ハイガシラアホウドリの若鳥は何処へ行くのか

サウスジョージア島ではハイガシラアホウドリの個体数が毎年5%ずつ減っている。 写真提供: © Stephanie Winnard

あまりにも多くの若鳥が巣立ちの後、行方不明になっています。彼らが何処へ行ったのかが分からなかったので、彼らの減少を食い止めることが困難でした。今回人工衛星追跡タグを装着した9羽の雛が無事巣を離れました。彼らの旅を一緒に追跡しましょう。

 

一個の卵が、吹きさらしの亜南極諸島の風に揺れる草むらの中に心地よく収まっています。親鳥は交代で72日間卵を温めます。雛は大きな原綿の毬のような形になって孵ります。親鳥は雛を溺愛し、1日に500グラム以上の餌を与え、やがて雛は艶やかなきりっとした巣立ちしたばかりの雛に成長します。

そして雛は島からいなくなります。

これが、英国の海外領南大西洋の中央部にある孤島サウスジョージア島で英国南極観測局(BAS)の研究者を当惑させて来た問題です。私たちは若者が世界や自分自身を発見するために長期の旅に出ることはよく知っていますが、ハイガシラアホウドリの若鳥の場合は、この通過儀礼を極端な形で行います。巣立ちすると彼らは餌を求めて南極海を放浪します。彼らが何処に行くのかは分かりませんが、それが成鳥とは異なる場所であることは分かっています。そしておよそ7年後、彼ら自身が孵化したコロニーへ繁殖するために戻って来ます。

ハイガシラアホウドリが危機的状況にあることから、これは解決を急ぐべき問題です。彼らが絶滅危惧IB類とされているのは最大の繁殖拠点であるサウスジョージア島における個体数の壊滅的減少です。1977年以後個体数は50%以上減少し、ここ10年は減少率が年間5%に心配するほど加速しています。これは他のアホウドリ類にはない早さです。島の変わりようは荒涼としたものです。かつては巣や雛でいっぱいだったコロニーは、今ではまばらで活気がありません。風に揺れるむき出しになった草むらが広がっているだけです。

 

1979年と2017年のサウスジョージア島のハイガシラアホウドリのコロニーの比較(左が1977年、右が2017年)。
写真提供: © John Croxall / British Antarctic Survey

研究者達は足環を付けた鳥の再発見の記録から、若鳥の生存率が通常よりはるかに低いことを解明しました。しかしなぜ?唯一の糸口は、日本の延縄漁漁船からの僅かな報告だけでした。「日本の漁船団がハイガシラアホウドリの若鳥の混獲を報告しました。しかし本種の若鳥を他種と識別するのは極めて難しいので、間違った識別をしたのではないかという混乱があるのです。」とRSPB(英国のパートナー)の国際マリーン・プロジェクト・オフィサーのStephanie Winnardは言います。確認する方法は一つしかありませんでした。

そこで2018年5月にバードライフの「世界海鳥プログラム」の一部として「バードアイランド」と名付けられたサウスジョージア島で、16個の人工衛星追跡タグがアホウドリの雛に装着されました。フィールド研究者のDerren Foxは、自然の哺乳動物の捕食者がいない中で進化した鳥にタグを付けるのが簡単だったと振り返っています。「タグ付けは簡単で、一羽に4‐5分しか掛かりませんでした。私たちは巣立ちが成功し出来る限り長生きをしてもらうために、健康で発育の良い雛を選びました。」

人工衛星追跡タグが巣の中に居た16羽の雛に装着された
写真提供: © Derren Fox

そして6月の初めに皆が待っていた時が来ました。1羽ずつアホウドリの雛は処女航海に乗り出したのです。観察チームは次に何が起きるか息をひそめて見守りました。「雛が巣立つのを見るのは本当に特権です。コロニーの幾つかを度々訪れ、特にシーズンの終わりにコロニーで多くの捕食の犠牲を見た者にとっては、彼らを魅入るばかりです。」とDerrenは言います。

Derrenの言う捕食とはあどけない雛を襲うオオフルマカモメやトウゾクカモメの脅威です。しかもこの脅威はますます悪化しています。サウスジョージア島のハイガシラアホウドリが疎らになったことで、オオフルマカモメの攻撃の成功度が一層高くなるという悪循環に陥っているのです。悲惨なことにタグを付けた16羽の若鳥のうち7羽は捕食にあい今シーズン島を離れることはありませんでした。

アホウドリのコロニーが疎らになるのに伴いオオフルマカモメの攻撃が増える。
写真提供: © Stephanie Winnard

幸にも9羽の勇敢な探検家が無傷で逃れ、彼らのルートは既に調査チームが熱心に監視を始めています。「最初の結果では、若鳥の何羽かは日本の漁船団が混獲でハイガシラアホウドリの若鳥を殺してしまったとの報告があった地域に向かいました。これは私たちが本種をこのエリアで追跡した初めてのことです。」とStephは言っています。この結果はRSPBとBASの最近の調査結果と一致するもので、サウスジョージア島のハイガシラアホウドリと日本及び台湾の大規模なマグロ漁が重なる地域であることを示します。

このことが確認されれば「世界海鳥プログラム」は仕事に取り掛かれます。「私たちは既に日本と台湾の漁業当局や一部の漁師と一緒に話し合いを始めています。今日、私たちはこの活動を通してこの信じられないような航海者が安全に家に戻ることが出来るように、より良い目標に向かうことを保証します。」とStephは言っています。

 

報告者:Jessica Law

原文はこちら

 

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