生物多様性の危機をいかに伝えるか?

© Cambridge Conservation Initiative

多くの専門家にとって、生物多様性の喪失は気候変動と並ぶ危機なのですが、一般人の関心は低いままです。この状況を変えるため、専門家パネル(デイビッド・アッテンボロー卿も参加)がケンブリッジ自然保護イニシアティブにおいて大きなイベントを主催しました。

 

世界が直面している生物多様性の危機についてどのようにして関心を高めれば良いでしょうか?

これが4月12日にバードライフ本部とケンブリッジ・コンサベーション・イニシアティブのパネルでデイビッド・アッテンボロー卿を含む6人の専門家に課せられた課題でした。これは難しい問題です。現在、生物は自然絶滅の1,000倍の速度で絶滅していますが、ほとんどの人がこの問題を知ってさえいないのです。2020年に北京で開催されるCBD(生物多様性条約)の締約国会議が迫ってきた現在、私たちは是が非でも生物多様性の危機を2016年のパリ協定(COP21)と同じくらいの大ニュースにしなければなりません。

専門家パネルにはバードライフのCEOパトリシア・ズリータ、世界的な行動を促進するウェブサイトAvaaz(欧州、中東、アジアの言葉の合成語で「声」を意味する)のキャンペーン・リーダーのAlice Jay氏、カメルーンの環境省のPrudence Gallega、グッチ、バレンシアーガ、アレキサンダー・マックイーンなどのブランドを持つ高級品企業ケリング社の持続可能な開発部門のヘッドHelen Crowley氏および生物多様性条約の事務総長Cristiana Paşca Palmer博士が参加しました。それぞれが異なる立場から重要な意見を出し、以下の5つの重要な課題にまとめました。

 

人々の思いをつなぐ

話し合いの中で最初に出されたポイントの一つは、人々が環境を大変心配しているという全体合意でした。Alice Jay氏は、フランス・カナダ・英国で行われた世論調査で回答者の80%以上が政府はもっと積極的に保全を進めるべきであり、また回答者の約80%が地球の半分は自然のために残すべきであると回答したことを紹介しました。同様にパトリシア・ズリータは、ディビッド・アッテンボロー卿が子供たちは皆自然への畏敬の念を持っており、私たちはその感嘆の念を役立てるべきだとのコメントに賛同すると発言しました。

パネリストの多くが、人々に生物多様性保全の利益と必要性を伝えなければならないことを強調しました。Alice Jay氏は人々がしっかりと認識しなければならないことの一つは状況がいかに緊迫しているかということだと指摘しました。私たちは地球全体を危機にさらす生態系の転換点を超える可能性があるということです。Cristiana Palmer博士もそれに同意し、人々は本質的に絶滅危惧種の動物が殺されたと聞くと悲しみますが、一方で現実に起こっていることが我々人類の生存さえ危うくしていることは理解していないと述べました。環境保全に関わる者は、こうした認識のギャップを埋める努力を払う必要があります。

 

環境保全と経済成長は相反しない

いろいろな意味で自然保護活動はしばしば経済成長のアンチテーゼ(相反すること)として扱われてきました。けれどもパネリストは必ずしもそうではないと指摘しました。基調演説の中で、Cristiana Palmer博士は産業界のリーダーを企業の社会的責任だけでなく生物多様性の問題にも巻き込む必要があると述べました。博士は、生物多様性の保全はビジネスにとっても良いことにつながることを示すデータが多数あり、私たちはそのメッセージを伝えなければならないと付け加えました。

ケリング社の持続可能な開発部門長のHelen Crowley氏もこの意見に同意しました。彼女は同社が個々の製品から生ずる環境への損益を計測する方法を開発したと説明しました。この方法を用いることで、同社は個々のビジネスがどのように保護に影響を与えるかを算出し、それに対応する施策を策定できるのです。

Prudence Gallega氏は、他の大臣との対話を通して、自然保護の話だけをしてもうまく行かず、開発と経済の話もしなければならない事を学んだことを指摘しました。彼女は、農業部門に向かって耕作をしないようにと言うのではなく、彼らに「より長く利益を生み出す農業手法を採用する」ように伝えるのが上策であると述べました。

Alice Jay氏は、かつて気候変動のメッセージを伝える際、炭素排出の減少は経済への悪影響につながることへの懸念があったものの、実際には、英国では毎年排出量が減少しているにもかかわらず経済は落ちておらず、自然保護と経済発展は両立する証拠であると述べました。

 

誰もが保護活動の代表者である

パネルの最大のポイントの一つは、彼らが述べたことではなく、彼らが誰だったかということでした。パネラー全員が女性で、彼女たちは様々な民族、国籍の代表だったのです。パトリシア・ズリータが全員女性のパネルを実施できたことの素晴らしさを述べた時、聴衆は大きな拍手をしました。普段なかなか聞かれない声に耳を傾けると同時にそうした声を上げることが必要だという考えは保護活動そのものにも共通するものです。

左から: Cristiana Paşca Palmer, Alice Jay, Patricia Zurita, Prudence Gallega, Helen Crowley及び司会者のRichard Black
写真提供: © Cambridge Conservation Initiative

この件に対するPrudence Gallegaの指摘は特に心が痛むものでした。保全活動への地域コミュニティ参画の重要性が話題になった際、彼女はカメルーンでの保全活動において、初期の取り組みでは保護区から地域コミュニティが退去させた結果、保全が失敗に終わった話を紹介しました。また現在では保護区の設立と管理に地域コミュニティが関与する新しいアプローチによって、違法な野生生物の売買が減少していることを付け加えました。

希望はある

その晩の最後のスピーカーはデイビッド・アッテンボロー卿でした。彼は保全活動は時には気の滅入る仕事ですが、希望はまだあると述べました。最後に、問題は常にあり、解決策は容易には見えない時でも、あなた方のように知恵を出し合い、一緒に集まり時間を共有する人たちがいる限り、外から見ている私からすれば、世界には楽観する理由があり、感謝する理由がある、という言葉で締めくくりました。

報告者: Margaret Sessa-Hawkins

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