自然への脅威が 人類の存続を脅かす
生物多様性に迫る危機を回避すべく、緊急対策を求める民衆の強い抗議が広がる中、各国政府が報告書でこれに賛同しました。
パリで行われたIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学–政策プラットフォーム)の総会で、世界に向け報告書が発表されました。人類史上例のない速さで、自然が劣化しており、私たちの将来を脅かすことにつながるというものです。私たちは、食糧、水、綺麗な空気および気温調節など、人類にとって最も基本的なニーズの大部分を健全な生態系に依存しているため、自然の劣化は、人類の将来に結びつきます。重要な点は、これは科学者による政府への提言ではなく、参加した各国政府自らが、認め、採択した報告書であったという点です。
最初のIPBESによる世界的評価は、遺伝子や種、生態系などの人類共通の遺産とセーフティネットが急速に劣化しているというものでした。報告は、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストのためIUCNとバードライフがまとめた鳥類の評価グループのうち、4種に1種が絶滅の危機にあることを示していました。この傾向を全てのグループの推定数で試算すると、100万種という衝撃的な数の種が絶滅の危機にある可能性があります。
ある指標によれば、大きな減少にはまだ至っていませんが、人類によって、脊椎動物は1970年と比べ、60%が減少しており、同時にこれらの動物の生息地も失われています。このように人類の影響により、陸上環境の75%、海洋環境の40%が深刻な変化を受けています。
ところで、私たちが愛する鳥たちの絶滅の危険性とは別に、なぜ生物多様性を大切にしなければならないのでしょうか?種の絶滅と個体数の減少は、学者や保護活動家だけではなく、私たち全員に関係のある事なのです。健全な生態系とは、生命の多様性と豊富さの両方を有しており、私たちが生きるために必要な食糧、水、綺麗な空気をもたらす‘生態系サービス’には、この絶妙なバランスが必要です。生態系が生物多様性に富むほどその利益は大きく、長期的に気候変動を含む変化に対する見返りが高い傾向にあります。
バードライフが、鳥と生物多様性についてまとめた報告書“State of the World’s Birds(仮訳:世界の鳥の現状)” など、世界的に認められた独自の科学調査に基づき、長い間生物多様性の深刻さと、持続可能な開発について、国連気候変動枠組条約、ラムサール条約、生物多様性条約などの国際的政策プロセスにおいて、提言を続けてきました。また、これら諸問題に対する革新的解決策の策定と導入も行ってきました。
例えば、インドネシアでは、バードライフとそのパートナーのブルーン・インドネシアで、伐採された、または劣化した森林を再生する生態系修復コンセッション(Ecosystem Restoration Concession)という制度を設け、気候変動緩和や生物多様性を保全する動きが全国に広がっています。また、‘アジア・パシフィック森林ガバナンス’(Asia-Pacific Forest Governance)プロジェクトは、インドネシア、マレーシア、フィリピン、パプアニューギニアにおいて、森林減少・劣化に関連する温室効果ガス排出削減(REDD+)のための活動を通じ、地元住民が森林を管理、保全できるようにしています。さらに「一兆本の木」プロジェクト(Trillion Tree)では、既存の樹木を保全し、2050年までに世界で木が1兆本を望めるよう樹木の復元を目指しています。また私たちは世界中の地元住民と共に沿岸域、内陸性湿地、乾燥地、草原および海洋生態系の全域を守るための活動を行っています。
IPBESの地球規模評価報告書で大事な点は、生物多様性条約会議で採択された「愛知目標」や国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」(バードライフのChief Scientist Stuart Butchart博士が共同で策定した)などの国際目標を評価しているところです。報告によれば20ある愛知目標の内4つ以外達成が見込めないと結論付けられました。達成見込みのある一つは保護区の増加に関連し、現在陸地と淡水環境の15%、海洋域の7%の増加を達成しています。しかし、これらの地域はKBA(生物多様性重要地域)などの生物多様性にとって特に重要なエリアが部分的にカバーされているだけで、多くの地域でまだ効果的な管理が行われていません。
一般的に、自然保護や自然資源の活用が、より持続的に実現するための政策対応導入については進展が見られましたが、生物多様性の喪失に関する訴求力は不十分でした。その結果、自然環境の多くが劣化を続けています。自然と、自然を守る人々によって「持続可能な開発目標(SDGs)」は支えられているのです。すなわち、生物多様性の喪失が進行するということは、貧困、飢餓、健康、水、都市、気候、海洋及び陸地に関連する目標達成の妨げになります。
このように、私たちが自然を荒廃し続ければ、次世代に残されるのは、明らかに危機的な世界です。大切な生態系と多くの種を失えば、私たちの素晴らしい地球は、間違いなく魅力を欠き、住み難い場所になるでしょう。
(本文を一部省略しました)
(2019年6月3日 本文を一部改編しました)
報告者:Noëlle Kümpel博士(Head of Policy, BirdLife)およびStuart Butchart博士(Chief Scientist, BirdLife)