世界は渡り鳥の保護に失敗している

一生の間に地球と月を3往復する距離に相当する渡りを行うキョクアジサシ
写真提供: Markus Varesvuo

科学雑誌“サイエンス”に発表された新しい研究論文では、世界の渡り鳥を救うためのより大きな国際協力の必要性が述べられています。渡り鳥の多くが飛行ルート沿いの生息地の喪失により絶滅の危機にあるのです。

世界の渡り鳥の90%以上で、協力体制が不十分なために適切な保護が行われていません。

バードライフの渡り鳥の分布に関するデータとIBA(重要生息環境)データも利用したこの研究により、特に中国、インド、一部のアフリカと南アメリカを通過する渡り鳥の保全措置に大きな欠損があることが明らかになりました。その結果は、大部分の渡り鳥の生息域や中継地がある国では保護区により十分にカバーされている一方で、別の国ではほとんどカバーされていないということです。

主な減少

「世界の主要なフライウェイを旅する渡り鳥の半数以上が、過去30年で深刻な個体数の減少に見舞われています。その原因は主に彼らの渡りの領域と中継地における保全が不均一で効果的でないことによるものです。」と論文の主筆者でCEED( Centre of Excellence for Environmental Decisions: ‘環境に関する最善の決定を行うセンター’の意味)および豪州・クイーンズランド大学(UQ)のClaire Runge博士は言いました。

「典型的な渡り鳥は摂餌、休息、繁殖という一年のサイクルを通して様々な地域に依存しています。ですから、たとえ繁殖地の大部分を保全しても十分ではないのです。繁殖地以外の場所で全個体群が影響を受ける可能性があります。鎖はどこでも切れる可能性があるのです。」と彼女は言いました。

並外れた旅

CEEDとUQの論文の共著者James Watson博士はこれらの鳥は季節が変わるたびに安全な場所を探して陸と海を渡る並外れた旅を行うと説明しています。オオソリハシシギは1万キロを超える耐久飛行をおこない、キョクアジサシは一生の間に地球と月を3往復する距離に相当する渡りを行います。

他にも、フォークランド諸島から北極圏までの64,000キロメートルを飛ぶハイイロミズナギドリや、カナダ東部から南アメリカまで外洋上を3日間ノンストップで飛ぶズグロアメリカムシクイが知られています。

不適切な保護

CEEDの研究では1,451種の渡り鳥のうち1,324種は渡りのルート上の少なくとも一か所で保護が不適切であることを明らかにしました。18種は繁殖地での保護がなく、2種は渡りの全ルートで全く保護が行われていません。

生息地の喪失により危惧されるアカソデボウシインコ 写真提供: Hamadryades

生息地の喪失により危惧されるアカソデボウシインコ
写真提供: Hamadryades

バードライフによりIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで危惧種に指定されている渡り鳥に対して、十分な保護区があるのは3%以下です。「たとえば、ブラジルに生息する渡り性のオウムの1種アカソデボウシインコは生息地の喪失により絶滅が危惧されています。それにもかかわらず、分布域の4%以下しか保全されておらず、南部ブラジルの繁殖地はほとんど保全されていません。」とバードライフの科学部のヘッドStuart Butchart博士は言いました。

IBAは現在以上の保全を必要とする

研究チームは渡り鳥にとって世界的に重要であることが判明している8,200か所以上のIBAも調べました。その結果、22%が完全に保全されており、41%が保護区とオーバーラップして部分的に保全されていることが判明しました。

「未保全のサイトを守るための新しい保護区を作り、渡り鳥のためにすべての保護区を効率的に管理することがこれらの象徴的な鳥の保全を万全なものにするためには極めて重要です。」

渡り鳥のために必要な保護活動の連携

共著者のCEEDの准教授Richard Fullerは今回の研究結果は鳥の‘全渡りルート’に沿った保護地域の指定を調整することが緊急に必要であることを明らかにしていると言っています。「たとえば、ドイツを通過する渡り鳥は、ドイツ国内では98%以上の種の生息地が保護されていますが、世界的に見ればこれらの種の生息地の13%以下しか適切な保全が行われていません。」

「貧しい国での保護の不足により豊かな国が渡り鳥を失っているというケースだけではありません。たとえば多くの中米の国は75%を超える渡り鳥の保護目標を満たしていますが、同じ種がカナダや米国で十分な保護が行われていません。」

保護区はふつう国ごとに指定されていますが、国際的パートナーシップや、政府間の協力が世界の渡り鳥を守るためには不可欠です。

「オーストラリアあるいはヨーロッパでいくら保全活動を行っても、他の地域で生息地を失っているとしたら、何にもなりません。私たちが渡り鳥に将来も生き延びてほしいと望むなら、世界中で今よりはるかに効率的に共同で活動する必要があります。」とFuller博士は言っています。

 

報告者: エイドリアン・ロング

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