ダイサギの予期せぬ行動
「レンズを通して」婦人画報誌2023年12月号
写真・文=高円宮妃久子殿下
協力[画像編集]=藤原幸一(NATURE’S PLANET) 編集=桝田由紀(婦人画報)、バードライフ・インターナショナル東京
「天高く馬肥ゆる秋」と申しますが、実際に空が最も澄んでいるのは冬の12月から1月だそうです。撮影の時は、日の出に合わせて現場に到着しますが、11月中旬の早朝、千曲川河川敷は冷え込んでいました。晴れ渡る空高くに浮かぶ白雲や燃えるような紅葉、風に揺れる白い荻(オギ)の穂などを見ていると、心が洗われる気がいたしました。今回はダイサギをテーマに、この時季に河川敷で撮った写真をご紹介することといたします。
日本画、また歌や句などの題材としてよく選ばれる「白鷺」は、白いサギ類を表す総称であり、「シラサギ」という種名の鳥はいません。日本で見られる白いサギは主にダイサギ、チュウサギ、コサギの3種類。大・中・小と見分けやすいはずなのですが、並んでいればまだしものこと、1羽ずつ単独で見ると、ダイサギとチュウサギの識別が意外に難しく、しばしば悩むことがあります。
皆さまの多くは、サギが魚やカエル、ザリガニなどを狙って日がな一日、水辺や田んぼに佇んでいるイメージをお持ちなのではないでしょうか。写真のダイサギも2日間にわたって同じ場所を行ったり来たりしながら、獲物を狙っていました。
私はテントの中から、「サギ目線」で周りの状況を観察。いつもの撮影と同じように、行動を予測して、シャッターチャンスを逃さないように集中し、同時に、何か予想外な展開を期待しながら待機していました。そして、嬉しいことに、その予想外の展開があったのです。
今回、初めて見たダイサギの予期せぬ行動は、とても大きな魚を捕まえたときに起きました。ダイサギは、その大きな魚を頭から吞み込もうとしていたのですが、しばらくするとピチピチ動き回る魚をくわえたまま、水からゆっくり出てきました。
そして5メートルくらい離れたところで、地面に魚をポトンと落としたのです。足元の魚の様子を首を捻りながら時々確認する姿もなかなか愛嬌があり、思わず笑ってしまいました。数分たったところで、サギは魚を再びくわえ、浅瀬へと向かい、水につけて、おもむろに吞み込みました。
サギ類は、捕らえた獲物をすぐに吞み込むのが普通です。今回、撮影したダイサギがとったこの一連の行動の理由ははっきり分かりません。1羽で漁場を独占していたことが関係しているのかもしれません。素人考えではありますが、他のサギに獲物を横取りされる心配がなく、したがって焦って食べる必要がなかったのではないでしょうか。
サギの仲間は上の写真のような小さな魚を一気に呑み込むだけでなく、かなり大きな獲物でも水に濡らして滑りをよくし、頭から丸吞みにします。今回大きな魚を吞み込む瞬間に巡り合えたシャッターチャンスに感謝しつつ、細い首を獲物で変形させながら摂食する姿を夢中で写真に収めました。
下の写真にある仁王立ちの姿は吞み込んだあとの一枚です。風が吹いていたこともあり、今までに撮ったことのない、少し愉快な一瞬を捉えることができました。また、大きな魚を捕獲し、胃袋に収めたサギの表情に「攻防を制した満足感」が見て取れると思うのは、「サギ目線」でずっと観察をしていたためでしょう。
最近思うのですが、鳥の撮影というのは私にとって、とてもいい口実。環境保全NGOの名誉総裁として、鳥の写真は必要ですし、現場を見ておくことも大事です。撮影のために各地に赴くのはいわば「お仕事」。書類やパソコンを部屋に残し、しばし日本の豊かな自然に身を置き、目の前の鳥の様子を無心になって撮影している時間は、とても幸せと感じます。
鳥たちの日常を見ていると、さまざまなドラマがあり実に楽しいですし、今回のように予想外の展開はきっと観察者自身に良い刺激を与えていると思います。皆さまも、鳥、そして日本の四季の景色をぜひご堪能くださいませ。