鳥の水浴び

カワウ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2025年8月号

写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京

 

公園の噴水広場などで子どもたちが楽しそうに水遊びをする姿を見ると、こちらまで涼しく感じます。暑い時季、水しぶきは涼感を誘いますので、今回は鳥の水浴びをテーマに、写真をご紹介することにいたしました。

最初の写真は、井の頭公園で今年撮ったものです。何事かと思うくらい大きな水音がしたので急いでそちらにレンズをスウィングすると、そこには勢いよく水浴びするカワウの姿がありました。豪快な水浴びは3度繰り返され、1回ずつがかなり長い時間であったように思います。撮影しながら、よほど汚れていたのであろうか、ただ気持ちがいいのか、それとも遊んでいるのであろうか、などと考えてしまいました。

カワウ 82cm ウ科
分布は広くユーラシア大陸の中南部、アフリカ、オーストラリアのほか北米の東海岸にも生息。北部のものは冬期、南に下る。
日本では主に本州、四国、九州で繁殖し、本州北部、北海道で夏鳥、南西諸島では冬鳥。
潜水が得意で魚を食べるため漁業との軋轢もある。
© HIH Princess Takamado

 

暑い夏、体を冷やす目的なのか、鳥が気持ち良さそうに水に浸かっている姿を見ることがありますが、実は寒い冬でも水浴びをします。鳥にとって水浴びは日常生活に欠かせないものなのです。鳥を覆う羽毛は糸状の構造が絡み合っており、そこに溜め込んだ空気によって体温調整を行います。また、羽毛に脂粉を塗って防水機能を保ちます。鳥は水浴びによって、この羽毛についた汚れや寄生虫を落とし、その後に羽繕いをすることで、羽毛が複雑に絡み合った状態をリセットするのです。また、鳥によっては、体から寄生虫を落とす砂浴びや雪浴び、蟻に寄生虫を食べてもらう蟻浴などもします。

カワウの話に戻ります。ほとんどの鳥は尾羽の近くにある分泌腺の脂をくちばしで塗布し、羽毛に撥水性を確保しています。しかし鵜の仲間は尾脂腺が未発達であり、この行動を取りません。脂のコーティングがない鵜の羽は撥水せず、羽毛の間に空気が溜まらないので、体が水に沈みやすくなります。この浮力の低下がとても大事で、水に潜って餌を捕る鵜にとっては実に好都合。これによって水中を自由自在に泳ぎ回ることができるのです。

右のページの写真(web上では下の写真4点)はエリグロアジサシ、ゴジュウカラ、ガビチョウ、そしてキビタキです。エリグロアジサシは宮古島で撮りました。海に囲まれているのに、なぜか駐車場の水溜まりで水浴びしていました。真水で水浴びするメリットがあるのかもしれません。

エリグロアジサシ 30cm カモメ科
インド洋、西太平洋、オーストラリアの島嶼(とうしょ)に分布。
日本では南西諸島に夏鳥として渡来し、海岸の岩礁などに営巣する。全体的に減少傾向にある。
© HIH Princess Takamado

 

次は北海道で撮ったびしょ濡れのゴジュウカラです。鳥の水浴びを観察していると、地肌まで水に濡れる種類と、さほどでもない種類があることに気づきます。

ゴジュウカラ 13.5cm ゴジュウカラ科
ヨーロッパから日本までユーラシア大陸の中部の森林に留鳥として生息。日本では北海道から九州までの山地で広葉樹林に多い。木の幹を上下に歩き、樹皮の下に潜む虫を探す。
© HIH Princess Takamado

 

次のガビチョウは外来種で、最近生息分布を広げています。長野の藪の中で、入念に水浴びを繰り返していました。

ガビチョウ 22.5cm チメドリ科
中国中南部からベトナム、ラオスの北部に分布。日本に飼い鳥として持ち込まれたものが野生化した外来種。
現在は東北南部から九州まで留鳥として広く見られる。
© HIH Princess Takamado

 

そして最後は、キビタキです。パシャパシャパシャッととても品の良い、あまりにも可愛い水浴びをするので、笑ってしまいました。島根で撮りました。

キビタキ 13.5cm ヒタキ科
世界的に分布は狭く、北海道から九州までの日本とサハリンに夏鳥として渡来。冬期はフィリピンなど東南アジアに渡る。
全国の低山地や平地林で美しい歌声を聞かせてくれる。
© HIH Princess Takamado

 

上の写真(web上では下の写真)は隠岐島のハヤブサです。断崖に営巣を始めたばかりのつがいを1時間半ほど観察しました。撮影の7、8分前、オスのハヤブサが運んできた獲物を満足そうに食べ終えたメスは、嘴についた汚れを枝にこすって落としてから飛び去りました。止まっているのは断崖に生えている木ですので、真下に海があります。戻ってきた時にはこの姿でしたので、餌を食べ終えたタイミングで羽に付着した汚れを落とすために水浴びに向かったのでしょう。何だかすっきりした顔がとても可愛いです。

ハヤブサ オス38cm メス51cm ハヤブサ科
分布は極めて広く南極以外の全世界で見られる。日本では北海道から九州までの海岸などの崖地に営巣する。冬期は別亜種も冬鳥として渡来。
最近は市街地のビルの谷間にも営巣し、ドバトを捕食している。飛んでいる鳥を上から急降下し、足で蹴って捕らえる。
© HIH Princess Takamado

 

鳥は水浴び中に時々辺りを警戒し、安心できる状況であれば、実にリラックスした姿を見せてくれます。鳥にとって日常的にする水浴びは楽しく、気持ちよく、平和を感じるひとときなのかもしれません。

今年、日本は戦後80年を迎えます。しかし、現在、世界の至る所で争い事が絶えません。人類、いやすべての生き物にとって、「当たり前である日常」が失われませんように、一日も早く、平穏な世の中になることを祈らずにはいられません。

 

PDFはこちら

  1. TOP
  2. レンズを通して
  3. 鳥の水浴び