ワタリアホウドリのひなちゃん成長記(第3回)

大人っぽい表情のひなちゃん ©Alex Dodds

昨年多くの方々に成長を見守っていただいたワタリアホウドリのひなちゃん。その成長記の最終回である3回目は、ひなちゃんが大人への階段をのぼりはじめ、元気に巣立つまでについて振り返ります。

サウスジョージア島が春を迎えた頃(日本の秋)は、ひなちゃんが大きく成長した時期でした。この頃のひなちゃんにとって最初の大きな出来事は、現地で研究をしている調査隊に、個体識別のための足環をつけてもらったことでした。6ヵ月齢になったばかりのひなちゃんは、左足には金属製の足環、右足には遠くからでも見えやすい色付きの足環をつけてもらいました。足環に刻まれている個体識別番号のおかげで、大人になってひなちゃんが島に戻ってきたときには「このワタリアホウドリさんはあの時のひなちゃんだ!」と他の鳥との区別ができるんです(他のアホウドリさんたちも足環をつけています)。将来パートナーを見つけて何羽の雛を立派に育てたかなど、ひなちゃんのいろいろなことが足環のおかげで分かるようになります。

足環をつけてもらったばかりのひなちゃん ©Rosie Hall

日本の秋が深まったころには、ひなちゃんのフワフワの白い羽が黒くて大人っぽい羽に生え変わり、大人への一歩を歩み始めました。巣立ち後5-7年間を何万㎞もの距離を海の上で過ごすことになるひなちゃんにとって、この成長過程は本当にはじめの一歩のようなものでした。11月に8ヵ月齢になったひなちゃんにとって、この頃はとてもワクワクしたりちょっと不安になる時期でもあります。そう、ひなちゃんはついにワタリアホウドリとしての最大の特徴である「飛行」にむけた練習を始めるようになったのです。アホウドリ類は、気の遠くなるような長距離を優雅に飛行する能力を持っています。翼の腱の特別な機能のおかげで、翼を適切な位置に保ちつづけることができるので、離着陸以外の時はあまり羽ばたかずに飛び続けられるのです。貿易風に乗って心拍数をほとんど上げずに、持続110kmものスピードで海上を滑空するワタリアホウドリたち。これらの能力はアホウドリ類にみられる特徴で、ひなちゃんのDNAに組み込まれていますが、しっかりとはばたく練習ももちろん必要です。

定点カメラには立派な翼を広げたひなちゃんの姿が

11月後半にはひなちゃんが突然巣からいなくなってしまいました。ひなちゃんはもう巣立ったの?それとも近所にお散歩に出ただけなの?カメラ越しに見守る側としては心配で仕方がありません。数日後に分かったことは、実はひなちゃんは巣のすぐ近くに新たなお気に入りの場所を見つけ、ずっとそこにいたようです。定点カメラを移動してひなちゃんを見守り続けようとした直後、ひなちゃんはまた忽然と姿を消してしました。そして12月中旬に現地の調査隊から連絡があり、島中を探してもひなちゃんの姿はなかったとのこと。無事巣立っていった以外は考えられないので、定点カメラに最後に写っていた12月3日に巣立ったと認定されました。今頃は南氷洋の大海原を新たな成長の場として、元気にしているに違いありません。ひなちゃんはこれから数年間海を旅し、自分の家族を作る準備ができるまで島に戻ることはありません。ひなちゃん、それまで無事でいてね!

巣立ち間近のひなちゃん ©Alex Dodds

予想より早い巣立ちだったのでひなちゃんには衛星発信機をつけることはできませんでしたが、ひなちゃんのお友達20羽には発信機がつけられています。みんなが今どこを旅しているのかは、こちらからご覧いただけます。ひなちゃんは既にパパとママのもとを離れて一羽で海の旅を続けていますが、ひなちゃんやお友達のことはアホウドリ類を漁業の混獲から守る国際チーム、アホウドリ・タスクフォースや、「南半球アホウドリ物語」を応援してくださっている皆さんに見守られています。「南半球アホウドリ物語」はTwitter、Instagram、Facebookで発信しているので、是非ご覧ください。

ひなちゃん成長記の最後になりますが、「南半球アホウドリ物語」のプロジェクトにご協力いただいているイギリスの南極調査隊(British Antarctic Survey)とバードラ・イフインターナショナルのパートナー団体 (Royal Society for the Protection of Birds)、資金提供をいただいているDarwin PLUS、South Georgia Heritage Trust, Friends of South Georgiaに感謝申し上げます。

 

 

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