ワッデン海が危ない: 初めての東大西洋フライウェイの渡り鳥報告書が伝える

ワッデン海は世界で最大の湿地の一つで、ナチュラ2000のサイトでもあります。
写真提供: Mogens Engelund/Flickr

欧州のワッデン海は広大な沿岸性湿地で、干潟、島嶼、塩水性沼沢地その他の環境から成り立っています。ワッデン海はオランダ、ドイツ、デンマークの北海沿岸に沿って450キロメートルに亘って延び、ほぼ1万平方キロの面積を有する世界で最大の湿地の一つです。

けれどもこれだけが自慢できることではありません。このナチュラ2000サイトを毎年1,200万羽の鳥が利用しており、60種以上の鳥の、繁殖、渡り、非繁殖期という彼らのライフサイクルにとって非常に重要です。また東大西洋フライウェイにおけるもっとも重要な場所の一つでもあります。このフライウェイを約6百万羽の鳥が北極圏の繁殖地と西ヨーロッパおよび数百キロ離れたアフリカ西海岸との間の渡りに利用します。鳥はワッデン海その他の場所を、渡りを続ける前に立ち寄って休息や採餌が出来る場所として必要としているのです。

ですから、これらの場所の1ヶ所でもその劣化や消失は渡り鳥にとって危険なことで、これらの種の個体数の評価がこれらの場所の健康度の指標となります。

これは2003年と2014年の間に、魚食性の種は増えているのに、ワッデン海で貝やカニ、環形動物を食べる66種の東大西洋フライウェイを利用する水鳥が250万羽も減少したという憂慮すべきことの理由です。更に気掛かりなのはワッデン海に大きく依存しているミヤコドリなどが、そうでない種と比べて減少しつつあることです。ワッデン海で繁殖する個体群も減少しているように見えます。

このような発見は東大西洋フライウェイ沿いの渡り鳥の調査報告書により刊行されました。この調査は2014年にワッデン海フライウェイ・イニシアティブ、ウェットランド・インターナショナル、バードライフが政府施設と共同で、オランダの経済省の‘豊かなワッデン海プログラム(PRW)およびMAVA基金その他の資金支援を得て実施したものです。

この報告書は毎年行われる‘国際水鳥センサス’(長期に亘る非繁殖期における水鳥の定点モニタリング・スキーム)による発見を説明しています。報告書に見られるように、2014年のセンサスがこれまでと異なっているのはそれが全体的にフライウェイに焦点を当てていることで、これはこのような同時に総合的なモニタリングが試みられた初めてのことでした。30か国約1,500人のバードウォッチャーがおよそ1,500万羽の鳥をカウントし、その結果は1980年以降の個別の調査結果と比較されました。

報告書では全体としてはフライウェイでの個体数の傾向はワッデン海よりも良好でした。これはワッデン海での傾向が気候変動などの世界的な要因によるものではなく、捕食や食物資源の激減(土地の干拓、漁業活動の増大、石油と天然ガスの採取、産業汚染による)など主として地域的な要因によるものであることを示唆しています。

今回の調査では科学者たちがずっと言い続けてきたことが証明されました。2009年に国連により世界遺産に指定され、ナチュラ2000サイトにもなっていながら、ワッデン海は依然として危ない状態なのです。状況改善のためにPRW(前出:‘豊かなワッデン海プログラム’)は活動的なゾーンと‘ワッデン海ホスト’を導入しました。後者の‘ワッデン海ホスト’は同エリアに関する情報を提供し、地域をボートで訪れる人たちに守るべきルールを示すものです。PRWはまた、ワッデン海の鳥のために、食物を提供し鳥の避難所にもなる自然の構造物を復元するなどの捕食対抗策と保護対策を取り、耐気候変動島(海面上昇に耐えられる)の建設を行っています。

今回の調査の主目的は既知の鳥の個体群を何処で保護するのが最善かをピンポイントで示すためにフライウェイ全体でのより多くの知見を得るためでした。「2014年の統合センサスは新しい知見をもたらしました。今後はこのセンサスの回数を増やすことを計画しています。それによりセンサスの結果は信頼性が高まり、鳥をより効率的に保護できるようになるでしょう。」とPRWのManon Tentijは言っています。

 

報告者: Sanya Khetani-Shah

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