ひょうきんな猛禽
「レンズを通して」婦人画報誌2021年10月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
前回(2021年8月号)、鳥の写真をご紹介した時には、トビが実は賢い鷹であることを書かせていただきました。今月は、狩りの名人といわれる猛禽たちのひょうきんな表情をご覧に入れたいと思います。
最初の写真はハヤブサ。カラスと同じくらいのサイズで、今回ご紹介する中では一番大きい猛禽です。ハヤブサは最高時速300キロメートルの急降下で、飛んでいる鳥をまずは蹴落とし、捕らえます。写真は隠岐島で、断崖絶壁に生える木に止まっていたメスです。若いオスと番を形成し、営巣中でした。半日だけでしたが、天気のよい日に、崖の上から同じ視線の高さで観察できたのは、運がよかったと思います。
「キィーキィー」と大きな声でオスに餌を要求しているのを見て、空中での餌渡しが撮影できるかもしれない、とカメラを設置して待ちました。しばらくして、オスがプレゼントの餌をもって近づいてくると、メスはすぐに飛び立ったのですが、空中の餌渡しはなく、別の太い枝に移動。平らな場所があるのか、オスは獲物をその上に落としたように見えました。夢中でシャッターを切り、後で拡大してみると、獲物は羽をむしった大きい鳥でした。メスはその獲物を受け取ると、横にせりだした枝に移り、獲物を足で押さえ、あたりを警戒しながら、嘴で引きちぎって完食。食べ終えると、しきりに嘴を枝にこすって汚れを取り、どこかに飛んでいきました。そして10分から15分後、戻ってきたときにはこの姿でした。顔や嘴、羽に付着していた獲物の肉片や血を洗い流すために、海まで降りて浅瀬で水浴びをしてきたのでしょう。猛禽は目がいいので、「あ、見られている」と思ったのか、目をまん丸にしてこちらを見ていました。
チゴハヤブサはハヤブサより小さく、ハトくらいの大きさです。オオタカの撮影をしていた時に、近くの木に何かが止まったことに気づき、双眼鏡で確認。ハヤブサと思い、そっとレンズを向けてカメラのシャッターを切りました。ところが数枚撮ったところで、羽繕いを始め、足をストレッチ。にゅっと出した足の太ももあたりの赤に目が釘付けになりました。いかにも赤いパンツをはいているかのような姿は間違いなく、私が初めて観るチゴハヤブサ。初遭遇の上に写真まで撮れてしまった、ラッキーな一瞬です。
残りの2枚はチョウゲンボウです。羽繕いをしている若いオスを撮影していたら、耳かきのような仕草をしました。猛禽なので、足がしっかりとしていますし、何となく豪快でありながら、目をつぶっていかにも気持ちよさそうなところに、愛嬌を感じました。
もう1枚はメスです。時折、細い枝に舞い降りて「おっとっと」となる鳥を見かけるのですが、このメスには、更なる試練が待っていました。枝は縦に伸びています。自分の体だけでもバランスを取るのが大変なのに、なんと、オスが交尾のために接近し、背中に乗ったのです。枝は重みでゆらゆらと揺れ、2羽とも翼を大きく広げて、巧みにバランスを取りながら、交尾を終えました。オスが飛び去ると、またもや、「おっとっと」。その姿がなんとも可愛らしくて、笑ってしまいました。
優雅な姿もいいのですが、ひょうきんな姿も魅力的です。鳥とこのような瞬間があることで、より満ち足りた、幸せな時間を過ごしているように感じます。
ひょうきんな猛禽の姿を観ながらふと思ったのですが、「魅力」とは、完璧すぎるものにではなく、ちょっと力が抜けるような一瞬から垣間見える、意外な一面に感じるものではないでしょうか。それは森羅万象すべてのものに通じることかもしれません。鳥と過ごす時間には、いろいろと気づかされることがあります。