小型送信機で北米から南米に渡る鳥を追跡
「モートゥス野生生物追跡システム」はBird Studies Canada(BCS: カナダのパートナー)が研究者や関係団体と共同で開発した革新的な技術です。「モートゥス(ラテン語で運動の意味)」は重さ0.3g未満の小型無線送信機を備えており、ムシクイ類など小型のスズメ目の鳥の背中にも装着できます。現在では昆虫に装着できるほど更に小型のものが開発されており、オオカバマダラ(渡りをするチョウ)の移動調査の事例があります。
この送信機は5~30秒ごとに1回の頻度で固有の数値パターンのパルスを発信します。このパルスは超短波受信機で受信され、15㎞までの範囲であれば自動的に検知、記録されます。
同システムでは数千の送信機を同時に運用できるようになっており、現在はおよそ350ヶ所の受信基地があります。巨大なテレビアンテナと同様に、受信機は塔や灯台、樹木、高さ約30フィートの柱などに取り付けられます。受信機は海上にも設置できます。既に何台かがカナダ、ノヴァスコシア州沿岸の海上の石油やガスのプラットフォームにも設置されています。
「モートゥス」の新しくてワクワクする点は数多くの研究者の資源やインフラを一つの大きな活動に利用することができることです。このシステムが可能となったのは、こうした人々の綿密な協力関係があればこそなのです。」とBSCのモートゥス・プログラムのマネジャーStuart Mackenzieは説明します。
発信機を取り付けられた鳥やコウモリ、大型の昆虫などが受信範囲内を通過するとデータがオンタリオにあるBSCの中央データベースに自動的に記録され、研究者に共有されます。「個々の発信機は固有の信号を発信するため、私たちは対象動物の動きや習性について非常に詳細なデータを得るが出来ます。例えば、対象の鳥が何処へ、どれ程の速さで移動したか、その途中でどれ程の時間ある場所に留まったかを知ることができます。」とMackenzieは言っています。
現在、「モートゥス」のオープンソースとなった技術を利用して数多くの個人的な研究プロジェクトが行われています。その中にはコオバシギ、ヒレアシトウネン、コシジロウズラシギなどのシギ・チドリ類の渡りの追跡や、ハイイロチャツグミ、オリーブチャツグミの渡りルートのモニタリング、ノヴァスコシアのセーブル島だけで繁殖するイプスウィッチシトド(サバンナシトドの亜種)の繁殖後の分散の調査などが含まれます。
「モートゥス」が足環やジオロケーター、他の記録機器などの鳥類追跡の他の方法よりもはるかに優れている点の1つは、データを入手するのに鳥を再捕獲する必要がないという点です。Mackenzieは「モートゥス」を装着した鳥からのデータ回収率は従来の足環の回収率よりもおよそ1,000倍も高いと推定しています。
「2015年にコロンビアの越冬地で行われたプロジェクトでは、発信機を取り付けたハイイロチャツグミとオリーブチャツグミの67羽のうち19羽、実におよそ30%の鳥から渡りのデータが得られました。以前の大陸間の渡りの調査と比較すると前例のないほどの回収率です。」とMackenzieは言います。
ツグミ類の移動について非常に質の高いデータが集められています。例えば、2015年3月19日にコロンビアの日陰栽培コーヒー園で発信機を装着されたオリーブチャツグミは、4月14日までこの場所に留まりました。5月18日にこの個体はカナダ、サスカチェワン州のチャップリン湖の小さな塔が並ぶ場所を飛んだことが検知されました。およそ6,000㎞を34日間で飛んだという驚くべき記録です。これは一カ月間、毎日少なくとも175㎞を飛んだことに相当します。またハイイロチャツグミの調査ではコロンビア州からインディアナ州までの3,200㎞を3.3日で飛んだことが記録されており、実に一日当たり平均986㎞も移動したことになります。
今後数年内に「モートゥス」の利用は急速に広がるでしょう。最近まではモートゥス装置はほとんどがカナダ東部と米国など、北アメリカに限られていました。けれどもバードライフ・パートナーのパナマ・オーデュボン協会とグイラ・パラグアイの協力により、「モートゥス」のアンテナ網が初めて中米および南米にまで延長されました。
「地球全体に広がる可能性を秘めたプロジェクトです。」とMackenzieは言いました。「恐らく2016年に行われた、今後最も期待出来る進展の一つがオーデュボン・パナマとの共同作業でパナマ運河地域に沿って受信機を配置したことです。発信機を装着した大半の鳥が北アメリカから南アメリカに渡るときにこれらの受信機の近くを通過するはずであり、データがパナマ・ゲートウェイで記録されることになるでしょう。」
パラグアイは、北半球からの渡り鳥が40種以上飛来することが記載されていますが、彼らの到着を追跡するのに理想的な場所をピンポイントで特定しました。首都アスンシオンの当局の支援によりグイラ・パラグアイはアスンシオン湾の南部のコーン状の場所に1つ目のモートゥス追跡ステーションを設置しました。観光情報センターの事務所の上にあり、アスンシオン湾とパラグアイ川が見渡せる海岸であるため、アンテナを立てるのに適した場所です。今後、このシステムはパラグアイ川に沿ったグイラ・パラグアイの保護区や中央チャコ平原の塩湖などの渡り鳥にとって重要なエリアに拡張することが計画されています。
「モートゥス」はドイツのヘリゴランド島での鳴禽類にも装着され、欧州でも利用が始まりました。受信機はメキシコ湾やアメリカの太平洋飛行場にも設置されるなど、この画期的な技術は急速に各地に広まっています。世界中で渡り鳥の移動を把握する方法が求められていることは、オーストラリアからも引き合いがあったことからも明らかです。
報告者: Ed Parnell
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