バイオエネルギー: 良いもの、悪いもの、醜悪なもの

イツにおける木材の収穫
写真提供: (c) Andreas Beer

EUが今月末に待望の「再生可能エネルギーのパッケージ」を発表するだろうという憶測が高まる一方で、バードライフのSini Eräjää(人名)は全てのバイオエネルギーは「善」であるという神話を否定します。

欧州のバイオエネルギー政策は、「再生可能な資源」であるとしてバイオエネルギーは全て良いものだという神話の上に築かれています。気候にも、より持続可能な未来のために良いというのです。けれどもバードライフには「すべての輝くものが黄金であるとは限らない」という格言と同様「再生可能であってもすべてが持続可能であるとは言えない」という格言があります。分かりやすく言えば、バイオエネルギーは私たち皆が望んでいる「クリーンな夢」ではないのです。場合によっては、バイオエネルギーは化石燃料の使用を超えるCO2を排出する場合があるのです。バイオエネルギー使用の急増を後押しする政策は「良いもの」と「悪いもの」を区別し、バイオエネルギーによる気候への真の影響の「醜悪な真実」を明らかにする必要があります。

 

良いもの・・・

もちろん良いバイオ燃料は存在します。「無駄がなければ不足しない」: エネルギー生産のために使える可能性のあるバイオマスとして最高のポテンシャルを秘めているのは、にあり、特に農業における残余物、即ち、収穫後に畑に残る作物などの残余物や廃棄物です。肥料や林業の残余物や廃棄物にも大きな可能性があります。

けれども、バイオエネルギーを持続可能になるように利用しようという考えが、当初期待されていたよりもはるかに小さくなっているというのが、悲しいながらも現実なのです。バードライフ・ヨーロッパでは他のNGOと共に、環境あるいは気候を害することなくエネルギー生産のために燃焼できるバイオマス量はどの程度なのかを知る目的で多くの研究を行って来ました。私たちの解析では既存の土地と森林の利用に関して4つの基本的な点を考慮しました。

  • 生物多様性のためにより多くの土地と森林を残す必要性。
  • 自然が行う炭素貯蔵(樹木と土の中に)を維持する必要性とバイオエネルギーのためにこれを減らさないこと。
  • 貴重な自然資源が無駄使いされずに効率的に利用されることの必要性。
  • バイオマスへの欧州の需要によって、EUのエコロジカル・フットプリントがEU領域を越えてさらに拡大しないようするべきである。

バードライフとトランスポート&エンバイロンメント社が間もなく公開する新しい研究はこれら全てを考慮に入れ、幾つかの警告すべき結論に達しました。それによると2030年にエネルギーのために利用できるバイオマスは、オイル換算で最大でも1億5千万トンに過ぎません。これは欧州委員会が見込んでいる2030年におけるバイオエネルギー需要を満たさないだけでなく、EUの2030年目標の達成に必要な再生可能エネルギーの量の僅か30%分にしかなりません。現在バイオエネルギーが再生可能エネルギー源の60%を占めていることを考えると、重大な発見といえます。予想よりもエネルギー用に利用可能な持続可能なバイオマスが少ないだけでなく、バイオエネルギーといってもそのほとんどは木材を様々な形で燃やしているだけなのです。農業や他の産業から出る様々な残余物をもっと利用するように変えて行く必要があるのです。

 

悪いもの・・

「悪い」バイオエネルギーとは単にこの30%という指標を越えたものが何でも悪いということではありません。悪いバイオエネルギーはバイオマスの間違った利用、即ち、食糧用作物と全ての樹木、また木の切り株や枯れ木などのことです。バイオエネルギーに対する政府の補助金と奨励金がこうした活動の急拡大につながっています。補助金(バイオエネルギーによる電力への価格保証など)によって、高品質の木材、食用作物、あらゆる樹木の燃焼につながっています。私たちはこのような悪いバイオエネルギー利用の増大という恐ろしい事例を明らかにしてきました。

欧州に輸出されるバイオディーゼルのために、熱帯雨林を切り開きパーム油のプランテーションを造成している話や、欧州の発電所で使用されるペレットを作るために米国南部の森林が破壊されているという話は、聞いたことがあるひとも多いでしょう。ところが、こうした事態は欧州でも起きていることに気が付いている人はほとんど居ません。11月22日にバードライフ・ヨーロッパは「The Black Book of Bioenergy(バイオ燃料のブラックリスト)」を出版しました。この本では、バイオエネルギーの炭素に関する壮大な嘘の背後にある問題について、8つの最近の事例を紐解いています。フィンランドの象徴的な風景がバイオエネルギーのために荒廃してしまった話や、イタリアの美しいエミリア・ロマーニャ州が河畔林を燃やした後で新たに洪水の危険が起きた話などが紹介されています。 

 

・・・そして醜悪なもの

欧州のバイオエネルギーの話で最悪なのは「グリーン・ウォッシュ」、即ち、バイオ燃料の利用が気候に良い影響を与えるという誤った認識です。欧州のエネルギーおよび気候に関する政策では、全てのバイオ燃料は炭素排出に関して中立的だとしていますが、これは世界中の気象学者やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が全く支持していない考え方です。

バイオエネルギーの‘炭素の虚偽’は、計算方法の解釈間違いにまで至ります。炭素の会計においては、樹木を伐採(あるいは、作物の収穫やバイオエネルギー生産のために土地を耕すことなども)することで発生する炭素は、「どこか他の部門」の勘定に入れられるので、エネルギー部門の計算に入れる必要がないとの意見の一致がありました。ところが不思議なことに、エネルギー部門はいわゆる「ゼロ・カーボン」としてバイオエネルギーに殺到していた一方で、「どこか他の部門」はしばしば忘れられたり、ぞんざいに扱われたりしていたのです。昔の西部劇の映画に出てくるようなカードゲームのインチキのようではありませんか。正にその通りです。このフリーパスはエネルギー部門にとっては便利かも知れませんが、「この排出」も「どこかに」含まれなければなりません。さらに重要なのは、そもそもこれらの排出が絶対に起きないように政策が変更されるべきで、そうでないと地球の気象は無闇に赤信号に突っ込んで行くことになります。

 

町には新しい保安官が必要

間違った情報を与えられた人々が、かつてバイオエネルギーがもたらした「環境の希望」にすがり続けたいと考えるのは理解できます。しかし内情を知っている人たちが茶番劇を続けることは許されることではありません。彼らの言う通り「望みは消えた」のです。近々欧州委員会はバイオエネルギーの持続可能性に関する新しい法案を公表する予定です。これは欧州の「炭素詐欺師」に対して町に新しい保安官が居ることを示す絶好の機会です。委員会は法律を制定し、「悪’」を除き、「醜悪」を解消しなければなりません。それで初めて「良」のものが最後に残るのです。

 

報告者: Sini Eräjää―バードライフ・ヨーロッパ&中央アジア、バイオエネルギー政策オフィサー

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