絶滅を免れたモーリシャスチョウゲンボウ

©MWF / Jacques de Spéville

モーリシャスの正式な国鳥は、絶滅を免れたモーリシャスチョウゲンボウです。この鳥は、世界で最もよく知られた保全の成功例の一つです。

「ドードーはどこにでもいます!硬貨や紙幣、モーリシャスの紋章にも描かれています。ふわふわのマスコット、ドードーカフェ、ドードーのビーチサンダルまであります」とモーリシャス野生生物財団(MWF、バードライフ・パートナー)のコミュニケーション・マネージャーであるJean Hugues Gardenneは言います。「ドードーは事実上の国鳥でした。モーリシャス人が悲しい絶滅の物語を繰り返すのは、本当に皮肉なことだと思っていました」。

ドード―© Extinct Birds by Walter Rothschild (1907)

モーリシャスの人々が、環境に関する悲観的な物語に捕らわれるのも無理はありません。マダガスカルの東、インド洋に浮かぶユニークな群島をオランダの船乗りたちが、植民地化した1600年代に、モーリシャス島の自然は破壊され始めました。現在では良質な原生林はわずか1.3%しか残っていません。飛べない鳥、ドードーは、人間も含めた外来の捕食者から身を守る術がありませんでした。最後のドードーの死が1680年代に報告され、その後多くの種が絶滅しましたが、ドードーの伝説は世界中で生き続けています。

しかし、モーリシャスには、希望の物語もあるのです。これは今、モーリシャス国民の心を捉えています。同じくらい象徴的でありながら、現存する鳥の話です。

モーリシャスチョウゲンボウの保護は、他の種の保護にインスピレーションを与えました © Dominic Mitchell

 

世界で最も絶滅に瀕した種

風を切る茶褐色の姿が視界に入ると、尖った翼と長い尾を持つ俊敏な鳥が、葉の間を飛行しているのに気が付きます。そして、木々の上に飛んでいき、お決まりの見晴らしのいい場所に澄まして止まったところで、やっとその姿に焦点が合います。これがモーリシャス共和国の正式な国鳥、モーリシャスチョウゲンボウです。かつて世界で最も絶滅の危機に瀕していたこの鳥も、今ではエコツアーで簡単に見ることができます。

MWFの保護ディレクターであるVikash Tatayahは、「1960年代にモーリシャスチョウゲンボウが姿を消したことに最初に気づいたのは、アマチュア鳥類学者たちでした」と話します。しかし、1970年代に最初の保護を試みたものの、1974年には確認された個体はわずか4羽(うち繁殖ペアは1組のみ)になってしまいました。モーリシャスチョウゲンボウは、他のモーリシャスの猛禽類と同様、絶滅の危機に瀕していました(この国の固有種であるフクロウは1800年代に絶滅しています)。

飼育下での繁殖と飼育は、種の回復に不可欠な技術であり、幼鳥はその後、野生の放鳥場所まで慎重に運ばれます © Kat Saleiko

環境学者のNorman Myers博士は、『沈みゆく箱舟(The Sinking Ark)』(1979)の中で、「モーリシャスチョウゲンボウの避けられない運命を諦め、その資金で、他の生き残る可能性が高い何百もの絶滅危惧種の鳥類の支援を強化しよう」と書いています。しかし、保全に取り組むチームは、チョウゲンボウが姿を消すのを黙って見過ごすことはできませんでした。

チョウゲンボウへの脅威の一部は、ドードーが直面したものと似ていました。生息地である森林の伐採や劣化、それに伴うヤモリや小鳥の餌食の減少は、チョウゲンボウの個体数に壊滅的な打撃を与えたのです。また、崖の上の隙間や樹洞にある巣に忍び込むネズミやサル、地上で幼鳥を殺すネコやマングースなど、外来哺乳類による影響も大きいものでした。しかし、ドードーとは異なり、第二次世界大戦後にDDTという農薬が広く使われたことが、チョウゲンボウの個体数の減少に拍車をかけました(卵については、1967年にDDTによって卵殻が薄くなることが判明しています)。

抜本的な対策が必要でした。絶望的な状況だったにもかかわらず、1980年代にチョウゲンボウを救うための新たな取り組みが開始され、発足したばかりのMWFがモーリシャス政府や国際的な保護団体と協力して活動を推進しました。現在、チョウゲンボウの個体数が数百に達し、モーリシャスバトモアリシャスホンセイインコモーリシャスベニノジコ、複数の爬虫類など、他のモーリシャスの種の回復に成功するきっかけとなったことは、保護業界ではよく知られています。

 

卵の捕獲と野宿

しかし、数を増やすことは簡単なことではありませんでした。2016年にインディアナポリス賞を受賞したCarl Jones教授(1979年に本プロジェクト着任)は、飼育下での繁殖と補助給餌、そして野生下での巣の管理といった、斬新なアプローチを取り入れました。

卵を最後の野生のペアから採取し、人工孵化させ、鷹匠の(指人形など)の技術を応用して幼鳥を手塩にかけて育てました。十分な餌があれば、メスは最初の卵を取ると再び卵を産むので、数の増加が見込まれます。

1970年代に育児技術を磨いたJones © MWF

人工繁殖され、補助給餌された鳥が野生に放たれました。チョウゲンボウは口笛に慣れ、餌の時間になると急降下してくるようにまでなりました。「手から餌をつかむ瞬間の感動は、言葉では言い表せないほどです」とTatayahは言います。モーリシャス西部のブラック・リバー・ゴージスと東部のバンブー山脈に、10年間で300羽以上が野生に放されました。

しかし、劣化した危険な環境に種を再導入しても、ほとんど意味がありません。この種にとっての脅威を完全に理解するためには、集中的な監視と保護が必要でした。Jones、Lewisをはじめとする研究者たちは、解決策を見つけるために「チョウゲンボウになって」、巣の下で何日も野宿をしました。「巣の点検中、成鳥が私たちの頭を攻撃してくることがよくありました。髪がなければ特に十分な注意が必要です」とTatayahは笑いながら話します。

こうした取り組みによって、チームは外来種のサルやネコ、マングースの脅威に気づき、その解決策を考え付くことができました。特にカニクイザルの手の届かない場所に、捕食者対策用の人工巣箱を設置したところ、より多くの卵を産み、うまく雛を育てることができたのです。

MWFはまた、チョウゲンボウの生息地を増やすために、失われ荒廃した森林を回復させるという膨大な作業にも着手しました。「4世紀にわたる人間の存在と環境破壊を克服すること、それ自体が大きな挑戦なのです」とTatayahは言います。原生林では、ストロベリーグアバなどの外来植物が広がり、原生植物の苗を枯らし、チョウゲンボウの食料供給と狩猟効率を低下させていました。

外敵からヒナを守るだけでなく、人工巣箱ではより多くの卵を産むことができように、MFWは計画を改良し続けています© ドミニク・ミッチェル

 

転機の到来

1994年にブラック・リバー・ゴージスがモーリシャス初の国立公園として宣言されたことは、チョウゲンボウの保護と国民の環境意識の両面で転機となりました。MWFはモーリシャスの元首相、Anerood Jugnauth卿が在職中にこの地に招き、数羽の野鳥に餌を与えてもらったことがあります。Jugnauth卿は感激し、国立公園の必要性について論議される際、チョウゲンボウとその保護のために行われた素晴らしい活動を取り上げたそうです。このように、この地域の食物連鎖の頂点に位置する「アンブレラ種」であるチョウゲンボウの保護が、生態系全体の保護につながることを示す好例ともなっています。さらに、農業や蚊避けのためのDDTの散布は1980年代から大幅に削減されました(マラリアやチクングニアウイルスが局所的に発生した際には、引き続き使用されています)。

2000年代初頭には、チョウゲンボウの個体数は最高で500~600羽まで増え、バードライフによりレッドリストの危急(Vulnerable)に再分類されました。しかし、東海岸のチョウゲンボウの個体数が回復する一方で、西のブラック・リバー・ゴージスでは個体数が減少しているとの報告がありました。皮肉なことに、MWFと共同研究者が、西部に生息するチョウゲンボウの亜集団のモニタリングと巣箱の設置を中止した直後のことでした。チョウゲンボウは自分たちだけでうまくやっているように見えていたのです(また、一部、資金の制約もありましたが、これによって保護活動の資金がなくなるとどうなるかがわかりました)。

その結果、チョウゲンボウは個体数が少なく減少傾向にあることから、2014年に再び危機(Endangered)に指定されました(現在の野生個体は約350羽)。モーリシャスチョウゲンボウの4つの導入個体群の長期的な傾向を調べた最近の研究論文では、放鳥後のモニタリングの重要性が確認されています。

 

国家のプライド

「モーリシャス人が種を守ることを誇りに思うようにしたい」とHugues Gardenneは言います。「10年前までは、モーリシャスの人々は自然保護に無関心でした。しかし今、気候変動の影響が目に見える形で現れ、私たちの象徴的な種がより意識されるようになったことで、人々の環境に対する意識は高まっています」。

Jonesは10年前にモーリシャスチョウゲンボウを国鳥とするアイディアを出し、Tatayahが2021年末に国会議員にこのアイディアを発表したところ、拍手喝采を受けました。批准は、モーリシャスの共和国(大英帝国からの独立を経たもの)30周年にあたる昨年3月12日に発表できるよう、急遽実施されました。

「国鳥 」は単なる名前ではありません」と、Tatayahは話します。「この鳥が自然保護の原動力となることを望んでいます。MWFのスタッフは、チョウゲンボウの生息地を破壊や劣化から回復させ、保護するための活動を続けています。

バードライフの絶滅防止プログラム・マネージャーで、元MWF職員、『Birds of Madagascar and the Indian Ocean Islands』の共著者であるRoger Saffordは、「どんな種でも救うことができる」と言います。「私たちはもっと努力しなければなりません。失われるべきものはないのです」。Tatayah、Jones、Hugues Gardenneは、モーリシャスが、ドードーの絶滅ではなく、絶滅を防止したことで世界的に有名になる未来を願っています。

特別な瞬間: モーリシャスチョウゲンボウを野生に放すMWFスタッフ。昨シーズン、この絶滅危惧種の6羽が放たれました © Kat Saleiko

 

報告者:Shaun Hurrell

原文 “Alive as a kestrel: An emblem for preventing extinctions

(本文を一部編集しました)

 

 

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