エナガの子育て流儀
「レンズを通して」婦人画報誌2020年1月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
コットンボールに長い尾を付けたような姿のエナガは何ともかわいらしく、見る者を笑顔にしてくれます。「笑う門には福来る」ということで、新年にふさわしいと思い、ご紹介いたします。エナガは、日本最小のキクイタダキに次いで小さな鳥です。今回はそのエナガが助け合い、時には猛禽の威を借りながら、子孫を残そうとしている姿に、焦点を当ててみたいと思います。
前ページのエナガとこちらの北海道に棲む亜種シマエナガの姿形はほとんど変わりません。翼と尾が黒色、下面が白色、背中は中央が灰黒色、両側が淡い赤紫色、下尾筒も淡い赤紫色、ともに黒い目と小さな嘴をもっています。しかし正面から見ると、シマエナガは頭に黒い眉がなく、小さな雪だるまのようなルックスです。どちらの写真も、何か言いたげな表情をしており、ついつい吹き出しでセリフを付けたくなります。
エナガはとても小さくよく動くため撮影が難しいのですが、令和元年、気合を入れて数回にわたり、子育てをするエナガを離れたところに張ったテントの中からじっくりと観察し、たくさんの写真を撮りました。下の写真はその内の一枚をトリミングしたものです。巣はコケなどを集めて球形につくり、外側にクモの糸でウメノキゴケなどを貼り付けて目立たなくし、内部には鳥の羽毛や動物の毛などを敷き詰めたものです。以前、ヒナが巣立った後の巣に触ったことがありますが、ふわふわしていて、毛糸で編んだ柔らかい帽子のような感触でした。
産む卵の数は7〜10個ほどと数は多いのですが、卵やヒナの生存率はあまり高くないようです。逆に、そのために多くの卵を産むとも言えるのでしょう。また、無事に卵を孵して、ヒナを育て、巣立たせるため、あえてノスリやオオタカなど大型の猛禽の巣のそばに営巣し、捕食を避けているようなのです。そうであるなら、生きるための見事な知恵ですね。
抱卵期間は12〜14日間。ドーム形の巣の中でじっと卵を抱いていた親鳥が巣から出てくると、長い尾の先が曲がっていて、その健気な姿にも心が和みます。その後、孵化から巣立ちまでがさらに20日間前後。親鳥が最初は小さな虫、徐々に大きな虫を運んできます。写真では3羽のヒナが巣口から顔を出していますが、どのようにヒナは交替し、餌をもらうのでしょうか。均等に餌をもらっているからこそ一緒に巣立てるわけですが、入れ替わる瞬間を目撃できなかったのが不思議でなりません。ヒナが育つにつれ巣がどんどん膨らみ、破裂するのではないかと心配するほどパンパンになったころ、親たちの誘導でヒナは一斉に巣を出ます。
よく見ていると親鳥の雌雄以外にヘルパーの鳥もいて、巣に餌を運んでいました。ヘルパーがもっといる場合もあるそうです。エナガは5組ほどの番でひとつのグループを形成しており、卵が孵らなかったり、育児中にヒナが天敵に食べられたりした時、仲間の子育てを手伝う珍しい習性があるようです。
テントの中からこの協力態勢を見ていて、夫や兄弟姉妹、友人、若者、子育てを終えた人たちなど、人間社会においてもヘルパーが周りにいたら、今の少子化問題に歯止めをかける一助となるのではないか、と考えてしまいました。かつての日本でそうであったように、大所帯が普通である社会には、多くのヘルパーがいることを考えると、エナガの流儀から学べるものがあるように思います。