カワラヒワ秘話

カワラヒラ © HIH Princess Takamado

「レンズを通して」婦人画報誌2024年2月号

写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京

 

2月4日は立春。我が国では、季節の先取りが良いとされ、立春を機に着るものや飾るものを春らしくしていきます。しかし、季節の変わり目は暦通りに来るものではなく、特に昨今はかなりのズレが生じているような気がします。今回は、早朝に防寒対策を講じながら、千曲川河川敷で撮ったカワラヒワの写真を中心にご紹介いたします。

カワラヒワ 14.5cm アトリ科
北海道では夏鳥だが、本州から 九州までの低地や低山で留鳥として普通に見られる。
特徴のひとつは 凹みのある尾。写真はオス。
オスの頭部は暗緑色で、目の周りは 黒っぽいが光が当たると緑が浮き出る。
© HIH Princess Takamado

 

カワラヒワは日本が森に覆われていた縄文時代以前から、河川敷や海岸といった開けた環境に棲息し、草の実を食べて生活していたと思われます。そして弥生時代以後、農耕の始まりにともない、カワラヒワは人が作り出した開けた環境へと棲み処を移しました。餌となる草本の種子が、水田や畑といった農耕地で得やすい環境になったことにより、この鳥は現在に至るまで大いに栄えてきたのです。

日本のほぼ全域に分布しており、農耕地のみならず、市街地でもよく見かける身近な鳥です。ただ、繁殖を終えた8〜9月の時季になると、その姿は繁殖地でほとんど見られなくなります。これは、換羽かんうをひかえて河原などの安全な場所にいったん集まって過ごすためで、盆地などでは、その地域のすべての個体が集結するので数百羽に及ぶこともあるようです。

カワラヒワはカムチャツカ、サハリン、 ロシア沿海州、朝鮮半島から日本、 中国東部、南部に分布する。
写真は、2羽のオスが嘴を 突き合わせて威嚇し合う行動。
© HIH Princess Takamado

 

10月になると換羽を終えて、羽を新調したカワラヒワが繁殖地に戻ってきます。そして、多数のオス・メスが集まり「集団お見合い」をするのです。繁殖地によって時期は異なり、春先に集団お見合いとなる地域もあるようです。メスに求愛できる「権利」をめぐって、高い木の上など目立つ場所でオス同士が戦い、勝ったオスから順番にメスとつがいを成立させます。そして、番となったオス・メスはその場から周りに分散し、番ごとに繁殖する場所を決めていきます。一方、負けてしまったオスは改めて求愛の順番を争うことになります。わずか2週間ほどの短い期間ですが、私たちの頭上、高いところで、このような壮絶なドラマが展開されているとは誰が想像できるでしょうか。考えるだけで、ちょっとワクワクしてしまいます。

オオブタクサの実を食べるメス。 太い嘴は植物の種子を食べるのに 適している。
メスは全体的に 淡い色で、頭部は灰褐色。
© HIH Princess Takamado

 

カワラヒワは一夫一妻の番でヒナを育てます。メスが卵を温め、その抱卵中のメスにオスが餌を運んできます。カワラヒワは草本の種子食に適応した鳥で、年間を通して種子食。同じアトリ科に属する鳥の多くは、雛を育てる時だけは昆虫食になるのですが、カワラヒワはハコベやタンポポの種子を与えて育てるのだそうです。赤坂御用地 内でも繁殖しており、よくタンポポが咲き乱れる広場に降りて採餌しています。写真で見るとカラフルなのですが、タンポポの中にいると色彩的に同化してしまうので、こちらの気配を感じて一気に飛び立つまで、彼らがいることに気づきません。

翼を広げたオス。 翼の裏側は鮮やかな黄色。
© HIH Princess Takamado

 

カワラヒワの群が木に集まっていても、木の葉や木漏れ日がカモフラージュとなり、あまり目立ちませんが、翼を広げると鮮やかな黄色に目を奪われます。飛翔時には黄色い翼帯が美しく、群で飛ぶ姿を撮影しようと幾度も挑戦しているのですが、未だにいい写真は撮れていません。飛ぶ速度が速いうえに、目の周りが黒っぽいためにピントが合いにくいからです。

写真はオス。飛ぶと黄色の翼帯がとても美しく、目立つ。
© HIH Princess Takamado

 

鳥を観察していると、彼らは時折、何かしらの「申し合わせ」や「ルール」があるかのように行動します。その多くは長い進化の歴史を通して確立された本能的なものでしょう。しかし私は、そのような行動により彼らの「社会的秩序」が維持されていることに、静かな感動を覚えてしまいます。

鳥の日常にはドラマがあり、奥が深い、といつも思います。カワラヒワは古くから我が国にいる鳥。身近であるからこそ、見過ごしていることも多いのかもしれません。そのような鳥の魅力を、「レンズを通して」しっかりと皆さまにお伝えできるように頑張らなくてはと、改めて思う次第です。

 

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