合言葉「B」:生物多様性にあまり関心のない人々へ

生物多様性とはあなたにとって何を意味しますか?© Symonenko Viktoriia/Shutterstock

「生物多様性」、それは私たち人類を含め地球上のすべての生命を支える壮大なインフラです。しかし、今これが急速に失われようとしています。私たちは多くの人がなぜこの緊急事態にあまり関心がないのか、またなぜ今年が「プランB」にとって重要な年なのかを明らかにします。

信じられないほど複雑で、ただただ不可欠なものである生物多様性(biodiversity)という言葉には「生物学的多様性(biological diversity)」を短縮した以上の意味があります。1985年にThomas Lovejoyにより初めて創られたこの言葉は、実際に遺伝子のレベルから、異なる種や森林、湿地、サンゴ礁、砂漠など全ての生態系までを含む地球上の様々な生命を表現しています。また生物多様性は、新鮮な水からきれいな空気、薬品、降ったばかりの雨の匂いで感じる喜び、あるいは、建築資材や食料を売って得られる金銭まであらゆるものを提供する地球上のすべての生物の間の無数の相互関係を表します。もし生物多様性が提供する「生態系サービス」に価格を付けるならば、それは世界のGDPの2倍に当たる数兆米ドルになります。しかし残念ながら生物多様性の重要さは多くの人に理解されておらず、また認識されていません。そのこと自体が自然に向き合うに当たっての最大の脅威になりうるのです。

約100年にわたりバードライフは、鳥類の種の減少を実証して来ました。2018年度“State of the World’s Birds(仮訳:世界の鳥の現状)”では、鳥類の8種に1種が絶滅の危険にあることを示しています。これは恐るべき統計ですが、同時により広い問題の指標でもあります。今日私たちは既に「アントロポセン(人新世)」(人間が地球に大きな影響を及ぼすようになった18世紀後半以降を示す地学上の造語)に生きており、6回目の大絶滅期にあります。人類の影響はあまりにも大きく、絶滅率はバックグラウンド率(自然絶滅率)の100~10,000倍に達しています。人類の影響は地球の隅々にまで及んでいます。サンゴ礁の70%以上が危機的状況または既に破壊されています。

地球上の個々の動物種の個体数は1970年以後半減しています。両生類の40%以上、哺乳類の4分の1で絶滅が危惧されています。しかもこれは私たちが評価できた脅威だけです。生物多様性は私たちの復元力の鍵なのですが、既に栽培作物の遺伝的多様性の多くを失ってしまいました。病気や気候変動に耐える可能性のある遺伝子を含有している現代の米や麦の野生の近縁種は、今や絶滅の縁にあります。これに、生息地の農地への転換、土壌劣化、過剰消費、汚染などによる大規模な生物多様性へのダメージを合わせると、私たちは生物多様性喪失の観点からは引き返すことが出来ないところへ急速に向かっています。

現在「プラネタリーバウンダリー」(環境用語:地球の環境容量の限界点の意味)を越えた生物多様性の喪失が、地球の転換点と生態系の崩壊(すべてのサンゴ礁を白化させる海洋の酸性化、淡水湖から最上位の捕食魚を除去して藻類を蔓延させ、湖を不可逆的に毒の豆スープ状にしてしまうことなど)に導くものかどうかについての科学的な論議が行われています。生態系の急激な崩壊よりもむしろ、継続的な生命の浸食が生態系の機能の緩やかな喪失につながるという別の理論もあります。しかし、この時点では全てが同じ結果になります。私たちは間もなく地球の資源の4倍相当を使ってしまい、これは明らかに持続可能ではありません。どのように生きるかを変えなければならず、今すぐにやらなければなりません。

人類は生物多様性の危機を起こしてしまいましたが、それを解決することもできます。© Realstock / Shutterstock

CBD(生物多様性条約)の加盟国が、愛知ターゲットとして知られる20の生物多様性目標を含む2020年に向けての戦略的計画に合意をしたことから、2010年に国連は「生物多様性の10年」を宣言しました。「短期的な経済的利益を生物多様性の重要性よりも上位に置くという一部の政府とのいつもの争いはあるものの、良い意味での楽観主義的な感じもありました。」とバードライフの科学・政策・情報ディレクターのMelanie Heathは言います。「目標は明確です。それらは人々のニーズと持続可能な開発を補強しますが、実施するには資金と義務や責任が必要です。」

CBDに法的拘束力はありませんが、愛知ターゲットは保護活動にとって幸先の良いスタートだったはずです。バードライフは愛知ターゲットの進展度を測るための指標の5分の1を支えるデータを提供し、私たちの政策チームは各国が中間地点で動揺しているように思える時にも、より大きな投資を求めてCBD会議において強く訴えました。全ての既知の危惧種の絶滅リスクを減らすための必要な投資額は毎年40億米ドルであり、世界的に保全が重要な陸地サイトの保全と管理には毎年更に760億米ドルの投資が必要であるという推定値まで提供しました。その合計額は毎年のソフトドリンクの消費額の20%以下なのです。

現在幾つかの(間違いなく意欲的というには不十分な)愛知ターゲットへの進展はあります。少なくともその一部に対しては、例えばターゲット11の陸地で合意された17%に対して15%、海域のターゲット10%に対して4%の保全が2020年の最終期限に2年少々を残す現在行われています。しかし全体像としては、この状況は各国政府の失敗、不適切なコミットメントと優先順位付け及び不十分な投資の結果です。2020年以後の地球は文字通り同じ失敗を犯すことは出来ません。

「「生物多様性の10年」の最終年である2020年までに、世界の生物多様性は3分の2減少しているでしょう。」とCBDの事務総長Cristiana Paşca Palmer博士は言っています。彼女は2020年に北京で開催されるCBDの締約国会議(COP)で自然のための新しい世界的な取り決めを策定するという活動を主導する面倒な役割を担っています。「これまでにない率での破壊は、地球上の驚くほど多様な生命だけでなく、人類の発展と福祉の可能性をも危うくします。私たちには人が自然に関わるという方法でのパラダイムシフトを必要とします。生物多様性破壊の根本原因に取り組むための変革と体系的なアプローチが必要です。

おそらく問題は、何を言ったかではなく、どのように言ったかでしょう。「家が火事だ:気候変動対生物多様性のメディア報道と科学論文での比較における不一致」と題した2018年の新聞記事で、2002年以降気候変動に関するマスコミ報道の量は生物多様性の8倍に及んでいたことがわかりました。同紙は生物多様性の危機を伝える方法を変えることは、暗喩、文化、個人的経験、日常生活との関連などを利用して、私たちが必要とする変化を起こすのに十分な影響を持ちうると推奨していました。

「生物多様性の危機を伝える上での最大の問題は、「生物多様性」という言葉そのものにあります。」と、バードライフによって開催された最近のCBDとケンブリッジ自然保護イニシアティブ(CCI)のワークショップでRichard Blackは述べました。David Attenboroughが、「生物多様性」よりも「自然」や「生命」という言葉を使っているのを聞いたことがあるかと思いますが、「生物多様性」が国際政治の場で選ばれた言葉です。多分「Bの付いた語」は専門技術的、疎外的で、別の問題を表しているのでしょう。

「話の文脈の中で使われない場合、事実や数字はそれ自体ほとんどの聞き手にとって説得するツールとしては、驚くほど非効率的です。」とコミュニケーション・コンサルタントで前RSPBスタッフのRalph Underhillは言っています。「人は客観的でも合理的な存在でもありません。科学者を含め私たち全員に影響を与えるのは、ユーモアや話と言った感情的な結びつきです。」Underhill氏は、私たちが使うことができる言葉がいかに広い範囲で相乗効果を与えるかを説明した有益な作品Framing Nature Toolkitの著者でもあります。

人と自然の関係を示すべン図 / 上から:始原期、初期農業、産業化時代、現在

「ある実験で、参加者に二つの異なる暗喩を使ってある犯罪問題が提示されました。犯罪を描写するのに「野獣」が使われた時には参加者はより重い罰での対応を好みましたが、犯罪が「ウイルス」として示された被験者は社会復帰を好みました。全ての言葉が私たちの中にある種の信念や関連性を引き出すので、問題がどのように提示されるかによって私たちが思いつく解決策が変わって来るでしょう。」と彼は言います。これは自然に対しても同様です。あまりにも脅威が強調されると人々は意気消沈し、運命論者になってしまいます。「問題を明らかにすることは必要ですが、それに取り組んだ成功例も必要で、人々はやれば出来ると感じ、行動を促されるのです。」

多分CBDのスローガンは‘地球上の我々の生命を守る会議’と再構成するべきでしょう。実際のところはそれほど(面倒なくらい)明確にする必要はないのですが、今日公の精神には自然と人間の間に意識的な隔たりがあり、大多数の人はどれほど生命の網に依存しているかに気付いていません。一例として私たちの自然との関係を強調し、自然がいかに素晴らしいものかを強調する必要がありますが、これまで見たように、この問題はスローガンを超えるものなのです。

私たちには「プランB」が必要です。Paşca Palmerはワークショップの基調演説で宣言しました。「私たちは自然保護を超えなければなりません」。自然保護はもはや科学の分野だけのものではなく、社会科学者、心理学者、芸術家、エコノミスト、ジャーナリストの運動であるべきなのです。今必要なのは、システム自体を変えるような大きな行為の変化です。パリ気候協定への支援を獲得した規模を上回る巨大キャンペーンには二つの分野、即ち、公衆のための感動と政策のための証拠が必要です。

「去年の11月のエジプトでのCBDの締結国会議で始まり勢いが続いていることから、バードライフ・パートナーは愛知ターゲットに到達するべく政府による急速な進展を強く主張しています。私たちは全員が持っている野心的でしっかりとした2020年以後の生物多様性保全の課題を守るために頑張っており、それは絶対により効率的でなければなりません。」とMelanie Heath は言います。気候変動には政府にとって理解できる非常に明確な目標があります。平均気温が1.5℃上昇してはならないのです。生物多様性にも同様な目標が必要なのでしょう。大衆の反応が脅威の規模に比例し、それが選挙にも影響を及ぼすことが必要です。これは新たな物語、新たなインセンティブ、新たな政策、新たな経済モデルを意味し、敢えて言うなら「合言葉B」に代わるものです。

私たちが守ろうとしているたった一つの言葉「生物多様性」(人類も含む)を捉えられないとしたら、私たちは心の中でそれを感じていないのです。過去に人類の文化は説明のつかない感覚を表すためにしばしば芸術や創造性や感性に転換しました。今私たちは生物多様性の利益と驚異は文字通り言葉を越えています。ですからそれらを守るためのキャンペーンを新しくしなければなりません。期限は2020年です。

報告者:Shaun Hurrell

 

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