火の鳥――アカショウビン
「レンズを通して」婦人画報誌2021年6月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
今年の春は、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の「お家タイム」を実践するにあたり、赤坂御用地内の樹木や草花を、毎日、ゆっくりと眺めて過ごすことができました。例年、秋から初夏にかけては、鳥の撮影でいろいろなところに出向くのですが、もう1年以上、重いレンズと三脚を持って出かけておらず、筋力低下がいささか心配です。今回の主役は火の鳥の異名をもつアカショウビン――3年前に撮った写真をご覧にいれたいと思います。
「緋色」は「火の色/日の色」を表しているそうです。森を飛ぶ姿はまさに火の玉。大きな頭に巨大な嘴、短い尾と特徴的なルックスで飛ぶ姿は目立つのですが、地面に降りると、体色の赤褐色が枯れ葉と同化して保護色になります。なお、アカショウビンは漢字で「赤翡翠」と書くため、大学生のころ、私は「赤ヒスイ」と勝手に解釈。赤と緑の鳥を想像しておりました。実は、「翡翠」は「カワセミ」とも読むことから「赤いカワセミ」という意味です。アカショウビンはカワセミ科の鳥ですので、当然なのですが、いまでもこの漢字を見るたびに、若いころに誤解していたことを思い出します。
最近、アカショウビンの声を聞くことも、姿を見ることも少なくなってきたといわれており、じっくり撮影したいと思いながら、何年も経ってしまいました。3年前、鳥仲間の案内で、丸一日掛けて、テントの中から観察と撮影をすることが叶いました。お天気がよく、暗い森とのコントラストで、露出や絞りに戸惑うことも多かったのですが、充実した時間をアカショウビンと過ごすことができて嬉しかったです。
アカショウビンの「キョロロロロロ」と尻下がりになる囀りは、特徴的で、とても印象に残ります。繁殖期が梅雨時であるため、雨が降りそうなときに鳴くことが多く、「雨乞い鳥」とも呼ばれるようになったそうです。その目立つ姿とちょっと哀愁の漂う独特な鳴き声に、人々の想像力が膨らみ、いろいろな伝承が生まれたのでしょう。天に向かって「水が欲しい」と鳴いているのは、「悪いことをした罰に水が飲めず、喉が渇いて雨乞いをしている」、あるいは「アカショウビンはカワセミが火事にあい、赤くなったもので、水が欲しいと鳴いている」などと言い伝えられています。
沖縄には別亜種リュウキュウアカショウビンが渡ってきます。本土のアカショウビンと生息環境が異なり、海岸近くの集落に営巣していることから、地元では身近な鳥のようです。もう20年ほど前になりますが、石垣島の宿の近くで鳴いていたので、宮様が口笛でキョロロロロロと真似をなさると、少しずつ近くに寄ってきて鳴いてくれました。別のオスがなわばりに入ってきたと思い、追い払おうとしているのです。宮様は「少し下手なので、姿を現すかも」とにっこり。3回ほど鳴き交わしをされました。上手すぎると、「若くて強いオスが来た!」と怖気づいてしまいますが、自分と同じ、またはより弱い個体ならば、追い払えると思っているので問題がない、とのこと。懐かしい思い出です。
「火の鳥」といえば、多くの方はフェニックス、不死鳥を連想されるでしょう。寿命を迎えると、燃え上がる焚たき火に自ら飛び込み、再び蘇ります。人類の歴史の中では、いくつもの文明が滅び、新たな文明が生まれており、ウイルスとの戦いの中でも、必ず復興をとげています。この度のコロナ禍においても、ワクチン接種が世界中で始まりました。必ず社会は生まれ変わり、復興を果たします。
火の鳥の姿を見た人は幸せになるといわれております。アカショウビンも火の鳥ですので、読者の皆さまは、どうぞ写真でその姿をじっくりとご覧くださいませ。少しでも幸せな気持ちになっていただけますよう、願っております。