鳥 in カタール

マミジロゲリ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2023年5月号

写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET)

日本サッカー協会名誉総裁として、サッカーワールドカップが開催されていたカタールを訪問した際の写真を3月号、4月号とご紹介してまいりました。今月はカタールにて撮影した鳥の写真をご覧にいれます。まだ記憶が鮮明なうちに、と思いますので、あと一回だけお付き合いくださいませ。

カタールの探鳥の話をすると、ほとんどの方が「カタールに鳥っているの?」と怪訝な顔をされます。今回バードウォッチングの日程を調整する中で、実は私が想像していたよりもはるかに多くの鳥が記録されていることを初めて知りました。年間360種以上が観察されており、そのうち200種以上が渡りの途中に立ち寄る旅鳥、残りは留鳥とのこと。限られた国土と砂漠のイメージが強いカタールですが、ごろごろした石灰岩の土漠や美しいマングローブ林、長い海岸線、そして街中には多くの公園があります。すなわち、鳥にとって羽を休める場所と餌が十分にあるということでしょう。

 

マミジロゲリ 28㎝ チドリ科
急速な減少が続いており、絶滅危惧ⅠA類に分類されている。
かつての分布を大きく狭め、現在はカザフスタン北東部のステップ地帯で繁殖し、
スーダン・エリトリア国境周辺、インド・パキスタン国境周辺で越冬する。
渡りの途中で、数羽がカタールに立ち寄る年もある。
写真提供:© HIH Princess Takamado

 

最初の写真はマミジロゲリ。劇的に数が減ったといわれる絶滅危惧種です。この写真を撮った農場はアルファルファを栽培しており、上空から見ると一面の緑。繁殖地であるカザフスタンから渡ってきた小さな群が旅の途中でここに立ち寄り、畑の中に塒を取ったようです。カタールへの飛来自体が珍しく、9羽という個体数は新記録。タイミングよく彼らと出会えてとても幸せです。

 

このページの鳥はチョウゲンボウ。2カ所の農場を訪れましたが、ともに日本では考えられない数の猛禽がいました。カタールの畑では農薬使用が許されていないとのことで、鳥たちの餌となる昆虫が多くいるようです。

 

チョウゲンボウ オス33㎝メス38.5㎝  ハヤブサ科
ユーラシア大陸の寒帯から温帯、アフリカの中南部に分布し、 日本では関西以北に留鳥として生息。冬はトビバッタが主な餌。
右の写真では、トビバッタを片足で摑み、食べながら飛翔していた。地面でも食べる。
写真提供:© HIH Princess Takamado

 

次のページでは砂漠の生態系に適した色をしている鳥を3種類ご紹介します。すべて留鳥で、目が慣れるまでは、「そこにいます」と言われてもなかなか見つけられないほど見事な保護色でした。

 

サバクヒタキ 14.5㎝ ヒタキ科
中国北部、中央アジア南部で繁殖し、冬はアフリカ北部からサウジアラビア、インド北西部で過ごす。日本でも迷鳥の記録あり。カタールでは留鳥。この個体はメス。
写真提供:© HIH Princess Takamado

 

ところで、このたび撮影場所としてマングローブ林や海岸線が選ばれず、農場に決まった背景には「狩猟」があったようです。多くのカタール人男性の間でとても人気がある狩猟に関する法整備が整っていないため、現地を案内してくださった研究者の方が、誰でも入れる場所は危険と判断されました。また、銃声が鳴り響くと、鳥の姿が見えなくなり、しばらくは警戒して戻ってこないとのこと。それでは良い撮影は望めません。個人の持つ農場でしたら、その心配はないと選んでくださったのです。

お蔭様で、近年カタールで営まれている農業の事情についてもいろいろと学ぶことができました。案内の方の説明では、無駄にできる水がないカタールでは下水処理場がいくつもあり、処理された水が畑の散水用として再利用されているとのこと。アルファルファ畑には、巨大な移動式散水機がいくつもあり、それらが早朝から稼働していました。

 

コキンメフクロウ 13.5㎝ フクロウ科
ヨーロッパからユーラシア大陸南部を経てロシア沿海州までとアフリカ北部に留鳥。岩の隙間に巣穴がある。
写真提供:© HIH Princess Takamado

 

カタールは年間降水量が極めて少ない国です。水資源は海に頼るしかなく、ほとんどの水は海水淡水化設備で生産されています。また、将来の人口増加を見込み、カタール政府はいくつもの大きな貯水池やそれらをつなぐ送水路、ポンプ場などを建設。ワールドカップに訪れた私を含むすべての人が、その恩恵にあずかっていました。

これら水に関わる多くの設備は日本の高い技術力によって建設されたものであり、カタールの水作りを日本が支えてきたことに、何人かの方から感謝の言葉をいただきました。その時は、縁の下の力持ちとして活躍した日本の企業を誇らしく思いながら、喜んでいただけてうれしいなどと答えておりました。

 

カンムリヒバリ 18㎝ ヒバリ科
ヨーロッパからユーラシア大陸南部を経て朝鮮半島までとアフリカのサハラ砂漠の周辺に留鳥として分布。
藁みたいなものを拾っていたが、巣作りではなく、遊んでいたらしい。
写真提供:© HIH Princess Takamado

 

その後、写真を整理しながら、水がなければ畑はなく、畑がなければ写真の鳥を見ることができなかった、特に絶滅危惧種のマミジロゲリとの出会いはなかったことに改めて気づきました。私からも難しい環境下で建設に励んだ方たちにお礼を申し上げなくては、と思った次第です。この連載を読んでいただいていることを祈念しながら、感謝の意を表します。ありがとうございました。

 

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