海鳥は約40%の時間を国境を越えた公海で過ごしていることが研究により判明
アホウドリや大型のミズナギドリは39%の時間を、どこの国も管轄権をもたない海域、即ち公海上で過ごしていることを科学者たちが解明しました。この重要な生息地が見過ごされないようにするにはどうすれば良いでしょうか?
私たちが「公海」という言葉を考える時には、向こう見ずな海賊が遠く離れた水平線に向けて航海しているイメージがしばしば頭に浮かびます。海賊の黄金時代には、彼らのような無法な海賊は人類すべての敵と考えられて、どこの国にも公海上で海賊船を拿捕する権利がありました。今では海洋生物保全のためには、同様のアプローチを取る必要があるという証拠が増えつつあります。ただしもっと前向きで、国々は協力して保全に当たらなければならない共通の責任がある、とする考え方です。
そのような証拠の一つが、最近明らかになりました。新しい研究で、アホウドリ類と大型ミズナギドリ類は39%の時間を国境を越えた公海で生活していることが判明したのです。39種5,775羽の追跡データの解析により、全ての種が頻繁に他国の海域に移動することが解明されました。これは、一つの国だけでは十分な保全活動を行うことが出来ないことを意味します。更に、全ての種が、世界の海の半分、地球表面積の3分の1を占める国際的水域、即ち公海に依存しているのです。
アホウドリ類や大型ミズナギドリ類の半分以上が絶滅の危機にあり、地球上で最も危惧される動物であることから、公海での保全問題が特に懸念されます。海では漁具による怪我や死、海洋汚染、乱獲と気候変動のため餌となる魚の不足など、様々な危険に直面しています。
論文共著者であるバードライフ・インターナショナルのMaria Diasによれば、「漁業による悪影響は特に深刻です。これは、公海上では漁業活動のモニタリングも規制の順守もあまり行われていないためです。また、魚類以外では、公海における生物多様性の保全に取り組むための世界的な法律の枠組みがないのが現状です。」
例えば危機種(EN(絶滅危惧IB類))であるアムステルダムアホウドリは, 47%の時間ををインド洋の公海上で過ごします。繁殖地であるアムステルダム島(フランスの南方領土)では十分な保全活動が行われていますが、海における保全は大きな課題です。100羽以下しか残っていない成鳥が餌のイカを求めて海を旅する範囲は、南アフリカとオーストラリア間の広大な海域に及びますが、漁具によって命を落とす危険性を最小化するための国際協力が必要です。
この先に希望がないわけではありません。この国際的な研究自体が、海鳥がどのように国と国をつなぐことが出来るかという完璧な例です。バードライフの海鳥追跡データベースを通してのデータ共有に合意した、16ヶ国の研究者による国際共同研究は、最良のタイミングで実現しました。国連は今、公海における生物多様性の保全と持続可能な利用のための国際協定について話し合っているのです。
「私たちの研究は、アホウドリ類と大型ミズナギドリ類が、国境を超え、なおかつ信頼性のある保全活動を必要としていることを、明確に示しています。国連で議論されている協定は、これらの海鳥種がどこに飛んで行こうと保護する責任を表明できる、国々にとっては重要な機会なのです。」と論文の筆頭筆者である、ISPA(ポルトガルのリスボン大学)海洋・環境科学センターのMartin Bealは言います。
この協定の議論の対象となる、公海上での産業活動には環境影響評価を導入することなどの法的措置が、公海を生息地とする種に対する悪影響を大幅に軽減する可能性があります。
バードライフの海洋政策コーディネーターのCarolina Hazinは、この研究をより大局的な見地の一部と見ています。「いかなる渡りを行う種の保全でも、空間、時間、活動がバラバラになっていては効果的ではありません。この研究は国連が公海条約を採択する緊急性を強化し、結果的に、今後数十年間すべての自然を保全するというCBD(生物の多様性に関する条約)の野心的なグローバルな枠組みに貢献するでしょう。」
「見えないものは気にしない」という古いことわざは、黄金時代の海賊には役に立ちませんでした。そして、動物界の偉大な冒険者である海鳥に対しても、このことわざを使うべきではありません。
本研究論文Global political responsibility for the conservation of albatrosses and large petrelsはScience Advancesに掲載されました。
報告者:Jessica Law
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