保護活動の特効薬となるか?
島での外来哺乳動物の駆除への継続的な取り組みは、生物多様性喪失を食い止めるのに非常に有効な手段です。そう結論づけたのは、保護活動による利益を世界で初めて定量評価する研究を行った30人の科学者チームです。
外来哺乳動物の駆除は保全上大きな利益をもたらす)’というタイトルのこの研究では、島から外来哺乳動物を駆除したことによって在来種にどのように影響を与えたのかを調べました。研究者は181の島に生息する236の在来種596個体群が、外来種駆除の恩恵を受けていることを確認しました。研究結果は3月21日の週に‘米国科学アカデミー紀要’誌のオンライン版に掲載されました。
「私たちは外来哺乳動物の駆除が非常に有効な保護活動の手段であることは知っていましたが、その効果を地球規模で数値化したのは今回が初めてです。」と北イリノイ大学の生物学の助教で、環境・持続性・エネルギー研究所に所属する論文の主筆者Holly Jonesは述べています。
「世界全体で自然保護のために支出される金額は毎年210億米ドルに上ります。そのごく一部が外来種の駆除のために回されますが、この単純で費用の掛からない方法が数百種もの固有種と絶滅危惧種に利益をもたらしているのです。これは絶滅を防ぐために戦っている私たちにとって素晴らしいニュースです。」
「このような島の再生プロジェクトは生物多様性保全にとって銀の弾丸(注: ‘特効薬’の意味。銀の弾丸を使えば狼男を殺せるという言い伝えによる)という諺そのものです。」と島から外来種を駆除することにより在来種の絶滅を防ぐことを目的とするNPO‘アイランド・コンサーベーション’の科学部理事で論文の共著者であるNick Holmesは述べています。「保護活動への介入作業で在来種への成果を測り、証明できるのは稀なケースです。この結果はプロジェクトの有用性を証明し、世界中でこのような取り組みを進めています。」
調査チームは島に見られる外来哺乳動物の駆除が在来種に与える効果を推定するために、専門家へのインタビューと並んで大規模な論文やデータベースの見直しを行い、個体数の増加、コロニーの再生、再導入の成功などの正の影響をまとめました。外来哺乳動物の駆除によって、IUCNレッドリストで絶滅危惧のランクが下げられた種はシマハイイロギツネ(米国カリフォルニア)、セーシェルシキチョウ(セーシェル)、ハジロシロハラミズナギドリ(ニュージーランド)、オオセグロミズナギドリ(メキシコ)の4種です。
げっ歯類、ヤギ、野良猫などの外来哺乳動物はひとたび島に侵入してしまうと捕食、競争、生息地破壊などの在来種への大きな脅威となります。
「人類は世界の島の90%に外来哺乳動物を偶発的または意図的に侵入させてしまいました。島の種はこうした捕食者がいない状態で独自に進化してきたので、外来種は生態系に壊滅的な影響を与えます。在来種は外来種に対する防衛手段をほとんど持っていません。」と論文の共著者で、カリフォルニア大学サンタクルス校の生物学教授Don Crollは述べています。
外来種が生息する島は生物多様性保全に対する特別な挑戦と機会をもたらします。島は地球上の陸地の総面積の6%以下ですが、陸生生物の15%が生息しています。外来種が主因と思われる絶滅のうち61%が島で起きています。IUCNのレッドリストに記載されている絶滅危惧ⅠA類の生物のうち37%が島で見られる種です。
「外来種は世界の島々で絶滅危機の一因となっていますが、私たちの調査はこの問題には対処方法があるり、すばらしい成果を収めることが出来ることを示しています。」と共著者のバードライフの科学部ヘッドStuart Butchartは言いました。
研究者が提示した効果には次のような例があります。150年以上前に絶滅したと考えられていたコウミツバメが、リトル・バリア島でネコとネズミの駆除後に繁殖しているのが発見されました。スクリプスウミスズメはAnacapa島でのネズミの駆除により絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律(米国)の候補リストから除外されました。カリフォルニア州のチャンネル諸島の固有種シマハイイロギツネはサンタクルス島での野生化したブタの駆除などの集中的な保護活動の結果、絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律(米国)の対象から外すことが提案されました。外来哺乳動物の駆除により恩恵を受けた種はモニタリング不足を考慮すると実際にはもっと多いのではないかと研究者らは付言しました。
生物学者は昔から外来種による被害に気付いていました。
1894年2月のニュージーランドで、ステファン諸島の灯台守が飼っていた妊娠していた飼いネコが逃げ出して野良猫となり、個体数が急増しました。1895年3月までにこれらのネコがスチーフンイワサザイを絶滅に追いやった主因になりました。太平洋のキリティマティ島ではネコとネズミが1800年代末にクリスマスシギを絶滅させました。メキシコのグアダルーペ島のネコは1900年代初頭にグアダループウミツバメを絶滅させました。同様の話は枚挙に暇がありません。
最近数十年では外来種駆除のプログラムは人口の多い島にも広まっており、1,100以上の外来哺乳動物の駆除の試みが行われています。「多くの外来種駆除の技術がニュージーランドで開発されたため、‘駆除をしたい時にはキウィを呼べ’が合言葉になっています。今やますます多くの世界中の自然保護団体がこのような保護活動を行っています。」とHolly Jonesは言いました。
Jones氏はこの研究結果が自然保護従事者が絶滅を阻止し、在来種を守るための次のステップを考える助けになってくれればと期待しています。「すでに絶滅してしまった種を生き返らせることは出来ませんが、私たちの解析は外来哺乳動物の駆除が、人為的な環境悪化を元に戻す助けとなることを示しています。」と彼女は言いました。
報告者: Tom Parisi
原文はこちら