姿のブッポウソウ

ブッポウソウ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2020年8月号

写真・文=高円宮妃久子殿下

今年は例年に比べて庭に多くの鳥が来てくれています。外出ができないなか、Stay Home 状態でもバードウォッチングができるのは幸せなことです。今回は、夏に日本に渡ってくる、「姿のブッポウソウ」の写真をご覧に入れます。

撮影は、主に森に設置したテントの中からと、この鳥がよく止まる高い樹木が見える場所からいたしました。ブッポウソウはとても警戒心が強いので細心の注意が必要な上、真夏の撮影なので熱中症にならないように気をつけながら、また虫よけウェアとスプレーなどの世話になりながら、じっと気長に姿を現すのを待つことになります。

撮影は6月で、求愛行動の餌渡しをしているところ。
トンボ、セミ、カナブンなどを運んでいた。
構造色であるため、順光でないと鮮やかな瑠璃色が黒ずんでしまう。
写真提供:© HIH Princess Takamado

この鳥はその美しい姿から、千年以上にわたり、夜間に「ブッ・ポウ・ソウ」――仏教における三宝「仏・法・僧」――と鳴く霊鳥と信じられていました。しかし、昭和10年にNHKラジオ放送が中継した「ブッポウソウ」の声に誘われ、飼っていたコノハズクが同じ声で鳴き出した、という人からの報告、そして放送を聞いて、ブッポウソウと鳴く鳥を撃ち落としたらコノハズクであった、という人からの連絡により、三宝の声の主は、日本に生息する一番小さいフクロウのコノハズクであることが明らかになりました。声と姿を取り違えた長い間の誤解は解けましたが、それぞれの名前が変わることはありませんでしたので、ブッポウソウを「姿のブッポウソウ」、コノハズクを「声のブッポウソウ」と呼ぶこともあります。

本来、地上3〜15メートルの樹洞に営巣する。4〜6個の卵を雌雄で抱卵。餌運びも雌雄でする。
毎年、栄村にある栄中学校の生徒たちが、巣箱かけと巣の掃除を地元の方たちとしており、今年で30年になる。
写真提供:© HIH Princess Takamado

四季を通して雨が降る日本は本来「森の国」です。縄文時代以前より西日本は照葉樹、東日本は落葉広葉樹の森に広く覆われていて、それらの森の中を河川が流れ、湖や湿地がいたるところにありました。ブッポウソウはこの森の国で、かつて大いに栄えました。弥生時代になり、平地の森が伐採されて稲作が始まり、里の開けた環境ができると、まずは里山の森に棲みつき、その後は、樹洞のある木を求めて、神社を囲む鎮守の森やお寺の境内へと棲み処を移していきました。環境がさらに悪化した最近では、橋や電柱などの人工構造物の穴で繁殖するようになり、個体数は著しく減少しています。はるか昔から日本に暮らしてきたこの鳥は、ここ五十年で絶滅の危機にまで追いやられてしまったのです。

最近は、巣箱かけによる保護活動が全国に広がっており、それなりの成果をあげています。現在日本に生息するブッポウソウの9割は巣箱で繁殖しており、おかげで減少を少し抑えることができました。一方で、これからもずっと巣箱かけを続けないと繁殖できない状態もよくありません。この鳥の保護の最終目標は、以前のように人の手助けが無くても生息できる豊かな里山の森環境を取り戻すことです。

今回の写真は何年かにわたって長野県の北の端、栄村で撮影したものです。栄村では、集落の裏山に残された雪崩防止のブナ林でいまもブッポウソウが繁殖しています。ブッポウソウは村の鳥に指定されており、村内のトンネルの入り口に大きく絵が描かれているほど、地元を象徴する鳥です。栄村では多種多様な生物の棲み処であるブナ林の保護にも取り組んでおり、現在よりも樹洞が豊富でブッポウソウが棲みやすいブナの森を育てようとしています。

全国各地で同様に森づくりが進み、かつての豊かな里山の環境を少しずつ取り戻すことができれば、空気もよくなり、私たちが健康に生きるためにもきっといいはず。読者の皆様にも、いつか森の上空を飛ぶブッポウソウの姿をご覧になり、感動していただける日が来ることを願っております。

森をバックに飛ぶブッポウソウ。
嘴と足は赤色、飛ぶと翼に青白色の斑が出る。コントラストが強いおかげで、かなり遠くからの撮影だが、比較的ピントが合っている。
写真提供:© HIH Princess Takamado

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