの素材を装飾品として数千年にわたり彫刻を施してきました。そして、2012年に密猟による犀角の大量の押収により需要の急騰が明らかになるまで、オナガサイチョウの絶滅危惧にはそれほど大きな懸念はありませんでした。その3年後、オナガサイチョウは、レッドリストの絶滅に次ぐカテゴリーに分類されたのです。その理由は犀角の彫刻が中国人の富裕層のステータスシンボルになり今では象牙の5倍で売られているからなのです。犀角が所有者に言っているのは、「たで食う虫も好きずき」なのですが・・・

組織犯罪集団から押収された犀角
写真提供:© Bonie Dewantara

話を森林に戻すと、密猟者はオナガサイチョウを探して数日間歩くでしょう。時にはサイチョウが姿を見せることを狙ってサイチョウの猿のような笑い声の特徴ある声を真似ます。遂に長い尾を後方に垂らした巨大な鳥が、樹冠を滑るように飛び、消音ライフルがこれを撃ちます。撃たれたのがオナガサイチョウのこともありますが、別のサイチョウのこともあります。報酬が巨額なので、密猟者はフィールドガイドで種を確認することもしませんし、そのつもりもありません。最悪のシナリオは、雄が雌や雛に食物を供給している繁殖期に撃ち殺されることです。密猟者の手中の1羽の死は、巣の中のもう2羽の死に相当するのです。

密猟のホットスポットはインドネシアで、しばしば国際的犯罪組織により密猟が編成されます。密猟はマレーシアのサラワク州の境でも起きている可能性がありますが、幸いにブルネイ、ミャンマー、タイなどその他の国では狙いを定めた密猟はほとんど、または全くなさそうです。これらの国の地元コミュニティは、サイチョウが生きる価値のある存在として認めています。ミャンマーでは全てのサイチョウは、その貞節が賞賛されており(ペアは生涯連れ添う)、マレーシアでもサイチョウは大きな文化的意義を持っています。

個体数を調査し、密猟者を阻止するために、バードライフ・パートナーの一部は地元住民と共に巣のモニタリングとパトロールを行っています。一部のハンターにとってはこのスキームに加わることが、金銭を得る手段になります。「私は野生生物(サイチョウを含む)の狩猟を止めました。政府が、より有利な代替手段である国立公園のレンジャーにしてくれたからです。」この方法で、これらのシステムが2重防御として機能します。私たちは現場に目と耳をかた向けているだけでなく、ハンターを密猟の輪から救い上げたのです。

現在はこのような巣と雛を守るためにレンジャーが雇用されています。
写真提供:© Sanjitpaal Singh / jitspics.com

サイチョウの生態学的価値を理解して、保護活動をやる気にさせられた人もいます。主な種子散布者として働くサイチョウの森林との関係は、実際に相互依存の関係にあります。MNS(マレーシア自然協会)のサイチョウ保護官は、彼の動機について次のように説明しました。「サイチョウがいなければ、森林もなく、我々もいません。サイチョウが元気ならば森林も健康です。」

「密猟と直接戦うことは重要ですが、それだけではサイチョウを救うのに十分ではありません。」とバードライフ・アジアの絶滅阻止プロジェクトのコーディネーターAnuj Jainは言います。「私たちの主要なアプローチの一つは、サイチョウの重要拠点を生息地の喪失、劣化および人間による攪乱から守り、同時に地元コミュニティの生計を改善することです。」

バードライフは、法規制の強化や需要の減少など他の目標も含め、オナガサイチョウの主要生息地を保全する活動を行う複数の団体で構成される「オナガサイチョウ・ワーキング・グループ」の一員です。過去2年間にわたり、私たちはミャンマーからボルネオ間で緊急な野外評価を始め、本種が生息している新しい場所を幾つか特定しました。次のステップは、政府に対してこれらのエリアを明らかにし、新しい「安全な場所」を確保できるよう、彼らを説得することです。これらのエリアは、サイチョウの個体群を支えるのに十分な広さがあり、これらの地策により密猟と森林劣化が効果的に緩和されている場所です。

犀角の密猟は、全ての州で起きているわけではありませんが、歴史はこれらの活動がどれほど簡単にやり方を変えることができるかを示しています。オナガサイチョウの生息域全体に安全な場所を確保することにより、バードライフは生息地喪失の問題に取り組むだけでなく、密猟者が来る前にオナガサイチョウを守るメカニズムを設定するのです。しばしば組織化されたネットワークにより、森林に侵入する密猟者は、森林喪失とサイチョウのユニークな営巣行動と合わせて、オナガサイチョウの個体数を急落させる原因となりました。これらの安全な場所をつくることは、密猟者の侵入を防ぎ、巣に戻って食べ物を供給する雄を守り、オナガサイチョウを売買の対象から除外し、彼らが本来生息する場所、即ち森林、特に古木の樹洞にいるようにすることなのです。

報告者:Cressida Stevens

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