世界湿地の日 :人間と野生生物に恩恵をもたらす湿地の保全

湿地は、高度に生産的で生物学的に多様な生態系であり、水質を高め、浸食を抑制し、河川の流れを維持し、炭素を隔離・固定することで、人類に恩恵をもたらす重要な役割を果たしています。湿地の生物多様性保全における役割と人類に対する生物学的な恵みの提供は共に重要です。

 

人間と野生生物に種々の有益なサービスを提供する湿地の保全活動は非常に重要です。湿地は、生産的で生物学的に多様な生態系であり、水質の向上、浸食の抑制、河川の流れの調整、炭素固定に不可欠です。また、魚類、水鳥、その他の野生生物の重要な生息地であり、汚染された水を浄化し、洪水や暴風雨の威力を緩和するのに役立っています。

 

しかし乍ら湿地は、環境や人類に対する重層的な恩恵を提供しているにも拘わらず、都市化、伐採、農業、水循環系の改変など、様々な人間活動によって脅かされています。湿地を保護する重要な側面の一つは、生物多様性を維持する役割です。湿地は絶滅危惧種を含め、様々な種の繁殖、営巣、採餌、越冬のために不可欠であり、湿地保全は世界の生物多様性の保全にかかせません。さらに、湿地は渡り鳥にとって不可欠であり、渡りの間の休息地と餌場となっています。

 

1971年には、湿地と湿地が持つ天然資源の保全と賢明な利用のための国際的な枠組みであるラムサール条約が発足しました[1]。ラムサール条約登録湿地は、国際的に重要な湿地を特定するための一定の基準に基づき指定されています。ラムサール条約登録湿地は、生物多様性重要地域(KBA)[2] とも密接で重要な関係を持っています。

 

KBAとラムサール条約登録湿地は、多くの登録基準値が重複しています。KBAは、ラムサール条約登録の候補地の選定に適している場合が多く、KBAの情報 は、生物多様性の観点から保全すべき湿地を特定するために重要な役割を果たしています。ラムサール条約登録湿地と KBA の両方に指定された場所の例としては、ガーナのデンス・デルタ ラムサール条約登録湿地、ペルーのフニン湖、パキスタンのジュボ・ラムサール条約登録湿地があります。

 

ガーナのデンスデルタ・ラムサール条約登録湿地は、開けたラグーン、塩田、淡水湿地、低木林、砂丘から構成されています。1992年にラムサール条約登録湿地に指定され、国際的に重要な生物多様性重要地域に指定されています。この地域は、都市化による無許可の住宅開発によって生息地が破壊され、都市化の拡大によって脅かされています[3]。

アフリカクロサギ © Ben Costamagna.アフリカクロサギの存在は、デンスデルタ・ラムサール条約登録湿地におけるKBA登録基準の一つ

 

ペルーのアンデス高地に位置するフニン湖は、重要なラムサール条約登録湿地であり、生物多様性重要地域(KBA)です。この湖は水鳥の豊富さと多様性で有名であり、繁殖、中継、越冬種にとって重要な生息地となっています。特筆すべきは、ペルーカイツブリ(Podiceps taczanowskii)、フニンクイナ(Laterallus tuerosi)、ミミジロカイツブリ(Rollandia rolland)のという3種の固有亜種或いは亜種の全世界の個体数を支えていることです[4]。

 

ペルーカイツブリ© Josh Vandermeulen. ペルーカイツブリの存在は、フニン湖のKBA 登録基準の一つ

 

パキスタンのジュボ・ラムサール条約登録湿地は、1つ以上のAZE(分布が1か所に限られる絶滅危惧種が生息している地域)の条件とKBAの録条件を共に満たす国際的に需要な生物多様性地域です。ここは標高0メートル、面積5,276ヘクタールの陸域と淡水からなる生態系で、絶滅に瀕している生物種または崩壊の危機に瀕している生態系を持つ地域です。

 

カタシロワシ© nocturnal_darkness. カタシロワシの存在は、ジュボ・ラムサール条約登録湿地のKBA登録基準の一つ

 

世界湿地の日は、湿地が人間と野生生物にとって、いかに重要な役割を果たしているかを思い起こす日です。

 

湿地の保全は、生物多様性を維持し、気候変動を緩和し、現在と将来の世代の幸福のために不可欠です。私たちは常に、地球上のすべての生命のために、湿地を保護・保全する意識を高め、具体的な行動を継続しなければなりません。

 

[1] Wildlife Practice. 2017年2月。テクニカルペーパー: 生物多様性重要地域とその他の指定の関係 https://kbacanada.org/wp-content/uploads/2022/09/WWF2017_Technical-Paper-The-Relationship-Between-KBAs-and-Other-Designations.pdf

[2] 生物多様性重要地域とは、生物多様性の世界的な持続に大きく貢献する場所であり、国際自然保護連合(IUCN)が承認した「生物多様性重要地域を特定するための世界基準」に基づいて特定される。

[3] 生物多様性重要地域パートナーシップ(2024) 生物多様性重要地域ファクトシート: デンスデルタ・ラムサール条約湿地とその周辺。生物多様性重要地域世界データベース より抜粋。https://www.keybiodiversityareas.org/site/factsheet/6342 

[4] 生物多様性重要地域パートナーシップ(2024) 生物多様性重要地域ファクトシート: Lago de Junín. 生物多様性重要地域世界データベースより抜粋。https://www.keybiodiversityareas.org/site/factsheet/14788

[5] 生物多様性重要地域パートナーシップ(2024) 生物多様性重要地域ファクトシート: ジュボ・ラムサールサイト。生物多様性重要地域世界データベースより抜粋。https://www.keybiodiversityareas.org/site/factsheet/16448 

 

原文 “World Wetlands Day: Preserving Wetlands for People and Wildlife

(本文を一部編集しました)

 

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