アジアのハゲワシを絶滅から救うための戦いに大きな進展
アジアのハゲワシの将来への大きなステップがインドの保健省から発表されました。ジクロフェナクは、アジアでの数千万羽のハゲワシの死の原因となってきましたが、人への処方用の大きな薬瓶が即時禁止になったのです。
痛みを和らげる薬効があるジクロフェナクは、それが治療に使われた牛や水牛の死骸を食べる(南アジアでは宗教上の理由から牛を食べず、死骸を野外に放置することが多い)ハゲワシに致命的な影響を与えることから、インドでは2006年に獣医薬としての使用が禁止されましたが、それ以来人に処方されたジクロフェナクが違法に動物の治療に用いられてきました。今回の禁止処置は、人に使われるジクロフェナクの薬瓶が3ml入りの小瓶のみの生産に制限されるというものです。
RSPB(英国のパートナー)に所属しSAVEハゲワシ・プログラムのマネージャーChris Bowdenは「2006年以降獣医薬としてのジクロフェナクの使用は違法になったのですが、人への処方用は無責任な製薬会社により大きな薬瓶がいつでも入手できるようになっており、違法に牛や水牛に使うのに安価で容易になっていました。今回の禁止処置は大きな薬瓶に入れたジクロフェナクの製造も販売もできなくなることを意味し、それにより動物治療用にジクロフェナクを違法に使うことがより難しくなり、アジアのハゲワシの主食である動物の死骸からジクロフェナクを取り除くことにつながります。これはハゲワシを絶滅の淵から取り戻すための大きな一歩になります。」と言いました。
獣医薬ジクロフェナクは南アジアの3種のハゲワシ: ベンガルハゲワシ、インドハゲワシ、ハシボソハゲワシの個体群にかつてない減少を引き起こしました。ベンガルハゲワシは1992年から2007年の間に実に99.9%以上、数にして数千万羽も減少したのです。
自然保護活動家による何年もの反対運動によりバングラデッシュ、インド、ネパール、パキスタンの政府は2006年から2010年の間にジクロフェナクの獣医薬としての処方を禁止しました。最近、この禁止処置によりハゲワシの減少に歯止めが掛りつつあることが専門家により記録されています。けれども、人への処方は広範囲に行われており、動物への違法な利用は止まりません。ジクロフェナクを処方された家畜の死骸は南アジアのハゲワシの主食なのです。
RSPBは南アジアのハゲワシの窮状を救うための保護活動、キャンペーン、募金活動を監督、調整するために設立された国際組織の連合であるSAVE(Saving Asia’s Vultures from Extinction: ‘アジアのハゲワシを絶滅から守ろうの’意味)の一員です。創設以来SAVEは製薬会社に人用のジクロフェナクの30ml瓶の生産中止を求めてきました。この大瓶は人の治療に必要な量(3ml)の10倍に当たります。今回の規制以前には3社のみが大瓶の生産を自発的にやめていましたが、インドの70社以上はSAVEの要求を無視しました。保険衛生の専門家は大瓶の生産中止は人に使うジクロフェナクの合法的使用に大きな問題を起こすとは考えていません。
ボンベイ自然史協会(インドのパートナー)の科学者Vibhu Prakashは「おそらく2006年の獣医薬としてのジクロフェナク禁止以来のハゲワシ保護のもっとも重要なステップである今回の発表は大きな進展があったことを示しています。けれども安全な代替薬の使用を確実に行うためにはやるべきことがまだ多数あります。残念ながらケトプロフェンなど多くの代替薬はハゲワシに安全なものではなく、また多くの薬がまだテストされていません。実際に現在ハゲワシに安全であることが確認されているのはメロキシカムだけなのです。」と言いました。
メロキシカムは南アジアでの特許が撤廃されて生産コストが下がったことにより現在より広範囲に使われるようになりました。けれども、毒性があることが分かっている他の薬品や影響が不明な薬品が合法のままになっており、今でも使用されています。
もっと身近なところでは、信じられないことにイタリアの製薬会社がイタリアとスペインの獣医薬市場でジクロフェナクの生産が認められました。何と、インドで最初の禁止令が出されてから8年も後のことです。ハゲワシはこの2国にも生息しており、ここでも家畜の死骸を食物にしています。その死骸の中の何体かはジクロフェナクによる治療を受けたものです。ハゲワシの保護活動家はこれが南アジアと同様ヨーロッパのハゲワシにも減少を招くのではないかと心配をしています。けれども欧州医薬品庁は欧州連合全体でのジクロフェナクの禁止を助言しておらず、このような懸念を重大には捉えていません。
RSPBのハゲワシ調査学者Toby Galliganは言いました。「インド政府は再びハゲワシを守るための強い決意を表明しました。これはヨーロッパが出来なかったことです。本当に恥ずべきことです。」
SAVEは現在ハゲワシ保護を各国政府に主張し、獣医にも家畜の所有者にも治療に同様な効果を上げる代替薬への関心を高めることによりジクロフェナクの獣医薬用利用を止めるように働きかけています。これらの問題が現状のままで対処されている一方で、SAVEはインド、ネパール、パキスタンでハゲワシの捕獲繁殖センターを開設しました。これらの繁殖個体は野生個体群の補充のために放鳥されますが、ただし放鳥が行われるのは安全が確認されてからのことです。
報告者: マーチン・フォーリー
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