野鳥にとってヨーロッパをより安全にしてきたEUの‘野鳥指令’が今、議論となっている
1970年代に戻ってみましょう。当時はヨーロッパの大部分で狩猟期は8月から5月までの長期に及び、鳥が繁殖地に向かう途上で撃たれたり、時には文字通り巣に座っている時に撃たれたのです。ツル、ノガン、サギ類やほとんどの小鳥が狩猟対象種でした。猛禽類はヨーロッパ大陸全土でごく普通に撃たれたり、毒殺されたり、わなにかけられました。メッシーナ海峡は毎春数万羽の渡り性猛禽類が陥る死の罠でした。英国の大部分には実際に猛禽類が居なくなりました。罠、霞網、鳥もちなどが広範囲で使われており、野鳥を販売する大きな市場がブリュッセルの中心地で繁盛していたほどです。実際に現在‘密猟’と呼んでいる行為のほとんどが当時は完全に合法だったのです。悪いことに当時‘害獣’と考えられていた猛禽類や他の鳥を殺すことには報奨金が出され、国によって推奨され、実施されていました。どこででも行われ、無差別に野鳥を虐殺していたことが世間の騒動を引き起こし、後に当時の欧州共同体(EC)が1979年に‘野鳥指令’を採択するに至る道を開いたのです。
‘野鳥指令’はこれらを一変しました。その実施には環境NGOによるキャンペーン、法廷闘争、ECによる加盟国に対する違反の取り締まりなど数十年掛かりました。けれども、その達成は容易ではありませんでした。今では狩猟方法、狩猟対象種のリスト、狩猟期などが法制化された持続可能性の要件に沿ったものになっています。多少の違反はあちらこちらで散見され、未だに大掛かりな法律違反も場所により起こりますが、欧州の狩猟の大部分は様変わりし、最悪の無差別な野鳥の大量殺戮は欧州大陸の大部分からはなくなりました。法律の改善とその施行は野生生物の目覚ましい回復につながっています。私たちはRewilding Europe, ZSL および EBCCと共同で昨年発行された大規模研究に示された最も劇的になされた保護活動の成功例をいくつか分析しました。’野鳥指令‘の効果を知るには特別な方法は必要ではなく、窓の外を見るだけで十分です。かつて稀にしか見られなかったウ、サギ、ノスリなどの種が今では大都市の中でも普通に見ることができます。また、かつて絶滅に向かっていた最重要種イヌワシ、ナベコウ、クロヅルが今では多くの地域で普通の光景の一部になっています。もし野鳥保護活動でのEUの貢献をお疑いなら、北アフリカや中東の地中海周辺で今もなおゾッとするような状態にある渡り鳥への迫害を見ていただければお分かりになります。
欧州での野鳥保護の35年を熟視すれば祝いたくなることが多々ありますが、その一方でまだやらなければならないこともたくさん残っています。このニュースレターの後半部に示すように、容認しがたい保護種の虐殺がスペインからキプロス、さらには英国にかけて今でも起きています。2012年に欧州委員会は‘鳥の密猟をなくすためのロードマップ’を発行しました。これは裁判官や検察官の訓練、法執行機関当局間の協力体制の改善など一連の対策による法律施行の改善を目的としたものです。けれどもまだやるべきことがたくさんあります。重要な優先事項は長期に亘って環境監査を行うという法律の採択であるべきで、それはEU加盟国に法律施行に十分な資源を投入し、国レベルでの戦略的な施行を計画することを求めることです。
欧州委員会は現在野鳥および生息地指令の‘適応度チェック’を進めています。委員長のVella氏はこれらの指令を、より‘ビジネスに優しい’ものにするために弱めようとする大きな政治的圧力を受けています。 ‘野鳥指令’が制定される以前の欧州の状況を覚えており、今、心躍る野鳥の姿と歌声を楽しんでいる人たちは誰もが声を上げなければなりません。欧州には野鳥を大切にするための優れた法律があります。私たちはこれを完全に実施すべきで、改ざんしてはなりません。