レンジャクに学ぶ

キレンジャク © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2021年4月号

写真・文=高円宮妃久子殿下

新型コロナウイルス感染症拡大や変異ウイルスが見つかったという暗いニュースが続いております。そこで、今回は、ユニークなルックスで人気者の、明るい色がとても美しいレンジャクについてご紹介することにいたしました。

2月号にスズメについて書きましたので、まずはその延長線上のお話から。レンジャクは漢字で「連雀」と書きます。スズメのように並んで止まることからついた名前だそうです。最初に聞いた時、「スズメには似ていないのに」と疑問に思ったのですが、「雀」は「尾の短いずんぐりした小鳥」という意味であると聞き、素直に納得しました。また、英国の大学在学中には、「雀」という字がほかの鳥にも使われていることに気付きました。「四十雀(シジュウカラ)」や「山雀(ヤマガラ)」「五十雀(ゴジュウカラ)」など、カラ類の鳥です。さらには、「雲雀(ヒバリ)」 や「葦雀(ヨシキリ)」「金糸雀(カナリア)」と多岐にわたることには若干の戸惑いを覚えました。後者の3種は尾が長く、すらっとしており、漢字もなかなか読めないと思うのですが、確かに大きさはスズメと同じです。しかし、私は「雀」の漢字が「孔雀(クジャク)」にもついているのには、どうしても納得がいきません。尾羽には特徴的な長く美しい飾り羽があり、体重は5キロ前後。孔雀がどこから名付けられたのか、謎は深まるばかりです。

閑話休題。日本にはキレンジャクとヒレンジャクの2種類が冬鳥として渡ってきます。最初の写真はキレンジャク。尾の先が黄色いのがお分かりいただけると思います。そして、飛んでいる2枚の写真は尾の先が赤いヒレンジャクです。平安時代から「連雀」として知られており、江戸時代中期になるとキレンジャクとヒレンジャクを区別して、前者を「十二黄」、後者を「十二紅」とも呼ぶようになったようです。読みはともに「じゅうにこう」となりますので、かなり洒落た命名です。3枚目の写真では、ヒレンジャクの尾羽がはっきりと写っており、数えてみると確かに12枚あります。

ヤドリギの黄色い実を咥えて飛ぶヒレンジャク。
世界的な分布は狭く、ロシアの沿海州、中国東北部のアムール川流域で繁殖し、冬季はサハリン南部、日本、朝鮮半島や中国東南部に渡る。
わが国では主に西日本に冬鳥として渡来するが、数は年によって大きく変動する。
写真提供:© HIH Princess Takamado

ヒレンジャクは、尾羽の先端と尾羽の下尾筒の部分が鮮やかな赤。
嘴を開いて飛んでいるのではなく、黒く見えるのは嘴の下の黒い羽根。
冬は大小の群で行動。
キレンジャクと混群を形成することもある。
写真提供:© HIH Princess Takamado

レンジャクはルックスが華やかで絵になりますし、写真に収めたい鳥です。群でいることが多く、したがって見つけやすく、写真も容易に撮れると思っておりました。しかし、日本中に渡来記録はあるものの、個体数が多いわけではなく、ある場所にいるとの情報があっても、数日でヤドリギの実を食べ尽くし、移動してしまいます。幸い遭遇しても、木の高いところにあるヤドリギの実を(ついば)むため、「空バック」の黒いシルエットの鳥の写真になったり、ヤドリギの枝が混んでいるために、鳥にピントが合わなかったり、やっと撮れたと思うと、枝と重なり顔が見えなかったりと、苦戦してまいりました。この2枚のヤドリギとヒレンジャクの写真は、昨年の1月にようやく撮れたものです。ヤドリギの枝の多さをお分かりいただけると思います。撮影日の朝、群は移動したようだとの情報が入り、半ばあきらめておりましたが、1時間ほど待っていると、1羽現れ、実を啄み始めました。レンジャク同士は、餌の在り処について抜群のコミュニケーション能力を発揮しているように見えます。今回も1羽が来てから仲間を呼んだかのように、しばらくすると2羽、3羽と数が増え、おしまいには12羽くらいの群になりました。それだけでも幸せな気持ちになりましたが、実を(くわ)えた1羽が枝のないところを飛んでくれ、その絶好の機会を写真に収めることができ、私は心の中で小さなガッツポーズをしてしまいました。

このヤドリギとレンジャク類は「持ちつ持たれつ」の関係です。ヤドリギはレンジャクに種子という食べ物を提供し、レンジャクは種子を運ぶことでヤドリギの種子分散に貢献しています。ヤドリギは粘着性のある実を進化させ、レンジャクの糞の中のヤドリギの種子を木の枝に付着しやすくしています。また、ヤドリギの種子は枝の上で発芽し、木の枝に根を伸長させる能力も獲得しています。このことから、種子の分散を確実にするために、ヤドリギという植物がレンジャクという鳥の助けを借りることに成功したと言えましょう。そしてレンジャクもそれにより、再び渡来した時の餌の確保を確実にしており、こちらも利益を得ています。まさにウィンウィンの関係です。

キレンジャクは、スカンジナビア半島からロシア沿海州までのユーラシア大陸中部、アメリカ大陸北西部などのより広い地域の森林で繁殖し、ヨーロッパ南部から中国北部、朝鮮半島、日本までの地域とアメリカ中西部で越冬する。
写真提供:© HIH Princess Takamado

2020年を振り返ってみると、コロナ禍の中でも幾多の方々が心を通わせ、お互いを支え、助け合っている姿にたびたび感動を覚えた一年でした。また、人間にとって集まることが自然であり、孤立しないことが生き延びるためには大事であると改めて考えさせられました。感染防止のために「人が集う」ことへの制限が求められるいまだからこそ、上手にコミュニケーションを取り合い、ヤドリギと不思議なウィンウィンの関係を築いているレンジャクに学び、私たちもよりよい将来につながるウィンウィンの関係を持続し、新たにいろいろな形で構築していきたいものです。

(注)掲載にあたり一部編集しました

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