さえずる鳥たち

オオヨシキリ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2024年4月号

写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京

 

4月といえば、さまざまな鳥のさえずりを楽しめる時季です。2月中旬から5月を通して、若葉をバックに繁殖羽の美しい鳥の姿を写真に収めるため、可能な限り山や森林に向かいます。気長に待つことの多い撮影時に心を和ませてくれるのが、鳥たちのさえずりです。写真ではその美しい声はお聞きいただけませんが、一所懸命さえずっている姿だけでもぜひご覧くださいませ。

まず、さえずりについてご説明します。鳥の鳴き声は大きく、地鳴きとさえずりに分けられます。地鳴きは、季節を問わずに一年中聞くことができる単純な鳴き方。それに対してさえずりは、繁殖の時期に限って聞かれる、一般的には複雑で、人の耳に心地よく響く鳥特有の鳴き声のことをいいます。厳密な定義はないのですが、あえて説明するならば、鳥類はオスがメスに求愛する手段としてさえずりを進化させ、と同時に、自分のなわばりを主張するためにさえずる、ということになりますでしょうか。

実際には、私のイメージする「典型的なさえずり」をする鳥からそうでない鳥までおり、その境目は極めてあいまいに感じます。たとえば、スズメにも繁殖の時期に限って聞かれる特有の鳴き方があるのですが、複雑ではなく、また良い声ではないため、普通はさえずりとは申しません。そして興味深いことに、スズメの鳴き声をさえずりと呼ばないのに、私が考える「さえずる鳥」のほとんどが実はスズメ目の鳥です。

このエッセイを書くにあたり、「スズメは良い声ではない」などと、いささか人間勝手な評価を下していることが気になり、専門家の方々にいろいろと伺ってみました。スズメ目の鳥は、鳥の進化の中では最も新しく誕生したグループであり、鳴菅めいかんを発達させ、さえずることによってオスがメスの気を引きつけ、つがいとなる行動様式を進化させたのだそうです。

そして、このような行動様式を発達させたのはスズメ目の鳥だけではないといいます。「カッコウ」や「テッペンカケタカ」等と鳴くカッコウ目の鳥たち、夜に「ゴロスケホーホー」や「ブッポウソウ」等と鳴くフクロウ目の鳥たちもさえずりを進化させているとのこと。大変勉強になりました。さえずりを英語では「鳥の歌=bird song」と呼びますが、久しぶりにヨナッソンの「かっこうワルツ」を思い出しました。

最初の写真(web上では下の写真)はオオヨシキリ。口の中が赤く、よくとおる声で鳴きます。風が吹くたびに菜の花が大きくなびくためバランスを取るのがなかなか難しそうでしたが、時折向きを変えてさえずり続けていました。

オオヨシキリ 18.5cm ヨシキリ科
モンゴル、中国東北部からサハリン、日本で繁殖し冬季は東南アジアに渡る。
わが国では北海道から九州まで夏鳥として渡来。
水辺のヨシ原で繁殖する身近な鳥だが、生息環境の消失により、近年は急激な減少傾向にある。
© HIH Princess Takamado

 

このページの写真(web上では下の写真)は「ホーホケキョ」のさえずりで知られるウグイスですが、その姿を実際に見た人はとても少ないのではないかと思います。写真でおわかりいただけると思いますが、華やかな声とは裏腹にとても地味な姿をしており、バーダーの私達でも、なかなか見つけられない時があります。

ウグイス 15cm ウグイス科
サハリン南部、日本、朝鮮半島、中国東北部・中部で繁殖し 冬季は中国南部、台湾、フィリピンに渡る。
わが国では全国で繁殖。林床に笹が密生する場所を好む。冬は温暖地に移動する。
© HIH Princess Takamado

 

左のページに並ぶ(web上では下の写真)鳥はオオルリ、キビタキ、ホオジロ、そしてミソサザイです。オオルリとキビタキはとても美しく、明るい声でさえずり、その華やかな容姿も相まって大変人気のある鳥たちです。ホオジロはなかなかハンサムなルックスで、色めは地味。最後のミソサザイはとても小さく、全身が茶色。尾羽を立てて、大きな、そして透明感のある声でさえずります。

オオルリ 16.5cm ヒタキ科
分布は狭くロシア沿海州、朝鮮半島、中国東北部、日本で繁殖。
冬季は東南アジアに渡る。我が国では九州以北に夏鳥として渡来。
© HIH Princess Takamado

 

キビタキ 13.5cm ヒタキ科
サハリン、日本、中国東北部で繁殖し、冬季は中国南部、フィリピン、ボルネオやマレー半島などに渡る。
わが国では全国に夏鳥、南西諸島では留鳥。落葉広葉樹林、混交林を好む。
© HIH Princess Takamado

 

ホオジロ 16.5cm ホオジロ科
トルキスタン、モンゴルの一部、そしてロシア沿海州から朝鮮半島を経て中国東部、日本で留鳥。
屋久島以北の全国で普通に見られるが北海道では夏鳥。
© HIH Princess Takamado

 

ミソサザイ 10.5cm ミソサザイ科
ヨーロッパからユーラシア大陸の南部を経て日本、カムチャツカ半島まで分布するが、寒冷地では夏鳥。
我が国では北海道から九州まで留鳥。渓流沿いの薄暗い林に生息。
© HIH Princess Takamado

 

鳥のさえずりは、その姿の美しさとともに、人が鳥に親しみを感じる大きな要素です。しかし、そのさえずるオス鳥たちにとって、歌は命を懸けての真剣勝負。天敵に狙われやすい、目立つ場所に陣取り、声高にさえずり、うまくいけばメスとつがいを形成することが叶います。

これからは、さえずる鳥の観点に立って、さまざまな鳥の歌に耳を傾けてまいりたいと思います。そして読者の皆さまには、ぜひ時間をとっていただき、鳥のさえずりを満喫なさるとともに、彼らの真剣勝負の物語にも想いを馳せていただければ幸いです。

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