30周年を迎えた英国のバードフェア: 30年にわたる世界の保全活動へのインパクト
毎年「バードウォッチングのグラストンベリー」(訳注:英国南西部の町の名前。毎年野外ロック・フェスティバルが開催される)とも呼ばれる英国のバードフェアの収益は、バードライフの保全プロジェクトに役立てられます。今回は、過去30年の成功の軌跡を振り返ります。
今夏、英国バードウォッチング・フェアは30周年を迎えました。30年にわたり世界中で自然保護活動に影響を与えて来ました。これまでに、何百万ポンドもの募金が寄せられ、世界で最も絶滅が危惧される種とその生息地の保全や、バードライフの主軸のプロジェクトに役立てられました。
1989年: 鳥の虐殺防止キャンペーン
対象種: ヨーロッパコマドリを主とする地中海地域の渡り鳥
寄付額: 3,000ポンド
ICBP(国際鳥類保護会議: 1993年にバードライフに改称)は第1回バードフェアが支援するプロジェクトとして狩猟と罠猟に取り組みました。バードライフ・マルタが実施していた教育プロジェクトを支援し、世間の注目を集めました。
1990年: スペインのドニャーナ国立公園の支援
寄付額: 10,000ポンド
ドニャーナ湿地は、 「コスタ・ドニャーナ」と呼ばれた巨大な観光開発計画の脅威に直面していました。保全活動により開発は中止され、ビジターセンターが設立されました。
1991年: ドナウ川デルタ・プロジェクト
対象種: ニシハイイロペリカン(準絶滅危惧種)、カオジロオタテガモ(絶滅危惧IB類)、コビトウ
寄付額: 20,000ポンド
ドナウ川デルタの湿地は新政権の働きにより世界遺産およびラムサール条約に登録されたことで、乾燥化の脅威から解放されました。けれども管理に必要な設備や用具が不足していたため、バードフェアで集まった寄付金を提供しました。
1992年: スペインのステップ(草原)の保全
対象種: ノガン(絶滅危惧II類)、ヒメノガン(準絶滅危惧種)、デュボンヒバリ(準絶滅危惧種)
募金額: 30,000ポンド
EUからの資金提供を受けた大規模な灌漑計画によって、スペインの草原は破壊の危機に直面していました。「スペイン・ステップ・アピール」は、当時再編されたばかりのバードライフ・パートナーシップにおいて、欧州レベルでの連携活動の好例となりました。
1993年: ポーランドの湿地プロジェクト
募金額: 40,000ポンド
OTOP(ポーランドのパートナー)によるポーランドの湿地IBAリストの更新と、これらの地域の保全を支援しました。この資金はハシボソヨシキリ保護のためのポーランド初となるSwina河口の保護区設立にも役立てられました。
1994年: ハルマヘラ・プロジェクト
対象種: シロハタフウチョウ
募金額: 41,000ポンド
1994年時点では、ハルマヘラ島はインドネシアの中で国立公園も保護区もない最大の島でした。バードフェアは、優先的に保護すべきエリアを特定する活動に支援しました。残念ながら秩序不安により活動は一時中断しましたが、活動は続けられ、2004年に最初の国立公園が設立されました。
1995年: モロッコ湿地プロジェクト
対象種: シロハラチュウシャクシギ(絶滅危惧IA類)、ウスユキガモ(絶滅危惧II類)、アカハシカモメ(準絶滅危惧種)
募金額: 45,000ポンド
海と砂漠に挟まれたモロッコ海岸に点在する湿地は、渡り性水鳥にとってはまさにライフラインです。けれどもそれらの湿地は人の利用による圧力も受けています。バードフェアはこれらの重要サイトのより良い管理のために資金を提供しました。
1996年: Ke Go森林プロジェクト
対象種: コサンケイ(絶滅危惧IA類)、カンムリセイラン(準絶滅危惧種)、アンナンヤマゲラ(準絶滅危惧種)
募金額: 50,000ポンド
Ke Goはベトナムに残された数少ない低地森林の一つです。1996年にバードフェアによる広報と資金支援の甲斐あって、この森林は自然保護区になりました。バードライフは違法伐採との終わりの見えない戦いを今も続けています。
1997年: ミンドIBAプロジェクト
対象種: ムナグロワタアシハチドリ(絶滅危惧IA類)、アンデスイワドリ
募金額: 60,000ポンド
1997年、バードフェアの支援を得てエクアドルの生物豊かなミンド雲霧林が南米大陸で初のIBAとなり、同時に南米でのIBAプログラムが始まりました。
1998年: バードライフ絶滅危惧種プログラム
対象種: アオキコンゴウインコ(絶滅危惧IA類)、ヘラシギ(絶滅危惧IA類)
募金額: 120,000ポンド
8種の鳥のうち1種が絶滅の危機にあることを受けて、バードフェアは絶滅危惧種の個体数調査を支援し、保護活動に情報を伝えるのに不可欠な書籍「Threatened Birds of the World」を発行しました。
1999年: ブラジルの大西洋岸森林を救う
対象種: ニシキフウキンチョウ(絶滅危惧II類)、アラゴアスアリサザイ(絶滅危惧IA類)、バイアコバシハエトリ(絶滅危惧IB類)
募金額: 130,000ポンド
ブラジルの絶滅が危惧される103種の鳥のうち43種が、縮小を続ける大西洋岸森林に依存しています。1999年のバードフェアは森林保全を目的としました。その結果、Murici森林が「Ecological Station」と呼ばれる保護区となったのもその成果の一つです。
2000年: アホウドリを救うキャンペーン: 釣り針から海鳥を救う
対象種: ワタリアホウドリ(絶滅危惧II類)を含む海鳥
募金額: 122,000ポンド
アホウドリ類は最も大きな危機にさらされている海鳥で、最大の脅威の一つは延縄漁の釣り針に掛かって死ぬことです。バードフェアは「世界海鳥プログラム」の立ち上げを支援し、やがて大きな成功を収めた「アホウドリ・タスクフォース」プログラムにつながりました。
2001年: キューバ東部―カリブ海地域固有の生態系の保全
対象種: ハシジロキツツキ(絶滅危惧IA類)、マメハチドリ(準絶滅危惧種)
募金額: 135,000ポンド
キューバには世界最小の鳥マメハチドリなど350種の鳥が生息しています。バードフェアは重要な調査に資金や調査機器を提供し、カリブ海地域全体への支援を集めるきっかけとなる、キューバのIBAの設定を支援しました。
2002年: スマトラ最後の低地熱帯雨林の保全
対象種: アカエリキヌバネドリ(準絶滅危惧種)
募金額: 147,000ポンド
バードフェアはスマトラで縮小を続ける低地熱帯雨林のうち優先的に保全すべきエリアを特定するため、ブルーン・インドネシア(同国のバードライフ・パートナー)に資金を提供しました。熱心なロビー活動によって、インドネシア政府は第一号となる森林復元ライセンスを発行し、低地熱帯雨林の一つが伐採や農場開墾から守られることとなりました。
2003年: マダガスカルの脆弱な湿地の保全
対象種: マダガスカルウミワシ(絶滅危惧IA類)、マダガスカルクロクイナ(絶滅危惧IB類)、マダガスカルサギ(絶滅危惧IB類)
募金額: 157,000ポンド
このプロジェクトには、法的な合意を形成するために政府、コミュニティ、企業と共同で地元住民が関わりました。現在では2つの保護区へと拡大しています。
2004年: ペルー北部の乾燥森林の保全
対象種: ハジロシャクケイ(絶滅危惧IA類)、オナガラケットハチドリ(絶滅危惧IB類)、カオカザリヒメフクロウ(絶滅危惧IB類)
募金額: 164,000ポンド
アンデス山脈、セチュラ砂漠、太平洋に挟まれたこの孤立した地域は、地球上でもベスト10に入るほど生物学的にユニークなエリアです。バードフェアはここで幾つかの保全プロジェクトを支援し成功を収めました。
2005年: クロハラシマヤイロチョウとその生息森林の保護
対象種: クロハラシマヤイロチョウ(絶滅危惧IB類)
募金額: 200,000ポンド
クロハラシマヤイロチョウは、一時は絶滅したと思われていたため、ミャンマーの低地森林で再発見されたことは素晴らしいニュースとなりました。けれども油ヤシ農園のための森林伐採の脅威にさらされていたため、急を要する事態にありました。バードフェアの支援を受けた普及啓発により、この鳥への理解が進みました。
2006年: 太平洋のオウムの救助
対象種: アカジリムジインコ(絶滅危惧IA類)、ムスメインコ(絶滅危惧IB類)、ヘイワインコ(絶滅危惧IB類)
募金額: 215,000ポンド
バードフェアは6種の絶滅が危惧されるオウム類に焦点を当て、太平洋地域の保全活動を支援をしました。その成功例の一つはムスメインコが元々生息していたAitu島が再導入されたことで、現在は同島に多数生息しています。
2007年: 絶滅阻止プログラム
対象種: ベンガルショウノガン(絶滅危惧IB類)、ソマリアシャコ(絶滅危惧IA類)
募金額: 226,000ポンド
バードフェアは、バードライフが推進する絶滅危惧IA類の鳥を救うイニシアティブを支援しました。このイニシアティブは、「種の守護者」たる種を救うための資金を提供する団体または個人と「種の監視員」たる現場の活動を主導する団体や個人をマッチングすることを目的としています。
2008年: 絶滅阻止プログラム
対象種: アラリペマイコドリ(絶滅危惧IA類)、マミジロゲリ(絶滅危惧IA類)、アゾレスウソ(現在は絶滅危惧II類)
募金額: 265,000ポンド
2007年の支援の成功を受けて、さらに追加で6種の絶滅危惧IA類の鳥の保全が進められました。また、それらの種を救ってくれる「種の守護者」を探す活動も大きな成功を収めました。
2009年: 絶滅阻止プログラム: 「失ったものと見つかったもの」
対象種: フィジーミズナギドリ(絶滅危惧IA類)、サンクリストバルオグロバン(絶滅危惧IA類)
募金額: 263,000ポンド
バードフェアは、15種の「絶滅」したとされる種がまだ野生で生き残っているかどうかを確かめる活動を支援しました。フィジーミズナギドリの探索で8羽が生き残っているのが明らかになったのは、この支援の成功例の一つです。
2010年: エチオピア南部の固有種
対象種: ニセヤブヒバリ(絶滅危惧IA類)、ソデグロガラス(絶滅危惧IB類)、オジロツバメ(絶滅危惧II類)
募金額: 243,000ポンド
エチオピアの固有種への脅威は年々大きくなっています。バードフェアは、エチオピア野生生物・自然史協会(同国のバードライフ・パートナー)が勧めているニセヤブヒバリが生息する小さな草原地域を地元民と共同で保全する活動に資金提供しました。
2011年: フライウェイ・プログラム アフリカ-ユーラシア・フライウェイ
募金額: 227,000ポンド
バードフェアがバードライフ・フライウェイ・プログラムを初めて支援した年には、同プログラムでは欧州で繁殖しサハラ砂漠以南のアフリカで越冬する鳥の保全が実施されました。バードフェアは啓発活動を支援したほか、新しいフライウェイ行動計画が策定されました。
2012年: フライウェイ・プログラム 東アジア-オーストラリア・フライウェイ
対象種: ヘラシギ(絶滅危惧IA類)、カラフトアオアシシギ(絶滅危惧IB類)
募金額: 200,000ポンド
2012年度のプロジェクトでは、5千万羽もの渡り性水鳥が利用するものの、人口の増加により縮小している重要な湿地を保全するため、東アジア全体のバードライフ・パートナーを支援しました。その成果の一つは、ミャンマーのマルタバン湾がラムサール条約登録湿地となったことです。
2013年: フライウェイ・プログラム アメリカ大陸フライウェイ(プレーリーからパンパスまで)
募金額: 270,000ポンド
アメリカ大陸の草原地帯では、伝統的な放牧から集約的な畜産業への転換が進んでいます。2013年のバードフェアは南米のサザン・コーン草原のバードライフ・パートナーを支援し、「鳥に優しい」牛肉認証などのイニシアティブや、重要な草原地帯の保全活動が進められました。
2014年: 海洋の保全
対象種: マカロニペンギン(絶滅危惧II類)、アカハシカモメ
募金額: 280,000ポンド
海洋は地球の表面の70%を覆っていますが、その保全は他の環境に比べて遅れています。バードフェアは海洋保全活動の拡大を行っているバードライフ・パートナーの活動に資金を提供しました。このプロジェクトには南極大陸と公海の保全活動も含まれます。
2015年: 東地中海地域の渡り鳥の保護
対象種: シュバシコウ、コオバシギ(絶滅危惧II類)、ツバメ
募金額: 320,000ポンド
地中海を通過する際、毎年約2,500万羽の渡り鳥が密猟されています。バードライフはこの地域全体での保護法の強化を主張し、密漁を減らすための活動を行いました。
2016年: アフリカのIBAの保全
対象種: チャイロクイナモドキ(絶滅危惧II類)、マダガスカルルリバト
募金額: 350,000ポンド
森林の喪失はアフリカ大陸全体で深刻な問題です。2016年のバードフェアはマダガスカルのTsitongambarika森林の保全を支援しました。ここには多数の固有種が生息し、マダガスカルの高い水準から見ても生物学的に特別な場所です。
2017年: 太平洋の楽園を救う
対象種: ラパヒメアオバト(絶滅危惧IB類)、ハワイセグロミズナギドリ(絶滅危惧IB類)、ノドジロウミツバメ(絶滅危惧IB類)
募金額: 333,000ポンド
2018年: アルゼンチンのフラミンゴの安息地
対象種: アンデスフラミンゴ(絶滅危惧II類)、チリーフラミンゴ(準絶滅危惧種)、コバシフラミンゴ(準絶滅危惧種)
募金額: 後日確定
今年はバードフェアをピンク色に変えます。アルゼンチン最大の国立公園を設立し、100万羽を超える水鳥の安息の地を作る計画を祝うのです。
今年のバードフェアは8月17日~19日に英国ラトランドのイーグルトン(ラトランド・ウォーター)自然保護区で開催されました。
報告者: Jessica Law
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