なぜか見つけにくい鳥
「レンズを通して」婦人画報誌2024年8月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京
バードウォッチングは誰でも楽しめるものです。専門家でなくても、気軽な気持ちで野外に出て、鳥を観察できます。多くの方が趣味としておられ、私もその一人です。ただ、鳥を観察するためには、まずは鳥の姿を見つけなくてはなりません。囀る季節はいいのですが、それ以外の時は思いのほか難しいのです。そこで、今回は「見つけにくい鳥」という観点から、写真を選んでみました。
最初はブラジルの色鮮やかな鳥です。上の写真はミドリズキンフウキンチョウ、下の写真がベニフウキンチョウです。ブラジルの森はかなり背の高い樹木が密集しており、日差しも日本でイメージされる「木漏れ日」の光とは異なり、強烈です。そのため、ミドリズキンフウキンチョウの姿はまさに「ブラジル木漏れ日模様」と化し、ベニフウキンチョウは左後ろに写っている赤い花と見間違えます。ともに派手な色なのに、動くまで見つけることができませんでした。
下の写真はカラフトフクロウ。とても大きな、存在感のあるフクロウです。スウェーデンの開けた森林では、枯れて白くなった針葉樹が何本も立っており、カラフトフクロウがそのような木にじっと止まってこちらの様子をうかがっていると説明されたのですが、目が慣れるまではどうしても居場所がわかりませんでした。この大きな体と頭が、木のコブに見えてしまうのです。
アカノガンモドキは印象に残るルックスをしています。大きな目の周りは少し青く、真っ赤な嘴と独特な長い冠羽が大変おしゃれです。必要な時以外には飛ばないようで、長い脚を使って時速20キロで走って逃げると聞きました。通常ペアで行動するらしく、何らかの理由で離れていた番の雌雄が合流すると、頭を上下させて、大げさなお辞儀を繰り返す挨拶を交わします。大きいのに、色調と風になびくような羽が周りの植生に溶け込み、草原に佇んでいるだけだと、意外に見つけにくかったです。
最後の写真はニシツノメドリ。繁殖期の最も派手な夏羽の時に撮った写真です。繁殖期以外は海で過ごし、冬羽は顔が灰色、嘴もくすんだ色になります。海鳥は基本的に黒・白・グレーの配色で、胸と腹部が白っぽく、背中は黒かグレーです。餌となる魚からは、海鳥の白い腹部が大空を背景に見えづらくなるため、海鳥は魚に気づかれずに効率よく餌を獲ることができます。また、海に浮かぶ鳥たちの黒やグレーの背中は、波と光線の織り成す明暗模様に同化します。上下横と全方向から見えにくくなりますので、天敵から守ってくれる保護色ともいえるでしょう。
海鳥の話になりましたので、20年近く前に見た映像について書かせていただきます。海外の科学者チームがビデオカメラをつけたコウテイペンギンを、海氷に開けた大きな穴から水中に放して撮った記録動画のことです。調査の目的は、ペンギンの中で最も深くまで潜るコウテイペンギンが水深何メートルまで潜り、その真っ暗な深いところで、何を、どのように獲っているかを解明することでした。
結果、学者たちの予想を超える、実に興味深い映像が撮れたのです。コウテイペンギンは深いところまで潜ると、海面を覆う氷を見上げながら、しばらく同じ水深を保って泳いでいました。そして、海面の氷をバックに獲物となる魚のシルエットが黒く見えると、それに向かって急上昇し、魚を捕らえたのです。それは、ワシやタカが上空をゆっくり飛びながら、獲物を探し、見つけた時に狙いを定めて、急降下して捕らえるのとまったく同じ手法でした。
鳥を撮影するためには、まずはその姿を見つけなければなりません。相手にアピールしようとしている求愛のシーズンは、カメラマンにとっても「鳥がみつけやすい」時季。改めて考えると、鳥の姿は、「目立つ必要性」と「天敵から見つけられにくくする」という矛盾する2つの要因の産物なのかもしれません。