インドの秘宝を探せ

ベンガルショウノガン
写真提供: Dhritiman Mukherjee

「サイや鳥を見に泊っていって」 — これがアッサム地方の観光局のモットーです。毎年数千人の観光客が希少種インドサイの姿をちょっとでも見たいと遠く離れた北東インドの州にやって来ます。インドサイの個体数は3,000頭以下で、その3分の2がアッサム地方の素晴らしい国立公園に生息しているのです。

しかし、この地方はバードウォッチングの名所でもあります。カジランガとオラングの二つの国立公園は共にバードライフによりIBA(重要生息環境)に認められており、それぞれ512種と225種の鳥が確認されています。この地域の豊かな鳥類相を見るのにサイから目を離す必要はありません。シラサギ類やハッカチョウ類は、サイの背中に乗り、その皮膚に寄生している虫や、巨獣に追い出された昆虫を食べているところが見られるからです。

国立公園内の川や森林など遠くまで足を延ばすバードウォッチャーは絶滅危惧ⅠA類のシロハラサギや準絶滅危惧種のオオサイチョウなどの、かなり珍しい種に遭遇するかも知れません。しかし、アッサムの森林環境はインドの法律で良く保全されているものの、周辺の草原や湿地は放置されがちです。

これらの広大でほぼ立ち入り不能な草と葦の「要塞」は多くの世界的絶滅危惧種の生息地で、特に絶滅危惧ⅠA類のベンガルショウノガン(最初の写真)は最も象徴的な種です。本種は小さな個体群がカンボジアに居る他には、インド北部とネパールの草原に孤立した個体群が生息するだけです。人の関心を惹かない環境であるにもかかわらず、こうした生息環境の将来は多くの要因により危ぶまれています。

ブラマプトラ川の草原 写真提供: © Dhritiman Mukherjee

ブラマプトラ川の草原
写真提供: © Dhritiman Mukherjee

これらの環境は農業や住宅地のために開墾され益々断片化されており、また大型の家畜を飼育するために野焼きが行われ、草原の鳥の巣や卵が壊されます。これらのエリアのほとんどは移動及び安全上(国立公園内にはサイやトラが生息している)の理由でバードウォッチャーが滅多に訪れることがなく、従って、草原に依存して生息する鳥の真の状況は今まで十分に分かっていません。

知見不足を補うため、ボンベイ自然史協会(インドのバードライフ・パートナー)の上級科学アドバイザーAsad Rahmani博士が主導する調査チームがブラマプトラ川の氾濫原に広がる熱帯草原において1年間の調査プロジェクトを始めました。ブラマプトラ川はチベット高原に源を発し、アッサム地方を通って西に流れ、南下してバングラデシュを蛇行する大河川です。

「私は過去30年間ベンガルショウノガンの調査と研究のためにアッサム地方に行っていました。この期間に氾濫原がむしろ小さくなって来ていることが分かり、それに伴いこれらの草原に生息する鳥も減少しています。私は提案書を書き、他の人たちにも草原の種のために活動するように促しましたが、残念ながらインドではこれらのプロジェクトに資金を提供する人が居ませんでした。そして、2年前にバードライフが「絶滅阻止プログラム」を通じて活動資金を援助してくれたので、私たちは研究を前に進めることが出来たのです。」とRahmani博士は言っています。

プロジェクトはインド北部のアルナーチャル・プラデーシュ州の低地からアッサム平原に及ぶブラマプトラ川周辺の草原をカバーします。川の氾濫原では保護区の豊かさを垣間見ることが出来ます。カジランガとオラング国立公園に加えて、チームはパビトラなどの小規模あるいはあまり知られていない野生生物サンクチュアリや、過放牧が行われているような保護されていない草原を数多く訪れました。

氾濫原の境界の外に位置するものの調査対象種が見られる重要な草原も調査しました。その中でも最大のものはブータンとの国境にありゾウやトラの保護区を擁する面積520㎢のマナス国立公園です。ここは面積のほぼ半分が背の高い草で覆われ、鳥類ではインドセンニュウチメドリ、ヌマハウチワドリ(オナガハウチワドリの亜種で、2016年のIUCNのレッドリストで別種に認定される予定)、ムナグロダルマエナガなどの種が生息しています。

オラング国立公園の野生の草原で鳥を見る。 写真提供: © Asad Rahmani

オラング国立公園の野生の草原で鳥を見る。
写真提供: © Asad Rahmani

インドセンニュウチメドリ 写真提供: © Ranjan Kumar Das

インドセンニュウチメドリ
写真提供: © Ranjan Kumar Das

様々な困難がありましたが、Rahmani博士のチームは調査対象の12種の世界的な絶滅危惧種の草原の鳥の個体群の状況と分布に関する予備的報告書をまとめることが出来ました。その結果はこれらの種の状況はチームが想像していたよりもひどいものでした。特に固有種チャノドヤブウズラが懸念されます。この用心深い地上性の鳥の生態や習性はほとんど分かっていません。草原環境の劣化と断片化が本種の減少を招いていると考えられます。チームは今回の野外調査だけでなく、2015年と2016年の調査でも本種を観測することはできませんでした。本種は2013年にIUCNのレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に格上げされましたが、過去50年間でわずか2回しかその姿が確認されていないことからRahmani博士は絶滅危惧ⅠA類にすべきとしています。また、報告書では調査範囲を西ベンガルからマニプル州まで広げ、草丈が高く歩行調査で鳥を飛び立たせるのが困難な場所ではゾウを使う調査を実施することが推奨されいます。チャノドヤブウズラの数が非常に少なくなっていることはすでに知られていますが、この報告書ではなぜこのような調査が必要かも示されています。

オリーブ・グレー色で目立たないヌマハウチワドリは広範囲に生息していると考えられていましたが、今回の調査でその生息域は当初考えていたよりもはるかに狭いことが明らかになりました。報告書は足環やカラー・マーキングなど行って彼らの移動をさらに調べることと、かつて彼らが生息していた地域に適切な環境を復元することを推奨しています。同様の対策がムナグロダルマエナガにも求められています。本種は現在5ヶ所でのみ見つかっており、地元住民により草ぶき屋根、家具、フェンスなどのための草刈りによる草原の断片化が脅威となっています。

調査に訪れた場所の多くは人里離れた無人島だった。 写真提供: © Asad Rahmani

調査に訪れた場所の多くは人里離れた無人島だった。
写真提供: © Asad Rahmani

カジリンガ、オラング、マナスでのベンガルショウノガンの幾つかの個体群が安定している良い知らせもありましたが、彼らの将来は幾つかの地域で依然として危惧されています。脅威の例はアルナーチャル州でのダム建設で、これは川の流れに影響しますがまだどのようになるかは不明です。また保護区外での草原の農地への改変も脅威の一つです。アルナーチャル・プラデーシュ州のD’Ering野生生物サンクチュアリなど幾つかの保護区でも、中央アメリカからの外来種ランタナ(和名 シチヘンゲ)が地元の植物を圧迫して広がることにより生息環境が脅威を受けています。カジリンガではいたるところで、立ち入ることが出来ないような深い繁みを作るブラジル原産の棘の多い植物Mimosa diplotricha(ミモザの一種)により悩まされており、また野生バラの広がりが湿地を損壊し、植物の多様性を減少させています。

この地域での外来植物との戦いは、この土地の持つ特性のためにひときわ大きな課題となっています。「多くの地域にサイ、ゾウ、野生の水牛が生息しているために、ここでの野外活動には武装したガードマンが必要です。ですから、これらの外来植物を除去するのにはボランティアを頼ることは出来ません。」とRahmani博士は言っています。保護区外で調査した草原に関しては、今すぐ緊急な行動を取らないと未来はない、と彼は付け加えました。それらの多くは過剰放牧あるいは管理不十分な野焼きにより劣化しています。野焼きは時々管理不能に陥り、火の向かう先にある全てのものを焼いてしまいます。

幸いにも、保護区内にはまだ状態の良い草原環境が十分にあり、適切な管理が行われれば、アッサムの草原に生息する固有種の生存を今後も支えてくれることが判明しました。次のステップは地元の人たちが草原を管理する方法を鳥に優しいやり方に変えるように働きかけることです。これは多くの社会的、法的な課題がからむ困難な仕事になるでしょう。

 

報告者: Alex Dale

 

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