晩秋のカワセミ
「レンズを通して」婦人画報誌2022年12月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET)
一年を通して日本で過ごす鳥のことを「留鳥」といいます。「空飛ぶ宝石」などとも呼ばれるカワセミは、日本の多くの地域で留鳥です。そうであれば、四季折々の景色と共にカワセミを撮影するチャンスがあるはずと気づき、数年前から意識して撮り始めました。今回は晩秋のカワセミをご紹介させていただきます。
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上空を猛禽が飛んだために警戒して上を向いている。
コバルトブルーに輝き水辺を飛ぶ姿は、バードウォッチャーに限らず大人気。カワセミだけを追う写真家もいる。
写真提供:© HIH Princess Takamado
英語ではカワセミの仲間はKingfisherと呼ばれ、魚獲りを得意としていることがよくわかります。私が「カワセミ」という和名を初めて聞いたのは小学生の時で、当時驚いたことを今でも覚えています。自分が知っているアブラゼミやミンミンゼミは茶色いうえに五月蠅く、そのセミと静かで美しいカワセミの共通点が見いだせなかったのです。その後、自分なりに、カワセミとセミの体形が似ているからであろうと納得し、40年近く過ごしてまいりました。
ところが、15年ほど前にパソコンでカワセミについて調べていたら、名前の由来が出ており、カワセミの「セミ」は昆虫のセミではなく、古名の「ソニ」が転じて「セミ」となったとのこと。漢字で「川蟬」と書いた場合、あくまでも音からくる当て字なのだそうです。
ほかにもいくつかの漢字表記があり、そのひとつが「翡翠」。ある時パソコンで「kawasemi」と打って変換したら、カタカナにならず、漢字で「翡翠」と出てきました。通常「ヒスイ」と読むこの漢字は、カワセミの鮮やかな背中の色から来る当て字とのこと。ところが私の持つカワセミのイメージはコバルトブルーであり、ヒスイは緑色。未だに納得はしておりませんが、「空飛ぶ宝石」という表現にはピッタリです。
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まさに「空飛ぶ宝石」。水面ぎりぎりを一直線に飛ぶ。
求愛中のオスは小魚をメスにプレゼントし、もし受け取ってもらえればカップル成立となる。
魚は飲み込みやすいように頭を先にして差し出す。
写真の鳥はメスなので、仕留めた獲物は自分のもの。
写真提供:© HIH Princess Takamado
カワセミの数は、日本の高度成長期に著しく減少しました。その原因は、河川の水質汚染により餌となる小魚が減ってしまったこと、そして河川護岸のコンクリート化により営巣ができなくなったことなどとされています。
カワセミは身近な水環境のバロメーターとなる鳥です。嬉しいことに、現在、都市部の河川において徐々にその数が回復傾向にあります。カワセミの美しい姿を目にする機会が増え、さらにそれが水質の改善を意味するのであれば、私たちにとって朗報であることは間違いありません。
身近な鳥、と申し上げましたが、カワセミは人間がいることに慣れてさえしまえば、その存在など意に介さないという印象を受けます。比較的多くのカメラマンが獲物を狙って水中を見つめる姿や羽繕いをしているところ、魚を咥えて水中から出てくる様子などの撮影に成功しているのはそのためです。実は赤坂御用地内の池にもカワセミはいるのですが、公園などと違って人の行き来の少ない場所であり、残念ながら私の気配を感じると一瞬にして姿をくらませてしまいます。撮影させてもらうためには足繁く現場に通い、私という存在を自然なものとして受け入れてもらう不断の努力が必要と痛感しています。
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嘴全体が黒ければオス、下嘴が赤ければメス。
紅葉したモミジに止まる姿を写真に収めようと大勢のカメラマンが取り囲み、連写。
しかし公園の池を縄張りにしているカワセミは、いたって平然としていた。
写真提供:© HIH Princess Takamado
しかし、一般的にはカワセミは想像されるより身近な鳥です。公園や神社の池、田んぼのあぜ道などで見られますので、ぜひ周りを見渡してくださいませ。幸せを運ぶ青い鳥の如く、カワセミを見ると不思議と嬉しい気持ちになります。