北欧の夏 ⎯ 家族の絆
「レンズを通して」婦人画報誌2024年6月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京
日本とフィンランドが国交樹立百周年を迎えた5年前、記念行事の一環として、私の撮った鳥の写真展がヘルシンキにある国立公文書館にて開催されました。展覧会終了後も、これらの写真は公文書館ミッケリ支部にて常設展示されることに決まり、昨年6月、記念セレモニーに出席するため、フィンランドを訪問。撮影の時間も取れましたので、今回はその時に撮った水鳥の子育て写真をご覧に入れます。
最初の写真は、カオジロガン。スオメンリンナ要塞のミュージアム前に数羽のガンたちがおり、その中に小さなヒナを連れた2番がいました。後に合流した左の親鳥が首を伸ばして、頭を低くした姿勢をとり、ほぼ同時に右の親鳥も同じような行動をとりました。子連れ同士、軽くけん制し合っていたのだと思いますが、なんだか挨拶を交わしているみたいで、ほほえましい光景でした。
次の写真はコブハクチョウの母子。今回、湖畔の少し高い位置からの撮影でしたので、親鳥2羽とヒナの行動がよく観察できました。ヒナたちは岸に近い水深の浅いところを移動し、メス親はヒナたちを守るように岸に沿って湖側を泳ぎ、ヒナたちを誘導。オス親は少し離れたところで警戒しながら追従し、餌となる植生の多い所に到着すると、家族と合流して一緒に採餌していました。
アンデルセン童話 『みにくいアヒルの子』 は、黄色いアヒルのヒナと違ってグレーであることからいじめられ、「みにくい」自分の姿に悲嘆する子が、美しいハクチョウに育ったというお話です。子供たちがまだ幼かったころ、読み聞かせた後に、「このグレーはヒナが身を守るための色よ」と教えていたことを、今回、懐かしく思い出しました。岸辺の近くには大小さまざまな石ころがあり、ヒナたちはその間を縫うようにして泳ぎます。水面下では足を動かしていますが、上から見るとあまり動きがなく、特に頭を水につけた状態だとまさに石ころ。望遠レンズを通してでも見失うほどの優れたカモフラージュ力に驚きました。
最後はカワアイサの家族の写真です。繁殖期のオスの頭部は光沢のある緑色がかった黒色ですが、メスはご覧のように茶褐色。平均7〜13個の卵を産み、もっと多い例もあります。写真のヒナは孵化して6週間前後と聞きました。カワアイサは餌を巣に運んで給餌することはなく、ヒナは孵化して間もなく巣を離れ、自分で餌を獲る練習をしながら、親鳥の後について行きます。親鳥は小さなヒナの体温を奪われないよう背中に乗せ、翼で覆い、大型の魚を含む捕食者から守り育てます。この母鳥は10羽のヒナをここまで育て、ずいぶん楽になったであろうと、ついつい感情移入してしまいました。
フィンランドでは、夏至に近い週末から休暇に入り、祖父母、兄弟姉妹、子、孫などで郊外の家に集まり、和やか、かつ賑やかに白夜を楽しむ習慣があるとのこと。訪問した際も、金曜日の夜はヘルシンキを出る車で渋滞。対照的に翌日は驚くほど静かであったのが印象的でした。
皆で集まるのは楽しいが、去った後に疲れがどっと出る、と話す友人はとても幸せそうで、いい笑顔をしていました。大家族で集まるフィンランドの人たち。そしてヒナの世話に励む鳥たち。家族の絆や子育てについて、改めて考えさせられた爽やかな北欧の旅でした。